コメディからヒューマンドラマまで、どんなジャンルの作品にも溶け込んで惹きつける俳優・阿部サダヲにインタビュー。『ホーンテッド・キャンパス』の原作などで知られる櫛木理宇氏のサスペンス小説を映画化した最新主演映画『死刑にいたる病』では、人の良い地元のパン屋の顔の裏で、残酷な連続殺人を行っていたサイコキラー・榛村を演じている。

監督は『凶悪』『孤狼の血』シリーズの白石和彌氏。阿部とは『彼女がその名を知らない鳥たち』(17年)に続くタッグとなった。事件の真相に迫る大学生・雅也を演じて阿部とW主演を務めた岡田健史との撮影など、本作のエピソードを直撃。さらに、自分に対する「他人からの決めつけに自分をはめ込まない」こと、一方、時には「自分を勘違いさせる」ことなど、阿部が大切にしてきたことを聞いた。

  • 阿部サダヲ 撮影:望月ふみ

    阿部サダヲ 撮影:望月ふみ

■白石監督から求められた人殺しの“目”

――阿部さんの、「獲物を捕まえたぞ」といった目がとても怖くて印象的でした。特に寄りのカットが観終わったあとも残ります。

それは嬉しいですね。僕は画角とかよくわかってなくて、寄りで撮ってるのも意識していませんでした。ただ白石監督が、『彼女がその名を知らない鳥たち』で僕が電車に乗ってくるイケメンを突き飛ばすシーンの「目が怖かった」と、今回の取材でおっしゃってまして。当時の撮影では「5分前に人を殺したような目をしてください」と言われたんですけど、その印象があって、今回のオファーをしてくれたそうなんです。なので僕はあまり意識してませんでしたが、監督はその目の印象を使いたかったのかもしれません。

――阿部さん自身は、本作のようなミステリーはもともと好きですか?

いや、怖いです(苦笑)。血が流れたりとか得意じゃないんです。ゾンビですらちょっと怖い。なので自分がこういう役をやるとは思ってなかったです(苦笑)。気持ち的にはつらかったですが、撮影的には楽しい、なかなか経験できない役柄でした。

――難しい役ですが、役者さんとしては挑戦し甲斐のある役かと。

そうですね。役者としては一度はやってみたい役ですよね。先輩や一緒にお仕事した方からも「阿部くんは、凶悪な役とか、連続殺人犯とか似合うんじゃない?」と言われたことがあったのを思い出しました。

――確かに、これまでにこうした役がなかったのは意外です。

ここまでの役はなかったんですよね。ファンの方から自分の演じた役のリストが送られてきたことがあったのですが、僕、刑務所に入っていることが多いみたいで。面会シーンとか結構あるらしいんです。でもここまで酷い殺人を犯した人物ではなくて、軽犯罪が多かったんです。ただ捕まってるシーンは結構あったので、そういうイメージがあるのかもしれないです。

■岡田健史は純粋で、すごく面白い俳優

――映像的にもかなり工夫のある作品です。面会シーンもかなり凝っていました。

面会シーンは、ほとんど岡田くん演じる雅也との2人芝居なので、舞台のような形になるのかなと思っていたのですが、白石監督や美術の今村力さんのアイデアをはじめとして、みんなで作り上げた感じがすごくします。自分の体に映像を投射したり、映像的な仕掛けが多いんです。アナログでやっているので、ここに目線を合わせるとか、セリフだけじゃない身体的な動きの縛りもありながらの芝居だったので、楽しかったですね。アナログといえば、とある場面で僕がアップになるシーンがあるのですが、僕が歩いて迫っていっているのではなく、台車の上に乗せられて、近づいていってるんです。傍から見ると滑稽かもしれませんが、すごく映画らしい撮影だなと思いました。

――そうなんですね! そうやって、ちょっとした違和感というか、不気味な感じを出していたんですね。ちなみに面会シーンは、綿密にリハーサルされたのですか?

