Tomo-e GozenとNICERは秒スケールの高速観測が可能という共通の特長がある。2020年9月14日に取得した約500秒の光度曲線では、可視光(Tomo-e Gozen)、X線(NICER)の変動が同期していることが明確に示され、このようなX線と可視光の明るさの変動の高い相関が矮新星SS Cygに検出されたのは今回が初めてだという。
「急激な光度の変動」(ショット)が見られる領域を抜き出し、可視光とX線の間の遅延時間が測定されたところ、相関の高いショットのほとんどが正の遅延を示しており、これは可視光がX線に対して遅れて変動していることを表しているとする。また、遅延の長さは1~2秒付近に集中していることが確認された。これまでの矮新星の研究では、このようなサブ秒スケールの時間分解能で可視光とX線の相関や遅延を捉えた例はなく、今回初めて短時間で変化する降着円盤の姿を捉えることに成功したという。
今回検出されたX線に対する可視光の変動の遅延は、SS Cygの中心(白色矮星の位置)から降着円盤の外縁まで光が伝播する時間とおおよそ一致するとのことで、研究チームでは、中心付近の高温ガスから放射されたX線が降着円盤および伴星の表面を照射、加熱し、それに伴う可視光の再放射の効果によるものと推測できるという。
なお過去のSS Cygの観測では、今回のようなX線と可視光の明るさの変動の高い相関は検出されていないかったとのことで、今回のX線と可視光の明るさの変動の高い相関の発見は、何らかの原因でSS Cygの高温ガスの分布が最近になって幾何学的に厚く拡大したため、周囲の降着円盤や伴星を広く照らせるようになったことが示唆されているとしている。
これまでの矮新星の研究では、望遠鏡に搭載された撮像装置で空間分解できない幾何学構造に制限を付けるためにX線スペクトルの解析を行うのが一般的だった。それに対して今回の研究では、可視光とX線の光度変動の解析から降着円盤の幾何学構造に制限を付けることに成功した形となるとしているほか、X線と可視光の高速同時観測という新しい手法は、矮新星だけでなく降着円盤天体の幾何学構造、および光度変動の起源とメカニズムの解明に広く波及すると期待されるという。また、今後はX線と可視光の2バンドだけでなく、さらに多波長に拡張して高速同時観測を行うことで、降着円盤のより詳細な構造の解明につなげていく計画としている。