三菱自動車工業が軽自動車の電気自動車(EV)「eKクロス EV」を2022年夏に発売する。軽自動車「eKクロス」の新たな選択肢という位置づけだが、ガソリンエンジン車とEVで走行性能やランニングコストはどう違うのか。クルマとの付き合い方も変わるのか。考えてみた。
燃料(電気)代は半額近くに?
軽自動車の最新EVが、日産自動車と三菱自動車工業からいよいよ発売となる。事前の告知通り、EV購入補助金を活用すると価格は200万円を切る。三菱自は軽乗用EVをSUV的な外観で人気を得た軽自動車「eKクロス」の選択肢のひとつと位置づけ、車名も「eKクロス EV」とした。
外観はガソリンエンジン車とほとんど変わりない。グリル下のバンパーなど装飾がやや異なるほか、フロントフェンダーとドアの境目に「EV」のロゴが付く程度の違いだ。
eKクロス EVのグレードは「G」(239.8万円)と「P」(293.26万円)の2種類。令和3年度補正予算「クリーンエネルギー自動車・インフラ導入促進補助金」・令和4年度「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金」の55万円を引くと、Gの実質購入金額(最大、目安)は184.8万円となる。ちなみに、eKクロスの価格は約146万円~168万円からだ。
eKクロスのガソリンターボ車とeKクロス EVの走行性能を比べると、最高出力は47kWで同じ数字だが、最大トルクはEVが195Nmでガソリンターボ車の2倍近い性能を備える。
次に、ガソリンターボ車の燃料代とEVの電気代を試算してみる。WLTCの燃費で25.2km/Lのガソリンターボ車は、1km走るのに約0.04リッターのガソリンを必要とする。ガソリン価格の高騰を踏まえ、レギュラーガソリンの価格を仮に167円とすると、1kmあたり6.68円かかることになる。
これに対しEVは、WLTCで1km走行あたり124Whの電力を必要とするが、電気料金を東京電力管内でもっとも高い30円で試算しても1kmあたり3.72円で、半額近くになる。
この先、ガソリン価格が下がることはあまり期待できない。EVは購入にかかる費用こそガソリンターボ車との比較で割高となるものの、日常的に必要になる燃料代(EVでは電気代)の経費はかなり抑えられる。
また、保守管理についても、EVの方が安上がりになる可能性は高い。EVになるとエンジンオイルの交換が不要になり、ブレーキパッドの消耗も少なくなる。減速にモーターによる回生の働きを利用できるからだ。
ことに、日常的にクルマでの移動が必要な地域では、生活費に組み込まれるクルマ関連費を抑えられることによる嬉しさを実感できるのではないだろうか。
EVを充電するための普通充電コンセント(200V)が設置可能な住環境であれば、充電のためにどこかに立ち寄ったり、そのために出かけたりする必要もなくなる。アパートなどの集合住宅に住む場合でも、最寄りの販売店や立ち寄り先となるスーパーマーケットなどに充電設備の整備が進めば、あまり不便を感じずに済むかもしれない。手ごろな価格となった軽乗用EVの普及は、社会の意識を変える潜在能力を持つと考えられる。
日本では急速充電器の数が話題にのぼりやすいが、実は、軽乗用EVのような日常的に使うクルマの場合は、立ち寄り先や勤務先で200Vの普通充電器の整備が進むことの方が重要だ。買い物をしたり仕事をしたり、何か用事を済ませる間に少しずつ充電する方が、バッテリーのためにもよい。これはスマートフォンなどのリチウムイオンバッテリーも同様で、電気を使い切ってから満充電にするのではなく、コンセントがある場所で少しずつ充電をすることが長持ちの秘訣なのである。
こうした軽乗用EVの使い方が可能になれば、ガソリンスタンドに立ち寄る必要がなくなる。この点に安堵感を覚える人もいるのではないか。セルフサービスのガソリンスタンドで給油をすることに抵抗のある人は、案外多いと聞く。ガソリンを扱うのに不安であったり、ガソリンのにおいが嫌いであったりするためだ。あるいは、店員からエンジンオイル交換や添加剤などを薦められ、断るのに苦労するといった気遣いからも解放されるかもしれない。
EVであれば、日々の暮らしを支える軽自動車をもっと気軽に利用できるようになるのだ。
乗り心地が向上、疲れも少なくなる?
走行性能については、モーター駆動によってガソリンターボエンジン車以上に力強い走りを体感できるだろう。最大トルクが2倍近いことが裏付けになる。
また、ガソリン車に比べ200kgほど重くなる車両重量によって、乗り心地は格段によくなる。軽自動車特有の細かい振動が抑えられるからだ。当然、モーター駆動となるので静粛性も高い。かつて、三菱「i-MiEV」(アイミーブ)で長距離ドライブをしたことがあるが、軽自動車という感触はほとんどなく、より上級の車種で移動しているような乗り心地で、疲労も少なかった。軽自動車とはいえ、EVになると移動の疲れも軽減されることになる。
EVの利便性は、これまでもさまざまに語られてきた。しかし、最低でも400万円前後からという価格では、自分のこととして考える気持ちになれなかった方もいるかもしれない。しかし、200万円を切る値段で手に入るなら、一度は考えてみてもいいのではないか。
三菱自動車の社内でも、社員の購入希望や検討が増えているようだ。三菱自が2009年に、世界初の量産市販EV(しかも軽自動車)としてi-MiEVを発売したとき、その価格は400万円以上した。それから13年を経て、軽自動車としての価値に見合う価格までEVは値下がった。
EVに乗ってみると、軽自動車に対する印象が一変するほどの驚きと喜びを感じられるはずだ。日本に生まれ、日本特有の便利で利用価値の高い軽自動車にEVが加わることは、世界に誇れる出来事なのだ。
まずは店に出かけて、eKクロス EVに乗ってみていただきたい。目から鱗が落ちるとは、まさにこのことであるはずだ。