京都市営地下鉄烏丸線の新型車両20系が、3月26日から烏丸線内で運行開始し、4月12日から近鉄京都線へ乗入れを開始。4月17日には、急行として近鉄奈良駅まで運転された。新型車両の乗り心地を確かめるべく、国際会館駅から近鉄奈良駅まで乗車した。
■烏丸線では約40年ぶりの新形式に
京都市営地下鉄烏丸線は、竹田駅から京都駅および京都市中心部を経て国際会館駅までを結ぶ路線。竹田駅から近鉄京都線・奈良線と相互直通運転を実施している。烏丸線は1981(昭和56)年の開業以来、長らく10系を使用してきたが、このうち9編成(1・2次車)を新型車両へ置き換えることに。導入時期は2021~2025年度を予定している。
新型車両20系は京都市民の声を反映した車両といえる。2017~2018年度に行われた「地下鉄烏丸線車両の新造にかかるデザイン懇親会」を経て、市民・利用者の投票により、「前面の造形に曲面を多用した、より近未来的なイメージ」の外観、「華やかで雅なカラーデザイン」の内装を最終デザインとして決定した。
最大の特徴として、外観・内装のデザインに京都の伝統産業素材・技法を採用。両先頭車に多目的スペース「おもいやりエリア」を設置したことも特筆に値する。車いす・ベビーカー利用者向けのスペースを設置するなど、バリアフリーの充実も見逃せない。
京都市交通局は公式サイト等を通じ、新型車両のPRを積極的に行ってきた。鉄道ファンらを中心にSNSでも話題となり、新型車両に対する関心はデビュー前から高かったように感じられる。
■明るく静かで京都らしい車両に
近鉄奈良行の急行の始発駅となる国際会館駅は、京都産業大学へ向かうバスが発着するところだが、乗車当日は休日の朝ということもあり、普段と比べてひっそりとしていた。自動改札機前の壁には、3月19日に実施した地下鉄・市バスのダイヤ改正のポスターが貼られてあった。地下鉄は烏丸線・東西線ともに21時以降の列車を削減し、1時間あたり4~5本としている。新型車両のデビューを手放しで喜べない現状が非常にもどかしい。
ホームに降りると、すでに20系の入線を待つ鉄道ファンらの姿が散見された。9時20分頃、20系が入線。すでにデビューから2週間以上経過していたが、近鉄奈良行の急行としての運行はこの日が初めてだったこともあり、注目度も高かったのだろう。
既存の10系と比べて、20系の車内はとにかく明るい。地下区間ということもあってか、座席の緑色がまぶしく感じられるほどだった。20系で運行される急行は9時26分、国際会館駅を発車。急行とはいっても、烏丸線内は竹田駅まで各駅に停車する。20系の制御装置はハイブリッドSiC-VVVFインバータとのことで、烏丸線に乗り入れる1986(昭和61)年デビューのVVVFインバータ制御車、近鉄3200系と比較すると、走行音は段違いに静かだった。
地元利用者らにとっては、先頭車の運転台寄りに設置した多目的スペース「おもいやりエリア」が最も注目されているかもしれない。中央に立掛けシートを用意し、伝統工芸品を飾り付けたスペースもある。近鉄奈良方の先頭車では西陣織が飾り付けられ、その模様や解説文を熱心に見入る乗客も見かけた。「おもいやりエリア」付近でリュックサックを床に置き、友人と談笑する乗客の姿も。ラッシュ時などを考慮すると、リュックサックを気軽におけるスペースは案外貴重かもしれない。
ロングシートの座席には大型の袖仕切りが取り付けられ、端の席に座ると袖仕切りが大いに役立つ。たとえリュックサックを背負った乗客が袖仕切りにもたれかかったとしても、さほど不快に感じない。袖仕切りの装飾もなかなかおしゃれだと思う。
京都市中心部の駅に停車すると、車内も混雑してくる。ところで、デビュー間もない新型車両だと、車内やホームで撮影する鉄道ファンらの姿がつきものだが、今回、筆者が見た限りでは鉄道ファンと思われる一部の人を除き、車内を撮影する姿は見当たらず、烏丸線内の駅ホームで撮影に励む姿も思ったほど多くはなかった。烏丸線内において、すでに20系は日常になじみつつあるのだろう。
■近鉄京都線・奈良線も軽快に走行
新型車両20系の急行は9時53分、竹田駅に到着。ここから近鉄京都線に乗り入れ、急行運転を開始する。桃山御陵前駅を発車した後、筆者は「おもいやりエリア」の立掛けシートを利用してみた。リュックサックを床に置き、シートにもたれかかってしばらく過ごしたが、80km/hほどの速度で走行している間も揺れを心配することはなかった。ちょうど正面に窓があり、過ぎ行く沿線風景の眺めを楽しめる。さらに、窓上の広告枠も意外と目に入る。JR東日本のE235系にあるようなデジタルサイネージをここに設置し、京都の観光地を宣伝すれば面白いのではないか……と、ふと思った。
中間車においては、一部の吊り手に「北山丸太」を使用している点が興味深い。丸太の部分は触った感触も良く、普段の通勤・通学がほんの少しだけ楽しくなることだろう。各車両に設置された車いす・ベビーカースペースは思いのほか広く、手すりが二段なので利便性は高い。床に車いす・ベビーカーのマークが大きく描かれ、わかりやすい点も評価できる。
20系の急行は近鉄京都線の駅を次々と通過していく。地下鉄車両というより、都市近郊を走る私鉄車両に近い。10時30分頃、主要駅である大和西大寺駅に到着。ホームにはカメラを持った多くの鉄道ファンらの姿があり、正直驚いた。近鉄ではここ15年ほど、通勤用の新型車両が登場していないだけに、20系への注目度は高いと言えよう。
大和西大寺駅から東に進路を変え、近鉄奈良線を走行。終点の近鉄奈良駅には、予定より3分遅れの10時37分に到着した。隣にはオレンジ色の帯を配した阪神電気鉄道の車両1000系が停車中で、オレンジ色と緑色のフレッシュな共演が見られた。
京都市営地下鉄烏丸線の新型車両20系は、シンプルながらも京都らしさを施した好感の持てる車両だと感じた。京都市交通局は特設サイトにて20系の運行スケジュールを公開しており、5月1日以降も近鉄京都線・奈良線への直通運転を行う。5月3・4・7日に近鉄奈良駅発着の列車も運転予定。新型車両20系の追加投入も進められ、SNSでは4月に2編成目が搬入されたとの情報も。これからますますの活躍を期待したい。
同時に、やはり相互直通運転のパートナーである近鉄についても、通勤用の新型車両に期待したいところだ。なお、近鉄が4月15日に発表した「運賃改定の申請について(補足説明資料)」の中で、「2024年度以降、お客様のご利用状況を見極めたうえで、必要分を順次新型車両に置き換える計画」とされている。