開発された同装置を用いて、試料温度650℃で成長させたIn含有率100%のInN薄膜結晶の評価が行われたところ、速い成長速度で世界最高クラスの結晶品質を実現できたことが確認されたとする(基板にはサファイア基板上にMOCVD法により成長させたGaNテンプレートが用いられた)。

また、結晶方位のばらつきを評価するX線回折ロッキングカーブの半値幅は、測定した面方位に対するものとしては世界最小級であったという。これは結晶構造の揺らぎや欠陥が少ないことを示すものとするほか、転位密度がこの半値幅の値から算出されたところ、従来のMOCVD作製結晶に比べて2桁ほど低い約3×109cm-2であったという。さらに、光学的品質を示すフォトルミネッセンススペクトルの半値幅も世界最小クラスとなる0.1eVであったという。

加えて成長した結晶は、100~数100nmおきに転位が存在する以外は、ほとんど結晶欠陥の発生が見られなかったという。電子顕微鏡像から算出した成長速度は、0.3μm/時であり、従来のMOCVD技術と比較して2倍以上の速さが達成されたとする。

  • 準大気圧プラズマ源が統合された原料ガス導入ユニットの模式図

    (左)(a)準大気圧プラズマ源が統合された原料ガス導入ユニットの模式図。(b)窒素ガスプラズマ点灯の様子。(右)(a)成長したInN結晶のX線回折ロッキングカーブ。(b)同じく室温フォトルミネッセンススペクトル (Applied Materials Today誌に掲載された図面(クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0国際)が和文に編集されたもの) (出所:産総研Webサイト)

今回の成果により、高い電子移動度を持つInNによる次世代高周波デバイスやIn含有率30から100%で太陽光の波長域をカバーする高効率太陽電池、In含有率30から40%での高効率赤色発光マイクロLEDなど、カーボンニュートラル社会、ポスト5G社会に欠かせない電子・光デバイスの実現に貢献することが期待できると研究チームでは説明しており、今後、装置のさらなる改良や成膜条件の最適化などを行い、より高品質なInNの成膜や高効率な赤色発光InGaN量子井戸構造の作製を行うと同時に、それらを用いた高効率光・電子デバイスの開発を進めるとしている。