中国電力が「完全自立型EVシェアリングステーション」の実証実験を開始しました。電気系統から完全に分離・独立したソーラーカーポート、蓄電・制御システム、そしてEV(電気自動車)を組み合わせた、太陽光発電の電力だけで運用するカーシェアリングサービスです。環境省が提唱する「ゼロカーボン・ドライブ」の実証実験となります。
完全自立型EVシェアリングステーションは、出力11.88kwの太陽光パネルを設置したソーラーカーポートと、合計容量38kWh(10kWh×3・8kWh×1)の蓄電池を組み合わせたシステム。これにカーシェアリングサービスで管理するEVで構成されます。
太陽光で発電した電力のみでEVを充電しつつ、余った電力で蓄電システムを充電。雨の日や夜間など、太陽光発電ができないときは蓄電システムからEVへと電力を供給する仕組みです。
パナソニックが開発したソーラーカーポート
この実証実験には、中国電力、広島県、パナソニック、AZAPAの4社が参画。中国電力はすでに、「2050年カーボンニュートラル」へ挑戦する一環として、法人向けにEVソリューションサービス「eeV」を開始しています。今回の完全自立型EVシェアリングステーションは、eeVの取り組みのひとつ「EVシェアリングサービス」と組み合わせたものです。中国電力は今回の実証実験で、企画・運用とEVシェアリングサービス「eeV」を担当します。
広島県は実施場所の提供とEV普及推進に向けた政策展開などを、パナソニックはソーラーカーポートの開発と提供を担当します。AZAPAは、オフグリッド型蓄電・制御システムの開発と提供、可搬型蓄電池システムの開発と提供です。
現在は、EVとして日産「リーフ(蓄電池容量40kWh)」1台が稼働しており、さらにマツダ「MX-30 EV MODEL」を1台、調整中となっています。
中国電力の担当者によると、梅雨の時期など、太陽光での発電効率が悪い場合でも、蓄電池とEVのバッテリーを利用することで約一週間は運用できると予測。今回は広島県立広島産業会館に完全自立型EVシェアリングステーションが設置され、平日は広島県などが業務に使い、週末は一般利用(15分220円)もできます。中国電力は課題の洗い出しなどを進めつつ、2022年4月から5年間ほどの実施を予定しています。
なお、完全自立型EVシェアリングステーションはEVの運用だけでなく、災害時の電源としても活用を想定。蓄電システムには8口の非常用コンセントがあり、スマートフォンやノートパソコンなどの充電にも対応しています。
また、蓄電池のうち、8kWhの1基は可搬型蓄電池を採用。1kWhずつのバッテリーモジュールとして取り外せて、電動自転車や電動カートなどさまざまなモビリティへの活用が期待されています。
中国電力 代表取締役社長執行役員の清水希茂氏は、完全自立型EVシェアリングステーションの取り組みに関して以下のようにコメントしています。
「今回の事業は、広島県がネットゼロカーボン社会の実現に向けた政策を進められていることから、共通の目標の達成に向けて当社から事業構想をお伝えしたところ、自ら旗振り役としてご参加いただくことになりました。官民一体となってともに歩んでいけることを大変心強く感じております。当社としても、地域のカーボンニュートラルの実現に向けて、少しでも貢献できるように努めて参りたいと考えております」(清水氏)
広島県知事の湯崎英彦氏は「完全自立型EVシェアリングステーション」の記者会見において、「太陽光発電の電力のみで運用するEVステーションはこれまでにない挑戦的な取り組みと認識しています。中山間地域や離島なども含めて、誰もが場所を選ばずEVを利用できる環境の創出、EVのメリットを活かした災害時の電源確保などにもつながる取り組みであると思っています」と語り、広島県としても協力して行くことを宣言しました。
法人向けソーラーカーポートサービスも
さらに中国電力では、高圧・低圧の電力契約をしている法人の顧客向けに、初期投資なしで利用できる「ソーラーカーポートPPAサービス」も提供します。これは中国電力がソーラーカーポートを設置・メンテナンスを行い、発電した電気に応じたサービス費用を月々支払うというものです。
対象は事務所やスーパーなどの店舗、工場や病院デイサービスセンターなど、昼間の利用量が多い法人。車の台数によって、4台モデルと2台モデルを用意しています。どちらも脱炭素社会の実現に向けた取り組みです。契約期間は15年で契約満了後は無償で譲渡することになっています。
中国電力は「2050年カーボンニュートラル」に向けて、再生可能エネルギーの開発や、石炭火力発電所から排出されるCO2分離回収の実証試験、水島発電所でのアンモニア混焼試験など、CO2排出削減に向けたさまざまな技術の開発・導入を進めています。その中でも、太陽光発電設備の開発におけるグリーン電力の供給、ソーラーカーポートの整備による太陽光発電PPAサービスは、脱炭素ソリューションとして重要な要素のひとつ。「完全自立型EVシェアリングサービス」の実証実験は、ゼロカーボン・ドライブを実現するための最初の一手と言えるでしょう。