いえ、本番で作っていきました。面会シーンを撮影するときには、僕はほかのシーンを撮り終わってました。岡田くんとは本の読み合わせで一度会っただけで、岡田くんが外で、事件の真相に迫ろうとしていろいろ動き回っている撮影は全く見ていないんです。そういう外での撮影を経た岡田くんとの面会シーンの撮影は、すごく刺激的でした。顔がどんどん変わっていくんです。岡田くんが純粋な方だからだと思います。

――岡田さんの芝居の出方に驚かされることもありましたか?

そういう風にアプローチしてくるんだと驚いたことがありました。すごく不思議な表情で面会室に来たときがあって、自分が予想していた感じとは違ったので、「こういうパターンもあるんだ」と、僕も違うパターンを引き出された感じがあったんです。すごく面白い俳優だと感じました。

――阿部さんの演じた榛村は秩序型の殺人犯で、感情の揺れがほとんどありませんが、阿部さんが榛村の心の揺れを感じた箇所はありましたか?

水門を開けて、あるものを撒いているシーンが、一番感情が入っている気がしましたね。

――あそこは何というか、映像的には非常にキレイで、後々それが怖くなる、印象的なシーンですね。

そうですよね。内容としては衝撃ですが、すごくキレイなんですよね。ロケーションもすごくいい場所でした。残虐なシーンもありますが、映画としてすごく面白い作品になったと思います。

■時には「自分を勘違いさせる」ことも重要

――阿部さんはこれまでに様々な役を演じていて、バンド「グループ魂」などでも活動されていますが、ずっと素顔が掴めない印象です。ご自身としては、「自分はこういう性格だ」と言えたりしますか?

わからないです。というより、決めつけるのがあまり好きじゃないのかもしれません。子どもの頃、大人から「何々くんって、こういう子だよね」とか言われることって、ありますよね。そうしたことに抵抗を感じることがありました。決めつけられることに「おかしいなあ」と。言われることで自分をあてはめちゃう子もいると思うんです。傷つくようなことであったとしても。でも僕は外からの決めつけ通りにならないようにしていた部分がありました。

――子どもの頃にそうした経験がある人は多いかもしれません。「おかしい」と感じて抵抗できることは大きいですね。成長して芸能界に入って以降は、野心を持っていましたか?

芸能人になったからには『笑っていいとも!』とか『徹子の部屋』に出たいとか、バンドをやったら日本武道館でライブやりたいとか。昔はわかりやすい目標がありましたよね。今の子はどうしてるのかな。僕らのときは、みんなそんなことを言っていましたよ。でも、周りに「何言ってるの、バカじゃないの?」と言われたとしても、実際にそういうことを言っていた仲間が目標を叶えていたりするし、目標を持つのはいいことだと思います。僕も年の初めにはだいたい何か目標を決めていた気がします。

――目標の中には、「人気者になりたい」とか「評価されたい」といったものもありましたか?

ないというと嘘ですよね。ほんのちょっとしか出ていない映画でも「助演男優賞を取れるんじゃないか」と思ってたり。でも自分を勘違いさせるというのも重要だと思うんですよ。絶対にこうなってやるという気持ちよりも、何かちょっと自分を良い方に勘違いさせることが良いときもある気がします。

――ちなみに現時点の目標は。

最近は変わってきました。70歳、80歳になっても芝居ができるように身体に気を付けるとか、そういうことですかね。実際にそうした年齢でも続けているかっこいい先輩たちがいますから。そんなこと言っていて、やらなくなるときもあるかもしれないけど、でも今の気持ちとしては、長く続けられるようにはしたいです。

■阿部サダヲ
1970年4月23日生まれ、千葉県出身。92年より松尾スズキ主宰の大人計画に参加。俳優としての活躍のほか、バンド「グループ魂」のボーカルとしても活動。07年に長編映画初主演を務めた『舞妓Haaaan!!!』で第31回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞、17年には『彼女がその名を知らない鳥たち』で第60回ブルーリボン賞主演男優賞を受賞した。また19年放送の大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』で主人公の田畑政治を演じた。その他の主な映画出演作に『謝罪の王様』(13年)、『ジヌよさらば~かむろば村へ~』(15年)、『音量を上げろタコ! なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』(18年)、『MOTHER マザー』(20年)など。主演映画『アイ・アム まきもと』が9月30日公開。5月27日より松尾スズキ作・演出の舞台『ドライブイン カリフォルニア』に出演する。