UPy腱ゼラチンゲルの温度依存的な粘弾性が評価されたところ、体温(37℃)でのせん断貯蔵弾性率は830Paであり、UPy未修飾の腱ゼラチンの5.8倍であったほか、UPy腱ゼラチンのゾル-ゲル転移温度は40.0℃であり、体温で安定なゲルを形成することが確認されたとする。
続いて、ブタ大腸組織外膜に対する接着剤の組織接着性の評価が実施されたところ、加温によって低粘性液体となったUPy腱ゼラチンが組織の凹凸に浸透し、その後体温まで温度が低下することでゲル化し、組織同士が強固に接着することが判明したという。
UPy腱ゼラチンの大腸組織に対する接着強度は、皮ゼラチンの4.2倍、腱ゼラチンの2.1倍であり、高い組織接着性を有していることが示されたが、研究チームでは、UPy腱ゼラチンは、UPy基数の増加によって分子間水素結合が増強され、ゾル-ゲル転移温度が上昇し、体温での高い機械強度と組織接着性が示されたことが考えられるとしている。
さらに、一旦大腸組織に接着させ、体温である37℃までゲルの温度を低下させたところ、ほかの組織に対する接着性が失われることも確かめられており、癒着防止材として有用であることが示されたほか、ラット皮下への埋植試験において、接着剤が数日以内に体内で分解・吸収されることが確認されたとする。
加えて、ラット盲腸-腹壁癒着モデルを用いて、癒着防止能の評価として、ラットを麻酔下で開腹して腸および腹壁に擦過傷が作製され、45℃に加温した接着剤を創部に塗布、閉腹することでモデル作製が行われた後、2週間後にスコアリングおよび組織学的表によって癒着が評価されたところ、未処理群ではほとんどのラットにおいて癒着が確認されたのに対し、UPy腱ゼラチンで処理した群では癒着が観察されなかったという。これらの結果から、ゾル-ゲル転移温度を制御したUPy腱ゼラチンは、ホットメルト組織接着剤として術後癒着の防止へ応用できることが示されたとする。
高い組織接着性と生体適合性を有する今回開発された接着剤は、癒着防止材や止血剤、創傷被覆材など、さまざまな医療機器へ展開することが可能だとするほか、低分子薬、生物学的製剤、細胞などの医薬品との複合化も容易なため、新たな医療シーズの創出への波及効果が期待されると研究チームでは説明しており、今後は、前臨床試験および生物学的安全性試験を行い、実用化に向けた研究開発を進めていくとしている。