茶きん鮨など、上方鮨を展開する「京樽」。今春、同社の代表取締役社長に堀江陽氏が就任した。これまで、あきんどスシローを率いてきた堀江氏だが、90年の歴史ある京樽をどう改革していくのだろうか。詳しい話を聞いた。
スシローとのシナジーに期待
テイクアウト事業の京樽、および回転寿司みさき(旧 海鮮三崎港)の事業管掌に2022年4月1日付けで就任した堀江氏。その冒頭、次のように切り出した。
「京樽では、巻鮨(まきずし)を販売していますね。巻鮨は、海苔、巻く人の力加減で味が変わる世界。京樽の巻鮨は、本当に美味しいのに、こんなに安い値段で売っている。でもその感動が、世の中の人たちにあんまり伝わっていないと感じるんです」。
そこでFOOD & LIFE COMPANIESグループのシナジーを活かしていく。適宜、江戸前寿司も売り出すことで売り場を華やかに、魅力あるものにしていく考えだ。比較的、年配の購買者が多い京樽の店舗に、スシローのボリュームゾーンである若い世代にも来店してもらうことを期待する。実際、一部のエリアでは京樽とスシローのダブルブランドを掲げるテイクアウト専門店もスタートしたが、「スシローの看板も掲げることによって、今まで京樽に来なかった人たちにいっぱい来ていただいている」という。
「ここから先は若い世代の方に上方鮨、巻鮨をちゃんと伝えていきたい。そこがまだ、できていない部分。これがうまくいけば、現在のお客さんに加えて、新しいお客さんにも来てもらえる。上方鮨の良さを伝えることで、次の世代のお客さんを作っていきます」。
上方鮨の特徴は、常温に強いこと。長い歴史の中で、保存を利かせるノウハウが培われた、と堀江氏。次のように続ける。「常温の上方鮨っていうのは、今、私たちが抱えているフードロスの観点でも貢献してくれると思うんです」。
例えば朝、通勤時に生ネタの握り寿司を買っても、お昼になってオフィスで食べる頃には鮮度が落ちている。でも上方鮨なら、同じお寿司なのに保存が利く。「これってすごい武器だと思うんです。しかも中巻なら値段も非常に安いですし、おやつにも食べられる。巻鮨って、どんな時間でも食べられるメリットがあるんです」。
冷凍ずしにも挑戦
堀江氏は、冷凍ずしの開発にも意欲をみせる。「京樽ではもともと、冷凍ずしを社内で商品化すべく、細々と開発していたんです。京樽では、そういう宝物のような技術をたくさん持っている。僕も、試作品を食べた時に『美味しい』と思った。自分で美味しいと思わないものは人には売りません。そんな僕が、本当に美味しいと思った」。
「外食、中食、もう一丁いるなと思っているんです。外食、中食はもうこのコロナ禍で大体経験した。それだけでは弱い。いつでも家の冷凍庫に寿司がある状態を作りたい。例えば、おじいちゃんおばあちゃんが『あのお寿司、食べたいな』と思って冷凍庫を開けたら『茶きん鮨あった』というようなイメージ。レンジで5~6分レンジアップするだけで、蒸し寿司のようにふっくらした茶きん鮨が出来上がる。今後、そうした利便性も追求していきたい。冷凍だったら、時間を止められるんです。ご家庭でもそうだし、日本以外のところにも展開できる。まだ構想段階ですが、そんなこともできたら面白いなぁと思っています」。
みさきの戦略は?
回転寿司みさきに関しては、グルメ回転寿司と呼ばれるカテゴリで展開。「回転寿司みさきには、全店ではないんですが、職人と呼ばれる人がいます。彼らは、何をしているか。当然、魚をさばいたり色んなことをするんですけど、機械でシャリを作る回転寿司と決定的に違うのは『握る』ということなんですよね。職人さんがいる店舗の武器は、やっぱりそこ。1つは、それにこだわっていきたい」。
一方で、次のようにも語る。「僕は50歳になったんですけど、やっぱりこの歳になってくると、人とのコミュニケーションを求めたくなる。職人さんのいる寿司屋の面白いところって『今日は、なに握りましょう』って話しかけてくれるところ。『今日はね、これとこれと、これ来てまっせ』みたいなね。うん、やっぱりそこに楽しさがあるじゃないですか。みさきでは、そんなコミュニケーションを追求しても面白い」。
ではこの先、みさきでは職人が常駐する店舗を目指すのだろうか。これについては「職人型とデジタル型、そのハイブリッド型を増やしていきたいと思います。職人型に振りすぎても、おそらく効率の問題だったり、色んな問題が出てくる。みんながそれを求めているかっていうと、そうでもない。チャレンジしたいなと思っているのは、いわゆる回転寿司ならではの”新幹線が走る”ような店舗、そこに職人さんがいるハイブリッド型のモデルです」。新しい店舗をテストすべく、すでに出店計画も進めているという。
ターゲット層について聞くと「コロナ禍になって2~3年が経ち、これまでの常識が通用しなくなったと感じています。普通なら業態を作るとき、ここにマーケットがあって、ここに隙間があるから出店しよ、と考えるんですが、コロナ禍以降は違う結果が出ることがある。スシローで長年、培ったものを使いつつ、そして京樽、みさきが持っている良いところを引き出しながら、それらを掛け合わせたときに何が生まれるのか楽しみ」と笑顔を見せる。
京樽、みさき事業の今後
堀江氏が就任したことで、事業にはどんな色を足していけるか。「僕は20年ぐらい仕入れをやってきて、味の目利きもやってきました。魚の素材の目利きだけでなく、お寿司の味見もしてきた。自分が期待されている部分は、調達が分かっていて、味が分かっているという部分なんだろうなと。だから京樽の持ってる良いところと、スシローの経験値を掛け合わせたところで、面白いことをやっていきたい。京樽は90年の歴史ある会社。本当に良い経験値があり、良い技術を持っている。スシローと一緒になったことで、こっから先の90年も100年も支持されていく企業にしたいなと思っています」。