毎度SNSをザワつかせるフジテレビの深夜バラエティ番組『ここにタイトルを入力』。TVer・FODで見逃し配信されている2日の放送は、事前予告が「出演者:水谷果穂ほか」のみと、これまで以上に謎に包まれた状態でOAを迎えた。第4週の今回はどんな裏切りが待っていたのか――。
■恒例のスタッフ釈明が始まらない
6週連続で放送されている同番組。1週目は「人間の五感をテーマにした斬新なクイズ番組」と予告して、バイきんぐ・小峠英二を縦に分割して2番組同時出演させる。2週目は「フワちゃんが浅草の最新スポットを紹介」と予告して、監視カメラや野次馬の動画など映り込み映像で取り繕う。3週目は「世界が認めるイリュージョニスト・HARAがこの番組だけに見せる前代未聞のイリュージョンショー」と予告して、1つのテーブルマジックを延々遠回りして放送尺目いっぱいで見せるという裏切りを見せてきた。
その背景は、いずれもスタッフのミスという設定。小峠のダブルブッキング、ロケの撮影データ消去、マジックのコンプラ見落としによって起きたそれぞれのピンチを、斜め上を行く発想で乗り切ってきたのだ。
「なるほど、この番組のパターンが見えてきたな」と、思い上がりながら見始めた第4週。まずは恒例のスタッフから出演者への釈明タイムが……ない。それどころか、何やらドラマが始まり、『ここにタイトルを入力』のオープニングタイトルも出てこない。チャンネルを間違えたか?…と考えたが、このドラマの主人公は予告されていた水谷果穂のようだ。
ドラマのタイトルは『足りない世界で愛を描く。』。この真意を、我々は25分後に知ることとなる――。
■高級レストランで異変
ストーリーは、イベント会社で働く主人公・アサクラ(水谷)が、異動してきた営業のイケメンエース・ムラマツ(稲葉友)とタッグを組んで新企画に奮闘。同僚で資産家の娘・モエ(工藤美桜)とは仕事も恋もライバル関係だが、その結末は……といったところか。
こうしてよくあるお仕事恋愛ドラマが進行していくが、気になるのは左上のゲージ。モエが運転手付きの高級車で出社するシーンで、一気にゲージの値が減った。
しばらく平穏に進むが、異変が起きるのは高級レストランのシーン。ギャルソンに「和牛フィレ肉のロッシーニ仕立て」と紹介された皿の上に何も載っていないのだ。それでも、そこに肉があるようにナイフとフォークで切り分け、口に入れる動作をして至福の表情を浮かべるアサクラ。「おいしい~。口に入れた瞬間、溶けた!」というセリフに、誰もが「最初からないぞ!」とツッコミを入れたくなる。
ここから怒涛の違和感が幕を開ける。シャワーの水が出ていない、モエが運転手とタンデム自転車出勤、企画書がチラシの裏、部長が裸の大将ばりのランニングシャツ姿、明らかな放水で雨シーン、パソコンのなくなったオフィス、雑草の差し入れ……どうやら、予算が足りなくなってしまったようだ。
■パンツ一丁でパネル化されたイケメンエース社員
ここで、左上のゲージは残りの番組予算を表したものと理解。時間に経つにつれてゆっくり下がっていき、部長に出した「いいお茶」、居酒屋のメニュー、会議で使う付せんなど、小道具や消えものが登場するたびに、格闘ゲームで必殺技を食らったかのように一気に減ってしまう。それなのに、終盤で大物俳優をブッキングしてしまい、致命的なダメージを受けてしまった。
やはりこの痛手は大きかったのか、女子社員の憧れの的であるムラマツが、衣装代を浮かすべくパンツ一丁にさせられる。さらに、稼働を減らすために役者たちが次々とパネル化。肝心の決めゼリフはアフレコもできないギャラ交渉があったようで、言われたアサクラのリアクションで推測せざるを得ない。
最も気の毒なのはムラマツ。先にパンツ一丁になる判断をしたため、パネルもパンツ一丁の姿で作られてしまった。コストカットは早期に思い切った決断が必要であるという教訓が伝わってくる。
最後はついに、主人公のアサクラまでもパネル化。しかし、図らずもこの形状になったからこそのハッピーエンドが待ち受けていた…。
こうしてドラマ本編が終わると、いつものスタッフの釈明シーン。今回はプロデューサーに対して撮影の進捗状況を報告しているようで、「ちょっと予算が最後までもつかなっていう感じなんですけど、でも何とかはなると思うんで」と、伝家の宝刀“何とかはなると思うんで”がここで飛び出した。
■ドラマ本業のキャスト・スタッフが集結
『ここにタイトルを入力』は、TVerで見返すと毎回新たな笑いのポイントの発見があるが、今回は特に2度目の視聴をしてほしい。さりげないセリフで伏線を張っていたり、登場人物に間違い探しを仕込んでいたりしているので、一瞬たりとも見逃せない楽しさがある。
そして、このドラマが崩壊していく様が成立するのは、本業のキャスト・スタッフによる本格的なドラマという基礎がしっかりしているからこそ。脚本は、『絶対正義』(東海テレビ)、『レンタル何もしない人』(テレビ東京)などを手がけた政池洋佑氏。監修として、『過保護のカホコ』(日本テレビ)、『24 JAPAN』(テレビ朝日)などを演出した日暮謙氏が参加している。
目の前でパンツ一丁の男がもっともらしいことを言う姿に、現場では吹き出してしまうこともあったかもしれないが、見事に演じきったキャスト陣は本当に素晴らしい。『ここにタイトルを入力』では、右半身だけの小峠に何の違和感も見せずにトークし切った中村俊介と遊井亮子もそうだったが、役者のすごさというのを改めて感じさせられる。
ところで、フジテレビでは90年代初頭、『そっとテロリスト』という深夜バラエティ番組で、費用のかかる時代劇を深夜の予算で制作するため、衣装代を浮かして入浴シーンを多用するなどといった遊びをやっていたことがある。それから30年が経ち、“低予算を面白がるドラマ”という共通命題で、ここまで進化するのかと感心した。