コロナ禍によって大きな打撃を受けた世界経済。しかし、各国が景気のテコ入れを図った結果、「金余り」も一部では起き、資金の安全な避難先として換金性の高い有形資産に対する興味を示すユーザーも一方では増加した。
宝飾品や高級時計など一部の高額品の需要が喚起され、価格が高騰する現象も起きたが、その代表的な例が高級時計のロレックスだ。
しかし、世界情勢が日々刻々と変わり、コロナ禍も小康状態にあるなか、今後その価格はどうなっていくのか。高騰の背景と今後の見通しについて、買取専門店『大吉』を運営するエンパワー 大吉事業部の木村健一本部長に聞いた。
■定価の5倍以上で取引されるモデルも
――まずはロレックスの市場価格の推移から教えていただけますか?
ロレックスで最も人気のある定価100万円ほどのモデルだと、だいたい2017年で200万円、2018年で250万円、2019年で280万円、2020年で290万円というかたちで、常に定価を上回る額で取引されています。2021年から急激に上昇して400万円、今年は550万円ほどになっています。
――2021年に急騰した背景には何があるのでしょうか。
コロナ禍で工場が一部ストップし生産量が減少したことと、資産的な注目を受けて投資目的での購入希望者が急増したことの2つですね。ムーブメントと言われる時計の中身の機械は、基本的に職人さんがひとつずつ手作業でつくっているので、コロナで作業場に人が集まりにくくなって、個体数や流通量も減ってしまったんです。
――ロレックスのなかでも定価より高く取引される人気のモデルにはどのようなものがありますか?
時計は大きく分けてスポーツモデルとドレスモデルの2種類があります。バブル崩壊後の90年代以降はファッションのカジュアル化が進み、スーツスタイルで合わせるドレスウォッチ系のモデルよりもスポーツモデルが人気となっています。ロレックスに限らずどのブランドでも同じような傾向で、人気のスポーツモデルは正規店では常に在庫が不足している状況ですね。
ロレックスでは2019年11月から、1本購入すると5年購入ができないという購入制限が続いており、デイトナ、サブマリーナ、GMTマスターⅡ、エクスプローラーなどスポーツモデル全般が対象となっています。このことも、スポーツモデルの価値を高めている要因のひとつです。
■高級時計のなかでもロレックスが注目されるワケ
現在はブティックに行ってもモノがなく、いきなり正規店に行ってロレックスを購入できる確率は低いです。ただ、入荷のタイミングなどが合えば定価で購入でき、市場では2~3倍の販売価格で買取してもらえます。
そういう状況なので、特に買取価格の高いデイトナを求め、毎日正規店に通う方々もいます。巷では"デイトナマラソン"とも呼ばれたりしていますよ。
――ロレックスの人気がここまで過熱したのはなぜでしょうか?
YouTube動画で取り上げられるケースが増えたことはひとつ要因としてあると思います。お店でロレックスを購入する"購入動画"をアップする有名人もいますし、有名人が着用している時計について解説する動画なども人気です。
YouTube動画がきっかけでWeb以外でもテレビや雑誌と幅広くメディア露出が進みました。例えば日本テレビの『マツコ会議』という番組では、ヴィンテージロレックス専門店「クォーク」が取り上げられ、かなりの反響があったみたいです。
――他の高級時計ブランドとは違うロレックスならではの価格高騰の要因はありますか。
普通はモデルチェンジするまで同じように当然つくるんですけど、ロレックスって同じモデル・型番でも文字盤の仕様が若干違ったりするんですね。
あえてブランディングの観点でやっていたのかはわかりませんが、文字の書体が少し変わるとか、白い文字盤が経年変化でアイボリーっぽい色になるとか、同じモデルでも何パターンもの文字盤が存在します。ロレックスは現行製品でも同じようなことをやっていて、そうした希少性の高いものには需要が集中します。
高級時計のなかでは比較的手が届きやすい価格帯でもあり、将来的な期待込みで購入される方が多いです。
実際、過去に発売されたヴィンテージロレックス「ポールニューマンデイトナ」というモデルが20億円という過去最高額で落札されたというニュースもあります。
――20億円!! ちなみに、どんなモデルになるんでしょうか……?
60年代から70年代前半にかけてつくられていたモデルで、同じ型番で他の文字盤は多く出回っているんですが、ポールニューマン文字盤と呼ばれる文字盤のものは数が極端に少ないんですね。ポールニューマンは俳優の名前で、ご本人がつけていた時計だったことも落札価格が高騰した理由です。
世界的オークションで高値の取引が続いていることも、ロレックスの市場価格を全体的に底上げしていると言えます。
■ウクライナ情勢の影響でロレックスの売却が増加、先行きは?
――ロレックスの価格について、今後はどのように推移していくと見ていますか?
上がり切っていたところを100%とすると、ウクライナ危機で80%くらいまで下落し、いま90%ぐらいまで持ち直している、といったところでしょうか。ウクライナ情勢により流通量が減ることで供給が減り、価格が下がる可能性はありますが、資産性の高さを認知する方が増えたので、需要は極端に下がることなく安定してくると考えています。
とはいえ先行き不透明なので、いま少し価格が戻ってきたタイミングでの売却はひとつの賢い選択だとも思います。投資用で購入した方で売りに出す方はいま非常に多く、先月との比較で今月の持ち込みは130%ほど。客数で見ると180%で約2倍近い方が売却を検討されています。
――最後に、資産性を意識した時計の買い方、売り方で注意すべきことがあれば教えてください。
まず売りに出すことを考えると、付属品がすべて揃っていることは大事ですね。特に年月が経つほどギャランティと言われている保証書の有無で評価が変わります。逆に使用感などは全く査定には影響しません。普段使いでついた小傷やスレは研磨すれば、新品と同様の仕上がりに戻せるので。なかの部品に関しても同様で、きちんとオーバーホールをかければ新品と同じような状態になります。
時計はメンテナンスすれば半永久的に動くと言われ、基本的には流行に左右されにくいと言われています。より資産性を高める観点では需要と供給のバランスを意識することが一番重要です。
最近はパテックフィリップがティファニーとのコラボモデルを170本限定で販売するなど、世界三大時計ブランドと呼ばれる高級時計ブランドも、希少性を意識した展開をしていますね。
資産性を意識して時計の購入を検討されているのであれば、まずは絶対数が少ない限定品を選ぶことがポイントと言えるでしょう。
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構成: 伊藤綾