アラブ首長国連邦(UAE)で6カ月間にわたり開催されたドバイ国際博覧会(EXPO)が、今年3月31日に閉幕した。2020年の開催予定が新型コロナウイルスの影響で1年延期となったとはいえ、前回のミラノ万博(2015年)を超える約2,400万人が来場したという。驚愕の動員数だ。
世界的なパンデミックとなった2020年3月、ドバイは厳格なロックダウンを実施。その4カ月後の7月7日、ドバイ国際空港を再開し、世界に先駆けて国外からの渡航者受け入れた。そして、筆者は今年3月初旬に初めてドバイを訪問。EXPO開催時期ということもあったが、街には人、人、人……ツーリストで溢れ返っていた。
コロナ禍の影響で多少の遅れはあるものの、街には、新しいホテルやアトラクション、美術館、レストランなどが次々にオープンしている。それも、よそにはない斬新なアイディアに溢れるキラキラしたものばかり。どこに行っても日本よりも清潔で、そのクオリティに目を見張る……このパワーはいったい何!? 鎖国状態の日本から、やっと出張という名の元に国外脱出できた筆者にとって、それはショック過ぎた。とともに、ドバイという街のとてつもないエネルギーに圧倒された。
日本はというと、ようやく今年4月1日から入国制限が1日1万人に緩和されたが、「インバウンド再開」にはほど遠い。コロナ禍の中で世界一早く国を開き、万博の成功をも収めたドバイ。その理由を知りたくて、ドバイ観光・商務機関イサーム・カーゼィム最高経営責任者(CEO)を取材した。
——なぜ、ドバイではパンデミック後4カ月という迅速さで旅行者を受け入れることができたのでしょうか?
「ドバイは世界屈指の人気観光地です。コロナ前の2019年、ドバイを訪れた人は約1,673万人で世界では4番目の数。2020年の1、2月も、前年度の同月に比べて4.2%以上の増加率でした。ところがパンデミックですべてがストップ。ドバイはどこよりも厳しいロックダウンを実施したのです。ただ、ロックダウンの1週間後には、どうしても外出しなければいけない人が、外出理由を政府に届けて許可が出たら外出できる、というオリジナルアプリを作りました。世界の誰もが初めて経験するパンデミック。ドバイも暗中模索でした。しかし、必ず、観光業は再開する、再開したら二度と国を閉鎖しない、そう信じて進みました」とイサーム氏。
ビジネスと感染予防対策の両立を現実に
DCTCMなどの政府系組織は民間企業と連携して、どうすれば観光業を復活できるか、知恵を絞った。万博も控えていたので、必要以上に厳しいルールを作る。イベントを開く場合のチケットの取り方から、入場の際の列の並び方、感染予防対策など。マスク着用を義務付け、守らない人には罰金約9万円を科す。そしてロックダウン2カ月後、2020年5月には国内旅行が可能になった。
商業施設への対策も厳重だった。ウィルス対策の厳格なガイドラインに沿って予防策を取っているホテルや飲食店、小売店、アトラクションなどの施設に、安心・安全であることを示す「ドバイ・アシュアード(DUBAI ASSURED)」の認証を付与。それも検査員が2週間ごとにチェックを行い、その上で認証を更新するという徹底したものだった。
経済活動と感染予防対策のバランスを両立させ、2020年7月7日、海外からの旅行者受け入れをスタートさせた。2021年の夏の段階で、ワクチン接種も高い割合で進んでいた。
海外へ向けてのキャンペーン発信がみごと成功
「ドバイの人口の8割は海外からの移住者です。200カ国以上の外国人がさまざまな文化をもち、考え方もバラバラ。皆がルールを守るにはどうしたらよいか、考えた末に『ドバイ・アシュアード』が生まれたのです。移住者たちはこの国を自分自身で選び、ドバイに住んでいます。皆マスク&サニタリーキャンペーンを受け入れてくれました。そしてなにより、海外に向けて打ち出した2つのキャンペーンが功を奏したと思っています。1つは『Till we meet again(また会う日まで)キャンペーン』。2つ目は1つ目よりももっとポジティブに『Ready when you are(旅の準備はできていますか? あなたの準備ができているなら、こちらはいつでも準備OKですよ!)』」
なんと、明るく、ワクワクするポジティブなメッセージだろう。
ドバイが旅行者を受け入れた後、「ドバイは安全」というさまざまな国への発信が成功し、「コロナ禍で、バケーションを取るなら一番安全なドバイへ」……とくにドバイを知らない人のドバイに関するネット検索が激増したという。海外旅行好きにとって、これらのメッセージは2020年から2021年、もっとも魅力的なワードであったと確信する。
ビジネスでも観光でも"安心して旅できるドバイ"というイメージが定着し、ドバイの成功体験を他国にシェアする、そんなレベルまで進んだ。
ドバイでリモートワークしませんか? 海外の人へワーキングビザ発行
——2020年10月に「リモートワーキングビザ」を出されたそうですね?
