日産自動車の新型電気自動車(EV)「アリア」がようやく発売となる。2019年の「東京モーターショー」でプロトタイプが公開されてから、ずいぶん長く待った。最も価格の安い標準車「B6」(2WD)の価格は539万円で、EV購入の補助金を使えば400万円台となりそうなアリアには価格に見合った、いやそれ以上の価値があるのだろうか。試乗して考えた。

  • 日産「アリア」

    日産「アリア」に試乗!

アリア登場でライバルは周回遅れに?

アリアの日本国内限定車「limited」は2021年6月にインターネット予約注文の受け付けを開始し、今年から納車が始まっている。2021年11月には、アリアの標準車といえる「B6」(バッテリー容量66kWh、前輪駆動)の価格が539万円と発表された。装備の差があるとはいえ、限定車limitedのB6(2WD)が660万円だったことを考えると、標準車では120万円以上も安くアリアが買えることになる。EV購入の補助金を活用すれば価格は400万円台となる。

標準仕様のB6に試乗する機会を得たのだが、結論を先にいえば、さすがは日産といった感じ。12年前に初代「リーフ」を発売して以来、苦労を重ねながらも経験を積み上げ、世界累計50万台以上のEV販売実績を持つ日産ならではの、EVの魅力を磨き上げたクルマに仕上がっていた。

アリアの外観は、3年前の東京モーターショー以来おなじみだ。プロトタイプ(試作車)の段階で完成度の高い造形であった証として、ほぼそのまま実車となって現れた。内装はの上質さは、プレミアムEVとして海外勢と比べても遜色ない。最先端の装備が組み合わされており、高級な雰囲気に包まれている。

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  • 2019年の東京モーターショーに登場したプロトタイプとほぼ変わらない「アリア」の外観

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  • 内装は上質で随所に先進性が感じられる。輸入車の高級EVと比べても遜色なしだ。フロアマットは枯山水をイメージしている

当然ながらEVは走りが静かで、モーター駆動は高性能エンジン並みに力強い。また、日産は運転支援において、「スカイライン」のハイブリッド車(HV)で「プロパイロット2.0」を実用化しており、ハンドルから手を放して運転できる機能を高速道路や自動車専用道路に限るとはいえ実現させているが、その安心感と信頼性の高さは他社と比べても随一で、技術の日産という形容を実感させた。それがアリアにも採用されている。

試乗ではEVならではの味わいを存分に体感できた。これが400万円台で購入できるなら、競合他社は大きく差を開けられたといっていい。それほど、価格と価値の調和がとれ、充実度は価格を上回るといっても過言ではないだろう。

この上質な走りを実現するに際し、日産は新しいモーターを開発した。それが「巻線界磁式モーター」である。

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    日産「アリア」は「巻線界磁式モーター」を採用。走りにどんな影響が?

新型モーターで別世界の空想感覚

1997年の初代トヨタ「プリウス」以来、日本の自動車メーカーはHVもEVも「永久磁石式同期モーター」を使ってきた。モーター内の回転を生み出す回転子に永久磁石を用いて、その磁力を高めるため、ネオジムやジスプロシウムといった希土類元素の金属を使うタイプだ。これにより汎用のフェライト磁石に比べ約10倍という磁力が得られ、高い出力が出せるようになる。

しかし、脱二酸化炭素の世界的要請によりHVやEVが増えていくなか、希少金属の資源問題や入手に際しての価格高騰、さらには入手そのものが困難になるなどといった点が懸念材料となっていた。

一方、巻線式というモーター方式は、鉄芯に銅線を巻き付けたいわゆる電磁石を使っており、巻線の多少で出力を調整できる。米国では電磁石を使ったモーターの利用が一般的で、テスラも採用している。近年ではドイツのメルセデス・ベンツやアウディも用いるようになった。

巻線式の利点は素材の地域偏在に左右されにくく、材料価格も比較的安価に済むことだ。これにより、HVやEVが増えても対処可能となる。

電磁石は電気を切れば銅線を巻き付けたただの鉄芯が空転するだけなので、抵抗なく滑るような走行感覚が得られる。そもそもモーター駆動は、エンジンに比べ滑らかな走りが特徴のひとつだが、巻線式モーターを使えばいっそうその感覚が強まる。

アウディのEV「e-tron」も同様だが、アリアの空走感覚はエンジン車では得難い別世界の乗り味だ。製造上の資源や原価はもとより、EVらしさをいっそう強調することのできる巻線式モーターを新しく採用したところに、EVの知見が豊富な日産の力量が示されている。

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    巻線界磁式モーター採用でEVの魅力をさらに高めた日産

アリアの巻線式モーターには新たにオイル冷却を採用した。エンジンでオイルパンにオイルを溜めて潤滑しているように、溜めたオイルをモーター内部で循環させることにより冷却を行う。これにより、モーター本体のケースに冷却用水路を設ける必要がなくなり、モーター寸法の小型化が可能になった。モーターの小型化でモータールーム内には空間のゆとりができるので、前輪を大きく転舵できる。アリアは大柄な車体であるにもかかわらず最小回転半径が小さく、小回りが利く。

アリアはEVの豊富な知見を基に、技術の日産らしい理詰めの設計が行われ、EVの魅力を大きく進化させたクルマに仕上がっている。

「アリア」の改善を望むなら?

一方で、さらなる改善を求めたい点もあった。音声認識の確実さを含む「ヒューマン・マシン・インターフェイス」(HMI)についてだ。

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  • 「アリア」のHMIについては改善を求めたい部分があった

アリアではアマゾンの「アレクサ」を活用し、EVと家庭とをつなげるコネクテッド技術を採用するなど最新の通信技術を取り入れているが、まず、その機能を使うための音声認識が的確でなければ宝の持ち腐れだ。

担当者によるデモンストレーションでは音声認識を含め不具合なく作動していたが、我々が試乗した際の音声入力は認識されず、ほとんど役に立たなかった。アリアの所有者であったとしても、初めて使用した際に不具合を感じたら、それからは利用しなくなってしまうだろう。一時的な試乗の機会であったとしても、的確に機能してはじめて、人々に使う気を起こさせるはずだ。

スウェーデンのボルボは、いち早く音声認識を手掛けて今日に至る。メルセデス・ベンツは最も廉価な「Aクラス」においても高度な音声認識を実現している。

このあたりの利便性は、まさにスマートフォンの水準でなければ、老若男女を問わず、今日の消費者の納得は得られないだろう。

技術の日産が作ったEVとして、アリアの走行機能は十分に体感できた。しかし現代は、情報を自在に操れるHMIが商品性を左右する時代だ。その視点を技術開発のなかに早急に組み入れ、重点を置く必要があるのではないか。

とはいえ、日産アリアの標準車種の満足度は非常に高い。そしてアリアに限らず、実はEVは、モーター駆動であることにより、標準的な廉価車種が高い商品性を持つ潜在能力がある。商品構成において、そこをエンジン車のときと同等に考え、見誤ってはならない。

アリアにはバッテリー容量66kWhの「B6」と91kWhの「B9」があり、それぞれで前輪駆動(2WD)と4輪駆動(日産はe-4ORCEと呼称)が選べるのだが、日産は車種構成を上下関係ではなく、用途に応じた仕様違いとして打ち出している。EVを知り尽くした自動車メーカーであるからこそ、EVの売り方にも一歩先んじた取り組みが見られる。

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