日産自動車が軽自動車の電気自動車(軽EV)「サクラ」を2022年夏に発売する。補助金を使えば実質購入価格が約178万円からという日産の新型EVだが、コスト重視の軽自動車ユーザーにとって最適なクルマとなるのか。一足早く試乗し、商品性を探ってきた。
「デイズ」とは別物
サクラのグレードは価格の低い順に「S」(233.31万円)、「X」(239.91万円)、「G」(294.03万円)の3種類。クリーンエネルギー自動車導入促進補助金(軽EVは上限55万円)を使えば、Sの価格は約178万円からとなる。
- 日産「サクラ」の主要諸元
バッテリー総電力量 | 20kWh |
最高出力 | 47kW |
最大トルク | 195Nm |
最高速度 | 130km/h |
航続距離(WLTCモード) | 最大180km |
充電時間(バッテリー残量警告灯点灯位置~100%) | 普通充電8時間、急速充電約40分 |
ボディサイズ | 全長3,395mm、全幅1,475mm、全高1,655mm、ホイールベース2,495mm |
車両重量 | 1,070kg(Gは1,080kg) |
荷室寸法 | 107L |
乗車定員 | 4名 |
サクラは日産の軽自動車「デイズ」をベースとするクルマだが、見た目からも乗った感じからも全く別のクルマのような印象を受けた。デイズのガソリンターボ車と比べると、サクラの最高出力は47kWで同等、最大トルクは約2倍の195Nm。発進時の瞬発力も50~60km/hあたりの加速力も、全く別次元だ。当然だがサクラであれば、強めに踏んでもエンジンの唸り声が聞こえてくることはない。坂道でも静かに登っていける。軽自動車とは走りが全く違うし、速いとさえいえる。
サクラにはEVならではの走りが楽しめる「e-Pedal Step」という機能が付いている。同機能を作動させると、アクセルペダルの踏み戻しだけでクルマの加減速のかなりの部分をまかなえるようになる(ただし、停止まではしない)。ペダルを戻した時の減速の強さは車速によるので、慣れてしまえばガクンガクンというぎこちない挙動になることもないはず。加減速を繰り返す場面などでは本当に運転が楽になる。
軽ユーザーの使い方にフィットする?
サクラの航続距離は180kmということだが、大概のEVは実際のところ、カタログに書いてあるより走行距離が短い。そうすると、少し不安になってしまうサクラのバッテリー容量ではあるが、通勤や買い物がメインの使い道であれば、走行距離が100kmを超えるようなことはめったに起こらないのではないだろうか。サクラ1台で往復200kmの旅行も日常生活もすべてをまかないたい、という人にはちょっと厳しいと思うが、自宅で充電ができて、めったに100km超は走らないという人であれば、サクラがばっちりはまると考えられる。
そういう使い方の人は、上級グレードを選ばなくてもいいかもしれない。サクラの「G」グレードには「プロパイロット」や「EV専用NissanConnectナビゲーションシステム」などが標準装備となる。ただ、プロパイロットは高速道路や自動車専用道路で真価を発揮するものなので、軽で高速はほぼ走らないという人には、そこまで重要な機能ではない。軽を日常生活で使っているので、立派なナビは必要ないという人もいるはずだ。
サクラの「X」グレードは239.91万円(補助金55万円を引くと184.91万円)。デイズのガソリンターボ車は「ハイウェイスターGターボ」の164.89万円から。EVは電気代VSガソリン代の差でランニングコストが抑えられるし、エンジンオイルの交換は不要で、ブレーキパッドの減りもガソリン車に比べると遅いと聞く(回生ブレーキがあるので)。デイズのノンターボが相手だと難しいかもしれないが、ターボ車であればそのうち、元が取れるのではないだろうか。あるいは元が取れなかったとしても、EVの力強く、静かで、低重心な走りには金額には換算できない価値があると思うし、自宅か職場で充電できるとすれば、給油のために出かけたり立ち寄ったりする必要がなくなるので、その分だけ気が楽にもなる。
いろいろなEVに乗ってみたが、EV化の恩恵を最も多く受けるのは軽自動車なのではないかという気がする。軽でほぼ遠出をしないし、自宅に充電環境を整備できるという人であれば、次に買う軽をEVにしてみるのは大いにアリなのでは。少なくとも検討リストには入れてみていただきたい。