「ドバイ全体がロックダウンになった時、飛行機の欠航が相次ぎ、帰国できない旅行者が増えたので、観光ビザの延長を許可しました。その延長期間が過ぎても、彼らはもっとドバイに住んで仕事したい、と願ったのです。そのため希望者に『リモートワーキングビザ』を発行するに至りました。たとえば、北欧の旅行者は、寒い自国ではなく常夏の快適&安全なリゾート地ドバイで過ごしたいと思ったはずです」
これが、海外の人々に対し、ドバイに住んでリモートで働く機会を提供する「バーチャル・ワーキング・プログラム」に進化した。自国での雇用契約が1年以上あり、月収約55万円以上などの条件があるが、2020年からこれまで希望者はこのビザを取得し、ドバイでリモートワークを続けている。
他にも、産業エンジニアやドクター、プロフェッサーなどの技術者でドバイを拠点に働き続けたいという人向けに10年間の移住を許可する「ゴールデン・ビザ」、現在ドバイに住む外国人、また海外に住む退職者に向けての「リタイアメント・ビザ」など、魅力的なビザプログラムが用意されている。
日本では、海外移住というととてつもなくハードルが高い気がするが、イサームさんの話を聞いていると、筆者も3年くらい、サクッとドバイへ移住できるのではないか、という気持ちになってくる。
「実はロックダウン後に、ある起業家が3つのレストランとホテル、アトラクションをオープンさせました。なぜなら、ドバイはさらに発展していく、と分かっていたからとその起業家は話すのです。そして、今、すでにドバイにはコロナ以前に近い、大勢の観光客が訪れています。新型コロナという高いハードルはありますが、ドバイではなんでも可能にします。常に未来を見ていますから。リーマンショック後も、2010年に世界一高いビル、バージュ・カリファをオープンさせました。どんなことがあっても、ドバイは再生していくのです」
——その原動力はどこから出てくるのでしょうか?
「UAEの政治体制は絶対君主制です。ドバイの現首長は、シェイク・ムハンマド・ビン・ラーシッド・アール・マクトゥーム。わが国では首長が政策決定を行います。たとえばロックダウンを首長が決定したら、翌日から施行されます。ムハンマド首長は、とにかく好奇心旺盛でなにごとにも興味を持ち、発想力、決断力、実行力、なによりスピード感が凄い。政府関係者やそれにかかわる民間企業は、ムハンマド首長のリーダーシップを常に感じながら、動いています。まさに、カリスマ的存在。わが首長のエネルギーが皆を動かしているのだと思います」
今回、筆者は取材時に限らず、おみやげ店、レストラン、タクシーの運転手など、会う人ごとにドバイが好きか尋ねてみた。すべての答えは「イエス」。その理由に上がったのが、ムハンマド首長をリスペクトしているから、という答えがほとんどだったことを付け加えておく。