実験の結果、生後7~8か月児では、上の顔を最初に見る割合が高く、下よりも上の顔に対してバイアスがあることが確認された。一方、生後5~6か月児では、どちらの顔に対しても差はなかったという。そして左右の場合は、どの月齢でも差はなかったとした。これらの結果は、顔の上視野優位性の発達変化が示されており、経験による獲得の可能性を示すものだとする。
また、7か月以降の乳児で見られた上の顔へのバイアスが、顔だけに生じるのかどうかを確認するため、顔と似たような輪郭と内部構造を持つ家の画像を用いて、生後7~8か月児を対象として実験も実施。上視野優位性効果が顔特有であれば、顔以外の物体である家では上下で見る割合に差はないものと推測された。
実験の結果、家の場合は、上下でも左右でも差は見られなかったという。この結果について、上視野優位性効果は顔に特有の現象であることが示されているとする。
さらに、上の顔に最初に目を向けるだけでなく、記憶することができるのかも調べられた。実験では、上下に2人の女性の顔を15秒間6回繰り返し提示が行われた後、2人の女性の顔を左右に10秒間提示し、選好が調べられた。乳児はよく見たものよりも、新しい方を選好して見るといわれる。上に出る顔を優先的に覚えているとしたら、下の顔が相対的によく見ていない新しい顔となるため、テストのときに下の顔を選好して見るものと予測された。
実験の結果、予測された通り、生後7~8か月児は下に出た顔を選好することが示された。このことは、上の顔を記憶している可能性があるとするほか、学習時では、上下の顔に対する見る時間には差は確認されなかったとしており、これらの結果から、顔の上視野優位性は上に出る顔を見ようとするバイアスだけでなく、優先的に記憶しようとすることにも関与していると考えられるという。
生後7か月頃といえば、寝返りやものに手を伸ばすリーチングも始まる時期であり、この時期に、身体に基づいた上下の座標軸ができあがる可能性があると研究チームでは説明する。また、ハイハイや歩行が始まる直前頃には、視覚に基づいた身体座標軸が発現することも考えられるともしており、こうした空間座標の獲得に合わせて、「顔=上にあるもの」という関係性を学習していることも推測されるとする。
なお、今回の研究より、生後半年頃に顔を見出す能力が空間座標に基づいて発達することが判明したことから、身体を自由に動かせるようになる前に、視覚能力が発達することを示すものだとしており、こうした乳児期における視覚世界の変化が、ヒトの知覚・認知能力の獲得につながる可能性が考えられるとしている。
また、顔はヒトにとって重要な情報源であることから、この貴重なサインを見落とさないためにも、顔を素早く見つけ出すことは必要不可欠であり、顔の上視野優位性はその手助けになっていることも考えられるともしており、今回の研究成果から、ヒトが瞬時に顔を見つけ出せるようになるための発達メカニズムの解明につながることが期待されるともしている。