パナソニックは、純水素型燃料電池を活用した実証施設「H2 KIBOU FIELD」を稼働しています。エネルギーの地産地消を目指し、滋賀県草津市にあるパナソニックの燃料電池草津工場の電力を100%、太陽電池と蓄電池、水素燃料電池だけでまかなう新たな取り組み「RE100ソリューション」の一環です。
現在、パナソニックは2050年に向けて、世界のCO2総排出量の「約1%(約3億トン)」削減を目指す取り組みを「Panasonic GREEN IMPACT」と名付け、アクションを積み重ねていくとしています。 そのひとつが、 2つの拠点に設置された実証施設「H2 KIBOU FIELD」です。
「世界のエネルギー動向や社会課題に対応するため、分散型社会への移行が必要だと考えています。『RE100ソリューション』はその実証です」(パナソニック エレクトリックワークス社 加藤正雄氏)
加藤氏が語るパナソニックの目指す分散型社会とは、エネルギーの地産地消です(電気を使う場所にて、電気を作って消費すること)。電気は送電ロスがあり、自然エネルギーは不安定です。水素を活用することで、これを実現できます。
不安定な太陽光発電を水素と蓄電池で補う
冒頭で述べたように、「H2 KIBOU FIELD」は燃料電池工場の稼働に必要な電力を100%、再生可能エネルギーでまかなう取り組みの実証施設。燃料電池工場のピーク電力は約680kWです。「H2 KIBOU FIELD」には、約570kWの発電能力を持つ1,820枚の太陽光パネルと、合計495kWの発電ができる純水素燃料電池、約70,000Lの液体水素を保存する水素タンク、そして約1.1MWhのリチウムイオン蓄電池を配置しました。
3つの電力(太陽光・純水素燃料電池・リチウムイオン蓄電池)を連携させ、さらに需要パターンや天気予報などから、EMS(エネルギーマネジメントシステム)が発電計画を立てます。このように運用することで、遠くの発電所から運ばれてくる電力を使うことなく、工場を稼働させる実証です。
「消費するところの近くで水素から電気を生み出し、CO2排出ゼロの発電所を作っていくことを推進していきます」(加藤氏)
基本となる電力は、純水素燃料電池と太陽光発電です。しかし、自然エネルギーの太陽光発電は、曇りや雨の日は発電量が落ち、夜間は基本的に発電できません。太陽光パネルは 設置面積の課題もあります。
加藤氏によると、燃料電池工場の屋根に太陽光パネルを設置しても、使用する電力の約20%しか発電できず、RE100は達成できないそうです。そこで重要となるのが水素というわけ。ベースの電力は純水素燃料電池で発電し、工場がフル稼働する日中ピークタイムの電力は太陽光発電、および太陽光発電の余剰電力を貯めた蓄電池から供給します。
「自然エネルギーは便利ですが非常に不安定です。その変動を調整し、インフラを安定させる必要があります。水素はロスなしに水素の状態で運ぶことができ、変動を抑制できます」(加藤氏)
このシステムの中心となるのが「5kW純水素型燃料電池 H2 KIBOU」(2021年10月発表)。家庭用の燃料電池コージェネレーションシステムとして、累計20万台の生産実績がある「エネファーム」のコア技術を活用して開発した燃料電池です。
エネファームはガスを分離して水素を取り出しますが、「5kW純水素型燃料電池 H2 KIBOU」は直の水素を利用するため、機構がシンプルで小型化ができるとのこと。業界最高となる56%の発電効率を持ちます。
加えて、「5kW純水素型燃料電池 H2 KIBOU」は複数台を連結して出力アップが可能。「H2 KIBOU FIELD」では99台も連結しており、太陽光パネルでは考えられないほどの省スペースで495kWの高出力を得ています。
「純水素型燃料電池を活用することで、太陽光発電だけでは成し得なかった『RE100ソリューション』を実現できました」(加藤氏)
純水素型燃料電池を稼働させるための水素は、岩谷産業から仕入れています。タンクローリーで水素を運び、月に3~4回、水素タンクに充填。この水素を蒸発器で液体からガス化させ、水素ガス配管を通って純水素型燃料電池に供給します。
RE100ソリューションをグローバルに展開
パナソニックは、この純水素型燃料電池を活用した「RE100ソリューション」を日本国内で実証を重ねていくとともに、2023年以降は中国や欧州などで展開することを考えています。まずは、草津拠点の「H2 KIBOU FIELD」を1年間しっかりと運用し、完成度を高めていくとのこと。
とはいえ、「RE100ソリューション」にも課題があります。その一番は水素のコストと製造方法です。 現在、水素の価格は1立方メートルあたり約100円と、生成するエネルギー(電気)と比べて非常に高価。日本政府は国のエネルギー戦略の中で、水素の価格を2030年には約30円まで引き下げることを目標としています。それでもまだ化石燃料による発電よりも割高です。今後は水素コストの低減が重要な要素になりそうです。
そしてもう一つ、現在使われている水素が化石燃料を使って取り出した「グレー水素」だということ。水素を生成する時点でCO2が発生しているため、厳密なCO2ゼロとはいえないのです。
「水素に関しては、作る・運ぶ・活用する――、これらが同時に進むことが重要だと思っています。我々はまず、活用するところから始めます。水素のグリーン化が進んだらそれを使ってグリーンな電気を作りたいと考えています」(加藤氏)
純水素型燃料電池、太陽光、蓄電池を組み合わせてCO2排出ゼロを実現する「RE100ソリューション」は、新しい発電の形です。ただし、「5kW純水素型燃料電池 H2 KIBOU」は、設備、システム、工事のすべて合わせて10数億円の費用がかかったそう。この製造コストに関しても「1桁億円にはしていきたい」(加藤氏)としています。
「RE100ソリューション」自体は、さまざま施設で導入可能。想定しているのは草津工場のような大規模の工場・店舗、スマートコミュニティや自治体、データセンターや携帯電話の基地局などです。まずはパナソニックの社内グループ工場を皮切りに、顧客の要望や場所、規模にあった「H2 KIBOU FIELD」を作っていくとしています。
4月15日に草津拠点で行われた開所式には、パナソニック ホールディングスの楠見雄規社長、滋賀県の三日月大造知事などが参加。脱炭素社会実現を目指す上で欠かせない、純水素型燃料電池を活用した新しい発電の形に期待が高まっています。