病気やケガで働けなくなったときの生活を保障してくれる「就業不能保険」。とはいえ、仕事を休んでいるからといって、必ずしも就業不能保険の給付対象となるわけではありません。
今回は、支払い条件が厳しいという声もある就業不能保険について詳しく解説します。
■就業不能保険の保障内容と加入条件は?
<働けないときの収入を保障する保険>
就業不能保険は病気やケガで働けなくなったことで、収入が減ってしまうリスクに備える保険です。
公益財団法人生命保険文化センター「令和元年度 生活保障に関する調査 」によると、病気やケガによる入院で失われた収入があった人の割合は21.6%。その額の平均は32万円となっています。
また、失われた収入の総額を入院日数で割った1日あたりの失われた収入額は、平均で19,500円となっています。
病気やケガによる治療費への不安が大きくなりがちですが、それに伴う収入の減少についても考えておく必要があります。 こういった収入の減少に備えられるのが、就業不能保険です。
<就業不能保険の加入条件>
過去の病気や健康状態などによっては、加入できない場合があります。 また、職業や年齢、年収によって、給付金の設定に上限が設定されていることもあります。 主婦(主夫)は加入できないものもあるので、確認が必要です。
<間違えやすい「収入保障保険」との違い>
「就業不能保険」と似たような名前で間違えやすいのが「収入保障保険」です。 「就業不能保険」と「収入保障保険」はどちらも収入減に備える保険であることは同じです。違いは、誰の生活費を補うのか、という点です。
「就業不能保険」は働けなくなったときに、ご本人も含めた家族の生活費を補うための保険です。
一方、「収入保障保険」はご本人が死亡もしくは所定の高度障害状態になったときに、のこされた家族の生活費に備える保険となります。
自分にとって必要な備えを得るためにも、違いをしっかりと理解しておきましょう。
■就業不能保険の支払い条件
<就業不能状態の基準は保険会社で異なる>
就業不能保険の給付金受給の対象となる「就業不能状態」は、
・治療のために入院している状態
・医師の指示のもと在宅療養をしている状態
・障害等級の該当する級に認定される状態
といったように、保険会社によって基準が決められています。
在宅療養の場合は、さらに厳しく条件が設定されている保険会社もあります。
実際に仕事に行ける状態ではなかったとしても、保険会社の基準を満たしていなければ、給付金を受け取ることはできないので、注意が必要です。
<免責期間がある>
就業不能保険の多くには60~180日の免責期間が設定されています。 免責期間を超えて就業不能状態でないと受給対象とはならないため、短期間で仕事に復帰できた場合には就業不能保険の受給対象とはなりません。
<精神疾患は対象とならない保険会社も>
うつ病などの精神疾患は対象とならない保険会社もあります。とはいえ、精神疾患の患者数は多く、働けない期間も長期化する傾向にあります。 精神疾患の保障も必要な場合には、対象となるかどうかを必ず確認しましょう。
■就業不能保険を検討すべき人はこんな人
<自営業者やフリーランス>
会社員や公務員は、病気やケガで働けないときには傷病手当金を受給できますが、自営業者やフリーランスが加入する国民健康保険には傷病手当金の制度がありません。 公的保障が手薄になってしまう分、必要な備えは自分で用意する必要があります。 また、自営業者やフリーランスの場合、仕事に復帰してもすぐに以前と同じ収入を確保できるかどうかはわかりません。治療中に預貯金を使い果たしてしまうと、復帰後の生活を維持する余力がなくなってしまうことにも注意が必要です。
<ライフスタイルの変更が難しい>
傷病手当金を受給できる会社員や公務員であっても、受け取れる額は支給開始以前12カ月の標準報酬月額の2/3になります。これまでの収入の1/3は減ってしまうので、補填できないのであれば、暮らしをコンパクトにする必要があります。
一時的にでもライススタイルの変更が難しい場合、就業不能保険の必要性は高くなります。
また、住宅ローン返済中や大学生のお子さんなどがいて教育費がかさむご家庭は、通常でも厳しい家計状況の場合が多いです。
そのような状況で収入が減ってしまうと、自宅を手放したり、進学を諦めたりといった大きな選択をしなければならなくなる可能性もあります。
<貯蓄が少ない>
働けなくなったときには貯蓄を取り崩して生活することになります。取り崩せるだけの貯蓄がない場合にも、就業不能保険の必要性は高くなります。
■就業不能保険の選び方5つのチェックポイント
<免責期間が適切か>
会社員や公務員の場合、病気やケガで働けないときには傷病手当金を受給できます。傷病手当金は支給を開始した日から通算で1年6カ月間受給できます。 ただし、自営業者やフリーランスの場合は傷病手当金がありません。貯蓄が少なく、すぐに生活に困ることが想定される場合は、免責期間の短さを優先度高く選ぶ必要があります。
<給付金は適切か>
給付金は月額5万円程度から設定できるものが多くなっています。給付金を多くすると安心ではありますが、その分保険料が高くなってしまいます。過不足のない給付金を設定するためにも、わが家にはどれだけの額が必要になるかを試算する必要があります。
そのためには、傷病手当金や障害年金といった公的保障で得られるお金がどれくらいあるのかを確認しておきましょう。
・傷病手当金
支給開始以前12カ月の標準報酬月額の2/3・障害基礎年金(年額)
1級:972,250円+子の加算額※
2級:777,800円+子の加算額※
※子の加算額
2人まで 1人につき223,800円
3人目以降 1人につき74,600円・障害厚生年金(年額)
1級:(報酬比例の年金額)×1.25 + 〔配偶者の加給年金額(223,800円)〕※
2級:(報酬比例の年金額)+〔配偶者の加給年金額(223,800円)〕※
3級:(報酬比例の年金額) 最低保障額 583,400円
※生計を維持されている65歳未満の配偶者がいるときに加算
自営業者やフリーランスの場合、対象となる公的保障は障害基礎年金のみとなります。 また、障害年金は受給までに時間がかかる点にも注意が必要です。
<精神疾患が対象となっているかどうか>
精神疾患が対象外となっている保険もあります。メンタルヘルスに不安がある場合など、精神疾患にも備えたい場合は、検討している保険が精神疾患も対象としているかを確認しておきましょう。
<給付期間や給付回数は適切か>
就業不能状態が続く限り給付金が受け取れるものもあれば、給付回数が決まっているものもあります。
給付金同様、保障が手厚くなればその分保険料も高くなります。
家族のライフイベントを確認して支出が多くなる時期までに限定したり、障害年金が受給できるまでに限定したりするなど、必要な期間や回数を設定しましょう。
<満額タイプかハーフタイプか>
給付金の受給を受給開始日から満額受け取るか、一定期間は受給額の半分を受け取り、その後全額を受け取るハーフタイプかを選べる保険もあります 。 満額タイプと比べてハーフタイプの方が保険料を抑えることができます。
傷病手当金を受け取ることができる会社員や公務員はハーフタイプを選んで保険料を抑えることも可能です。
■まとめ
就業不能保険は病気やケガで働けなくなったときの収入減に備える保険です。
就業不能状態の要件や免責期間により支払い条件を厳しく感じるかもしれません。 ただ、保険は起こる頻度が低く、経済的ダメージが大きなものに備えるものです。受け取れる可能性が低そうだから必要ない、ではなく収入が減るリスクに対して備えが足りているのか?という点で必要性を考えましょう。
加入を検討する際には、保険会社によって違いがあるので、就業不能状態の要件や免責期間、精神疾患の扱いなどを中心に、ご自身の条件に合っているかをしっかりと確認しましょう。