高等学校学習指導要領の改訂に伴い、高校の家庭科で「金融教育」が本格的に扱われるようになりました。「金融リテラシーが低い」と言われることの多い日本ではありますが、今回の変更でどのような点が変わったのでしょうか。

今回は高校家庭科で扱われるようになった金融教育の概要に触れながら、若年層の金融リテラシーを高めるために求められる取り組みについて考察していきたいと思います。

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新しく始まった高校家庭科のポイントは?

まずは、高校の家庭科において、学習指導要領で変更になった点について見ていきましょう。 全体的に、金融・経済の観点が強化されたのですが、大きな変更点は2つです。

まずは「生涯の生活設計」が科目の導入として扱われるようになりました。これまでは授業の流れの中で段階的に扱われる、または学習のまとめとして扱われていましたが、今回の改訂で生涯を見通した生活設計をできるように教育する狙いが強化されました。これにより、授業におけるライフプランニングなどの重要性が今後上がっていくことが期待されます。

また2つ目の変化は、「持続可能な消費生活・環境」が大項目になったことです。成人年齢引き下げに伴い、契約や消費者保護に関する記載が充実したほか、資金管理やリスク管理の考え方にも触れられています。ここが今回、報道などで取り上げられている変化であり、この領域で株式や投資信託が取り上げられています

実際に教科書ではどう取り扱われているのでしょうか。とある教科書の『経済的に自立する』という項目の章立てを見ていきます。大項目としては、「日々の収入・支出を把握する」、「社会と家計の変化」、「長期的な経済計画を立てる」、「経済の中の家計」の4章からなっていて、3つ目の「長期的な経済計画を立てる」のところで資産運用について説明する箇所があり、こちらで資産形成や金融商品について触れられています。これまでは家計管理のところを中心に触れられていましたが、具体的な金融商品に触れられるようになりました。

  • 教科書を参考に筆者作成

金融リテラシーから考える今回の取り組みの進歩

続いては、金融リテラシーの観点から、今回の取り組みについて見ていきたいと思います。金融リテラシーに関しては、金融庁で大きく4分野にまとめられています。

金融リテラシーというと、投資教育のように思われがちですが、4分野を見ると家計管理や生活設計から始まり、金融商品に適切な活用へと繋がっています。投資だけでなく網羅的にお金に関する知識をつける必要があるということがわかります。

  • 金融庁の資料を参考に筆者作成

この整理でいうと、今回の高校家庭科では、これまであまり扱われていなかった3つ目の「金融知識および金融経済事情の理解と適切な金融商品の利用選択」について触れられるようになったのが、進歩ではないかと思います。

初年度ということもあり、各社の教科書を見ても、金融教育の範囲は紙面で1ページにいかない程度で、従来の報道と比較すると、やや少ないかなという印象も持ちます。また、金融リテラシーの項目の最後、「外部の知見の適切な活用」にまではまだ踏み込めていないため、今後はどこまで金融教育の文脈のコンテンツが強化され、内容の網羅が進むかがポイントであると僕は考えています。

また、成人引き下げに伴い、18歳から親の同意なく証券口座も開設できるようになりました。その観点でも、早期の金融教育の必要度は上がっていると考えます。投資というと、どれだけ儲けを出せるか、に関心がいきがちですが、各商品がどのようなリスク・リターンなのか、という知識を持つことも守りの意味で重要です。適切な知識をつけることは不適切な投資勧誘などからも身を守るきっかけになるでしょう。

若年層の金融リテラシーの強化で期待したい2つのポイント

これまでは、家庭科における金融教育の取り上げられ方について見てきました。ここでは、今後の家庭科、並びに若年層の金融リテラシー向上に関して、個人的に期待していきたい取り組みについて2点お話しします。

まずは金融教育を軸とした、キャリア教育などへの発展です。金融教育・投資に関する教育を行うとなると、どういうアプローチをすればいいか、悩むケースもあると考えられますが、企業分析を取り扱うことで幅が広がるのではないかと考えます。企業分析をする際は、ニュース収集や決算資料などを用いて企業に関する調査を行います。この取り組みは、あまり学生には馴染みのない企業・社会と繋がる一歩目になり、キャリア教育にも繋がっていくと考えます。

投資の視点だけで話を広げようとすると、授業でもなかなか扱いにくい部分もあると思いますが、企業分析・キャリア教育など他の部門と結びつけることで、知識の幅が広がるほか、金融がいかに社会と関わっているかがわかるかと思います

2点目は金融リテラシーの分野で取り上げられている、外部の知見の適切な活用です。投資について授業にて触れるようになったとはいえ、やはり座学と実体験は異なります。座学から踏み出し、外部の専門家やツールを取り入れ、投資体験の部分に踏み込んでいけるかどうかが、金融リテラシーが低いと言われる日本の将来にも関わると考えます。

例としては、実際の投資まではいかずとも、投資シミュレーションサービスなどを活用し、実際の株式の値動きを体感する、といったことが考えられるでしょう。リスク・リターンの関係性を座学で学ぶだけでなく、実際にどのような動きをするのかというのを体感することは、若いうちから投資を始めていく中での貴重な経験となるでしょう。

金融教育が学校の授業に取り入れられるというのは金融の文脈では歴史的な転換点といえるでしょう。一過性の話題で終わることなく、継続的なアップデートを伴ってより良い教育プログラムへと発展することに期待します。