伊豆急行は30日から、JR東日本209系の譲渡車両を改造した3000系「アロハ電車」の運行を開始した。営業初列車の発車に合わせ、始発駅の伊豆高原駅で出発式が開催された。
出発式は9時30分から開始ということで、伊豆高原駅ではすでに多くの来場者がホームに集まっていたが、9時18分に伊豆急下田行の普通列車(「キンメ電車」で運行)が到着すると、「アロハ電車」を見るため訪れたファンらが集まり、ホーム上はさらににぎやかになった。3000系「アロハ電車」は9時25分、伊豆高原駅2番線に入線。到着して早々、電車に乗り込むファンらの姿も見られた。ホーム上と「アロハ電車」の車内から多くの来場者が見守る中、出発式が開会した。
最初に、伊東市を拠点に活動するフラグループ「フラ・ハーラウ Rei マカ・ロア」のこどもたちがフラを披露。軽快なウクレレの音に合わせて軽やかに踊りつつも、腕から指先にかけてしなやかに揺れるダンスは華やかで、和やかな気持ちになる。「アロハ電車」の出発にふさわしいハワイアンなおもてなしで出発式は始まり、ダンスが終わると、こどもたちへ多くの拍手が贈られた。
続いて伊豆急行代表取締役社長の小林秀樹氏が挨拶。3000系「アロハ電車」の概要を説明した。あえて電車らしくないデザインとして、ハワイ語で「ウミガメ」を意味する「ホヌ」柄をベースに、「リゾート21」の赤色(伊豆急下田方前面と海側)と青色(伊東・熱海方前面と山側)の伝統色を配したことなどを語った。
小林氏によれば、ウミガメはハワイにも伊豆にも生息しており、豊かな海に囲まれた地域や海底火山を起源とする成り立ちも共通するため、親和性が高いという。ちなみに、伊豆急行の初代車両100系がまとった車体色も「ハワイアンブルー」と呼ばれている。伊豆急行が開業60周年を迎え、新たに出発する電車に「ハワイ」はふさわしいキーワードではないかとのことだった。
3000系の愛称にも採用された「アロハ」は挨拶の言葉だが、他にも「愛情」「思いやり」などの意味が含まれているという。「これから伊豆急行が、伊豆に来るお客様、伊豆に住まわれているお客様に対して、これまで以上にもっと心のこもったフレンドリーなおもてなしができるよう、社内公募から採用させていただきました」と小林氏。最後は、「『アロハ電車』が伊豆半島、そしてお客様に多くの幸せを運び続け、末永くご愛顧いただけますことを祈念いたしまして、挨拶とさせていただきます」と締めくくった。
小林氏の挨拶で語られた通り、「アロハ電車」の愛称は伊豆急グループ内の応募により決定した。愛称を考案した伊豆高原運輸区運転士、小松崇氏も登壇。自身の考案した愛称が採用されたことに、驚きと嬉しさを感じていると話した。
小松氏は、デザインコンセプトを見たときに、華やかな夏のイメージを受けたこと、乗務において利用者へのおもてなしの言葉をかけていること、伊豆急行開業当初からのハワイアンカラーをイメージしたこと、この3点がきっかけで考案に至ったと説明。その上で、「皆様どうぞ伊豆急『アロハ電車』に乗って、伊豆の楽しい思い出を作りにいらしてください」と呼びかけた。
その後、特製看板の除幕を実施。司会の合図に合わせて除幕を行った。ヘッドマークの外周にレイ(ハワイの飾り)をあしらった記念ヘッドマークレイの紹介も行われた。記念ヘッドマークレイは、UMAHANA代表の大谷幸生氏が製作・寄贈したもの。大谷氏は全国を旅しながら、レイを通して日本の花を元気にしたいとのことで、今回、「アロハ電車」の出発式に協力したという。ヘッドマークレイは「アロハ電車」の出発直前まで車体前面に掲出された。以降も数日間、伊豆高原駅に展示されるとのこと。
記念撮影に続き、「フラ・ハーラウ Rei マカ・ロア」が再びフラダンスを披露した。2曲目は、1曲目と比べるとゆったりした曲調で、フラの踊りも座って踊るものとなったが、変わらずゆったりと揺れるダンスは華やかで美しく、繊細さも感じられる。3曲目のダンスは、「アロハ電車」を送迎するように、横に並んだ位置で行われた。
9時47分、伊豆高原駅止まりの列車が1番線に到着すると、利用者の乗換えを待った上で、いよいよ「アロハ電車」の発車時刻となる。最後に、伊豆急下田駅長が右手を高く掲げて合図を行い、9時51分に3000系「アロハ電車」は伊豆高原駅を発車。フラダンスと、電車に手を振る来場者・関係者らに暖かく見送られ、駅を後にした。
伊豆急行は公式サイトにて、3000系「アロハ電車」の5月15日までの運行スケジュールを公開している。5月16日以降の「アロハ電車」運行スケジュールは、後日公式サイトに掲載されるとのこと。営業初列車となった伊豆高原駅9時51分発・伊豆急下田駅10時34分着の下り普通列車と、その折返しとなる伊豆急下田駅11時0分発・伊豆高原駅11時49分着の上り普通列車は、5月13日を除き毎日運転される予定。加えて平日のみ、午後にも伊豆高原駅15時29分発・伊豆急下田駅16時16分着の下り普通列車、伊豆急下田駅16時25分発・伊東駅17時42分着の上り普通列車、伊東駅18時6分発・伊豆高原駅18時33分着の下り普通列車で3000系「アロハ電車」が使用される。
いまのところJR伊東線へ乗り入れる予定はなく、「アロハ電車」は4両編成での運転となる。なお、運行初日は休日だったため、3000系「アロハ電車」は10時34分に伊豆急下田駅に到着した後、11時0分発の上り普通列車で再び伊豆高原駅に戻ってきた。11時49分、伊豆高原駅に到着した後は回送列車となり、すぐに車庫に引き上げた。上り列車として「アロハ電車」が戻ってくる際も、線路沿いから撮影を行う鉄道ファンの姿が見られた。
筆者は横浜市出身で、幼少期に京浜東北・根岸線時代の209系に乗ったことがある。ただ、209系が房総エリアへの転属を経て、伊豆急行に譲渡され、観光電車として生まれ変わることはまったく予想していなかった。それだけに、筆者自身も「アロハ電車」を最初に見たときは非常に驚いた。今回、伊豆高原駅を訪れた人々を見ても、鉄道ファンと思われるこどもたちや学生、旅行で訪れた大人など、幅広い人々の目に留まっていたようだった。3000系「アロハ電車」の今後にも期待したい。