一般的には「最小限主義者」や「最低限主義者」と訳され、「持ち物を最小限にする」人やライフスタイルのことを指す「ミニマリスト」。そのメリットはどんなところにあるのでしょうか。
モノにあふれたいわゆる「汚部屋」の住人からミニマリストになった、作家・編集者の佐々木典士さんは、ミニマリストになることで得られる多くのメリットを挙げながら、最終的にはそうすることで「幸せを感じられる」と語ります。
■自由な時間ができて、生活を楽しめるようになる
ぼくが「汚部屋」の住人からミニマリストへと変わったことで得られたメリットは本当にたくさんありますが、そのなかでも大きいのは以下の6つです。
【ミニマリストが得られるメリット】
1.時間ができる
2.生活を楽しめる
3.選択肢が増える
4.自由と解放感を感じられる
5.行動的になれる
6.幸せを感じられる
ひとつは、「時間ができる」ということ。モノが少なくなることで、そのモノの管理や掃除といった手間が激減するからです。
モノには、「壊れているから修理しなければ…」「そろそろ部屋を片づけなければ…」というふうに、ToDoリストがついてまわります。モノが少なければそのToDoリストも減ることになり、自分のために使える時間が増えるというわけです。
ぼくの場合、モノが少ないために部屋の片づけはほとんどしなくてもいいくらいになり、たくさんのモノを移動させなければならないということもなくなり、掃除も非常に楽になりました。
食器も必要最小限のものしか持っていませんから、洗っていないと次の食事のときに困ります。必然的に毎食後に洗わざるを得ないので、いつでも食器が片づいています。
つねに部屋が片づいていると、ふたつ目のメリットである「生活を楽しめる」ということになります。自分の外側のモノにかかわることが終わると、「もう少し自分の体のことも大切にしたいな」と考えはじめ「運動してみよう」「ヨガをしてみよう」と思うようになりました。部屋が片づいていればすぐに行動に移せます。そうしてどんどん生活を楽しめるようになりました。
モノが散らかっているとそうはいきません。ミニマリストとなる以前には、出かけるときにも「まずこの部屋をなんとかしてから行ってよね」というふうにモノから語りかけられているような気がして、行動が制限されていたといまは思います。
■選択肢が増えるために、行動的になれる
3つ目のメリットは、「選択肢が増える」ということです。モノが少ないと、住むのは小さな部屋で十分です。住まいの選択肢が増えるのです。
ミニマリストとなったあと、ぼく自身も都内で小さい部屋に引っ越しました。「なんなら、小さければ小さいほど掃除する場所も少なくなっていい」という発想でした。小さい部屋にしたために家賃が下がるというメリットもありました。
引っ越しでいうと、当日まで荷づくりをしないままで、朝起きてから30分で引っ越すということもやってみました。30分で引っ越せるとなると、「自分はどこにだって住めるんだ」と、ミニマリストの4つ目のメリットである「自由と解放感を感じられる」ようにもなりました。
このことは、「行動的になれる」ということにもつながります。たくさんのモノを買うことがなくなりましたから、「生活にもお金はかからないだろう」と、勤めていた出版社を辞めたり、京都やフィリピンに住んでみたりすることもできました。
たくさんのモノに囲まれていたときには絶対にできなかったことです。以前ぼくは、同じ賃貸アパートに11年間住み続けていました。たくさんのモノがあるために引っ越しが億劫でしたし、たくさんのモノを置けるような部屋は家賃が高いしで、長らく動けないままでいたのです。
現在ぼくは、故郷である香川県の実家に住んでいます。京都、フィリピンなど自由に好きな場所に住んでみた経験の結果、地元やそこに住む人とのつながりも大事だと思うようになりました。東京の賃貸アパートに住み続けていたなら、その考えには至っていなかったでしょう。
■「幸せを感じられる」という究極のメリット
そして、いまのぼくは「幸せを感じられる」という6つ目のメリットを享受しています。
モノにかかわる時間が減ったことでゆとりができ、大切な友人と会ったり好きな本を読んだりなど、いろいろなことをゆっくりと味わえるようになりました。これは、ぼくにとって間違いなく幸せといえることです。
また、「持っているモノに満足している」ということも、幸せなことではないかとも思います。
ぼくは、ミニマリストを「自分にとって本当に大事なモノがわかっている人」だと定義づけています。誰かの持ち物との比較などではなく、自分の基準で大事なモノを手元に残すわけです。残ったモノは少ないので、丁寧に扱えますし愛着もわきます。
多くの人がそうだと思いますが、つい「持っているモノ」に満足できず「持っていないモノ」を手に入れたいと思ってしまうものです。
それは物質的なモノに限りません。才能やセンスといったものに関しても、他人と比較して、持っていないものを手に入れたいと思います。
でも、自分の持ち物に満足するようになると、物質的なモノに限らず、自分の才能やセンスにも満足できるようになりました。物質的なモノでも抽象的なものでも、人と比べること自体が苦しいことなのだと気づいたのだと思います。いまは、自分が自分であることに満足しています。人によって幸せのかたちは変わると思いますが、ぼくにとってはこのことも間違いなく幸せなことだと思います。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