ドワンゴは23日、「ゆっくり茶番劇」を第三者が商標登録した件について記者会見を開催。「ゆっくり茶番劇」の商標権者に対して商標権の放棄を交渉し、放棄に応じない場合は無効審判を請求するなど、同社の対応として『4つのアクション』を実施すると発表しました。
ドワンゴが「ゆっくり茶番劇」商標取得者と放棄交渉へ
5月15日、YouTuberの柚葉氏が「ゆっくり茶番劇」という文字商標を取得したことを突如明らかにし、『商標を使用する場合は年間10万円(税別)を請求する』と発表。その後、同氏は17日に使用料(ライセンス契約)が不要になること、ただし権利は存続することなどを一方的に主張しています。
ドワンゴでは「当該人物(柚葉氏)はその後、商標を用いても請求を行わないと発言していますが、当該商標は保持されたままであり、いつでも前言撤回できる状態が続いています」と説明。そこで23日、メディアに向けて記者会見の場を設けました。
ドワンゴでは多くのクリエイターが安心して創作を続けられるよう、4つのアクションを実施します。
- 1. 「ゆっくり茶番劇」商標権の放棄交渉
- 2. 「ゆっくり茶番劇」商標登録に対する無効審判請求
- 3. 使用料を請求されてしまった方への相談窓口の設置
- 4. 商標登録による独占の防止を目的とした商標登録出願
ドワンゴ「商標は動画の投稿にほぼ影響ない」
登壇したドワンゴ専務取締役COOの栗田穣崇氏は、ゆっくり茶番劇という商標が、投稿動画に与える影響について、限定的であるとの見解を示しました。
「まず、ゆっくり茶番劇は特許庁に登録された商標です。しかし、その効力は限定されており、ほとんどのゆっくり動画には影響しないと考えます。商標とは、自分の商品と他人の商品を区別するための目印。ですので、インターネット上での映像について、投稿者名、チャンネル名、動画タイトル名ではない『動画説明文』や『動画のタグ』に商標権の効力はおよびません。
また、投稿者名、チャンネル名、動画タイトルにおいても、『ゆっくり実況』や『ゆっくり劇場』など、ゆっくり動画で使われているほとんどの文字列は『ゆっくり茶番劇』とは類似しない文字列であり、当該商標権の効力がおよばないものと考えております」(栗田氏)
そして、「ドワンゴではゆっくり動画で使われている文字列を調査し、362種は明確に類似しない文字列であり、残る3種についても(商標権が類似であると主張する可能性はあるものの)ドワンゴとしては類似しない文字列だと考える、との見解に達しました。さらにゆっくり茶番劇場という文字列についても、動画のジャンルやカテゴリとして使用する場合には、当該商標権の効力がおよばないところだと考えております」とも付け加えました。
つまり、「ゆっくり茶番劇」が商標登録されていても、ほとんどの投稿動画については影響がなく、これまで通りに動画を投稿してもらっても問題がない、としています。
しかし、「これだけでは十分に安心して創作できる状態ではない」と栗田氏。請求を行わないと発言している柚葉氏が、いつ前言撤回するか分からず、また商標権者になりすました(悪意を持った)第三者が、動画投稿者に金銭を請求する事態も予想されるためです。
「ゆっくり動画を制作している動画投稿者の方は若い方も多く、例えば中学生ながら人気クリエイターとなっている方もいらっしゃいます。商標権者になりすました人物が、1万人のクリエイターに対して金銭を要求するメールを送れば、不安や恐怖を感じ、争うことを苦手とする方が(法律上を支払う義務がないにも関わらず)金銭を支払ってしまうかもしれません」(栗田氏)。
そこでドワンゴは本問題に関して4つのアクションを行うに至りました。内容については既述の通りです。
「弊社としては、ゆっくり茶番劇という言葉は、小説におけるライトノベル、テレビ番組における連続ドラマと同じように、インターネット上の動画のジャンルを表す言葉であって、特定の作品の出生を示す商標ではないと考えております」(栗田氏)
東方原作者のZUN氏も承諾、クリエイターコミュニティを守る対応
ドワンゴでは、動画を投稿したことによって使用料を請求されてしまったクリエイターに向けて、無償の相談窓口を開設。請求書の内容によっては、警察や法律事務所など適切な窓口を紹介していくとのこと。
またドワンゴでは「商標登録による独占」の防止を目的とした商標登録出願を行います。これは同社が権利を行使するためではありません。特許庁に商標登録されなければ、誰も商標登録を取得できないことが明らかになります。また商標登録がなされた場合も、ドワンゴでは将来にわたって一切の権利行使をしないことを約束する、と説明しました。
栗田氏は「以上の取り組みは、東方Project原作者のZUNさんにもご承知を頂いております。詳細については弊社Webリリースをご確認ください」と、ゆっくり茶番劇の源流である東方Project原作者のZUNさんとも連携をとっていることを明言。そして、次のような言葉で場を締めくくりました。
「コミュニティが築き上げてきた名称が商標登録されることによって、クリエイターが安心して創作できる環境が害されている現状を弊社は大変、残念に思っております。今後とも関係各所と連携を図りながら、すべての方が安心して創作できる環境を守っていきます」(栗田氏)