各国における男女格差を数値化した「ジェンダーギャップ指数」。世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)が毎年公表しているこの指数を見てみると、2021年3月時点で日本は156カ国中120位となっている。特に、経済活動分野における男女格差は大きく、管理職や経営層への女性登用の低さ、男女間の賃金格差や雇用形態の違いが指摘されている。

こうした状況下で2006年と2016年に会社を創業し、現在もFinTech領域の第一線で活躍しているのが、STOCK POINT 代表取締役社長 土屋清美氏だ。イノベーティブな女性経営者として数々の賞を受賞する土屋氏は、「スキルや能力に男女差はないように思う。若い女性たちがこれからどんどん活躍していけば、将来的には管理職や経営層の女性比率も増えていくのでは」と展望する。

今回は土屋氏に、起業の経緯、仕事と子育てを両立するうえで大切にしてきた考え方を聞いた。

  • FinTech領域の第一線で活躍している、STOCK POINT 代表取締役 土屋清美氏

    FinTech領域の第一線で活躍している、STOCK POINT 代表取締役社長 土屋清美氏

ポイント数が株の値動きに連動する「STOCK POINT」、アイデアの源泉は?

土屋氏が現在代表を務めるSTOCK POINTは、株価連動型のポイント運用サービスを開発・運営するスタートアップ企業だ。同社が提供する各サービスは、社名のとおり「STOCK=株」の値動きに連動してポイント数が変化するというアイデアがもとになっている。消費者としてはポイントのままで投資・運用できるため、現金不要で証券会社に口座を開くことなく気軽に投資体験の機会を得ることができる。一方、ポイントサービスの新しい価値を生み出せる場として、最近では企業側からの注目度も高まっている。2022年1月末時点でのSTOCK POINT運用ユーザー数は約50万人。STOCK POINTは、各企業との連携を進めながらさらなるサービス拡大を目指しているところだ。

STOCK POINTのアイデアは、土屋氏が2006年に創業したSound-F(現Sound-FinTech)での経験から生まれた。土屋氏は、Sound-Fで大手金融機関に対して金融ITコンサルティング・システム開発事業を手掛けるなか、金融機関が抱えているある1つの課題に直面した。それは、「『投資』という考え方が一般消費者になかなか広まっていかない」というものだ。

「少子高齢化で年金支給額が引き下げられたり、日本経済の先行きが不透明感を増したりするなか、将来に不安があるはずなのになぜか一般の人は投資に動こうとしない。それは、『難しい』『面倒』『損をするかもしれない』『騙されるかもしれない』といった投資に対するネガティブなイメージがハードルになってしまっているためだと考えました。そのハードルを取り去るための方法として、ポイント運用というアイディアを思いついたんです。対価を払わずおまけでもらえるポイントであれば、まずは気軽に試してみようと思う人が増えていくのではないか、という仮説を立てました」(土屋氏)

当初はSound-Fの新規事業としてスタートしたが、自身のアイディア実現により専念したいという思いから、土屋氏は同社を売却し、現在はSTOCK POINTの経営に注力している。

  • ポイント数が株の値動きに連動する「STOCKPOINT」アイデアの源泉は?

女性が働くことに対して、家族や子どもに後ろめたさを感じる必要はない

土屋氏は、もともと起業家を目指していたわけではなく、自身の興味を突き詰めるなかで「自然とそうなってしまった」のだという。大学では原子炉分野の研究に取り組み、新卒でメーカーへ就職。次に転職した電通国際情報サービスで、SEとして金融関連の業務に携わるようになる。その後、当時の仲間が立ち上げたベンチャー企業の創業期にジョイン。金融系情報サービスの提供会社として一から組織が大きくなっていく姿を目の当たりにした。この経験が、自身の経営にもいきているという。Sound-Fの創業は、より幅広い視点で金融系の情報やサービスを提供したいという当時の土屋氏の思いが原点にある。

精力的に仕事に取り組む一方、プライベートでは二児の母として子育てを経験している土屋氏。「その瞬間に使える時間は限られているので、目の前のことに集中して取り組むようにしてきた」と振り返る。育児は、完璧を目指さず、夫や父母、シッターなど「頼れる人に頼る」「使えるものは使う」という考え方を大切にし、自身の子どもにも幼少期から自律を促した。

こうした土屋氏の価値観に影響を与えたのは、高校時代の体育教師の言葉だったという。当時、「女性が仕事をもって働くことは、子どもや家族にとって迷惑なのか」という議論をした際に、「仕事をして家計を支えているのだから、そんなことは一切考える必要はない。子どもとも対等な関係になるべき。後ろめたい気持ちを持たずに堂々と仕事をしなさい」と教えられたのだという。

「昨今では、女性活用の機運が高まっており、会社の制度としても、女性が活躍できる場面が増えてきています。そうした機会や制度に対して、『女性だけが優遇されている』という声もあるかもしれませんが、自分のやりたいことがあれば耳を貸さず、自ら手を上げてどんどん利用していけば良いと思います。

一方で、女性に限らず、無理は禁物です。仕事は長く付き合っていくものなので、ワークライフバランスも考慮しつつ、自分自身と対話しながら無理なくやれる方法を探していくことも重要ではないでしょうか。一時的に無理をすることが必要な時期はあっても、それがずっと続けられるわけではありませんから」(土屋氏)

「頼れる人に頼る」ことでビジネスも上手くいく

「頼れる人に頼る」という考えは、子育てだけでなく、自身の仕事にもいきているという。

「私はロジカルにストーリーを組み立てることが得意ですが、ときに人の気持ちがわからず視野が狭くなってしまうことは自分の課題だと思っています。ビジネスは複雑な人間関係のなかで動いているので、ロジックではないところで上手く進まなくなってしまうこともあります。そういうときには、やはりメンバーの力の重要性を感じますね」(土屋氏)

STOCK POINTは「生活と投資がつながる社会」「いつのまにか株主」というビジョンを掲げている。土屋氏は、このビジョンをより広く共有し、そこに貢献したいと感じる人たちの思いをいかして、事業をより幅広く展開させていく考えだ。土屋氏の挑戦は、これからも続く。