合成に先立ち、スーパーコンピュータを用いた量子化学計算によって、メビウスカーボンナノベルトにかかるひずみエネルギーの定量的な解析が行われた。環状の分子ナノカーボンは、小さいほど合成の段階数が少ないものの、反応の難易度が上がることが知られている。
カーボンナノベルトは、ベンゼン環12個のものが最小の分子として合成できているが、メビウスカーボンナノベルトは、ひねりによってひずみがさらに大きくなるため、ベンゼン環38個以上が必要であると推定されたという。
その計算結果をもとに、研究チームはメビウスカーボンナノベルトの合成に挑戦。市販の有機分子フェナントレンを左右非対称に修飾する手法を新たに開発することで、逐次的に炭素鎖を伸ばしていく合成手法が可能になり、既報の分子から合計14段階の有機合成を経て、ベンゼン環50個からなるメビウスカーボンナノベルトの合成に成功したという。
また、類似の手法で、ベンゼン環30個からなるメビウスカーボンナノベルトの合成も試みられたが、目的物質が得られなかったとのことで、これらの結果から、計算科学による推定がある程度妥当であったことが示唆されるとしている。
さらに、合成されたメビウスカーボンナノベルトからは、メビウスの輪の形状に由来する特異な性質が観測されたという。核磁気共鳴測定から、メビウスカーボンナノベルトに存在するひねり部分は分子全体をすばやく移動しており、全体として平均化された磁気的性質が観測されたとする。
分子動力学シミュレーションにおいてもこの性質が再現され、ベルト状にも関わらず、裏表の区別のない分子であることが確認されたとするほか、メビウスの輪はキラリティを持つことが知られており、メビウスカーボンナノベルトについても、右ひねりと左ひねりを実際に分割し、それぞれの紫外可視吸収の円二色性が確認されたという。
なお、今回の研究成果は、複雑なトポロジーを持った分子ナノカーボンの合成手法として革新的だと研究チームでは説明しており、今後、さまざまな複雑でひずみを持ったナノカーボン構造の精密構築に応用することができ、有機合成化学ならびに材料科学の発展に寄与することが期待されるとしている。