放送されるたびに話題を集めるフジテレビの深夜バラエティ番組『ここにタイトルを入力』。TVer・FODで見逃し配信されている25日の放送は、バカリズムMCによる『KING OF ILLUSION(キングオブイリュージョン)』だ。
「世界が認めるイリュージョニスト・HARAがこの番組だけに見せる前代未聞のイリュージョンショーを繰り広げる」と予告されていたが、たしかに“前代未聞”のイリュージョンショーを目撃することになった――。
■今週は「ほぼ全部コンプラに引っかかった」
バイきんぐ・小峠英二を縦に分割してクイズ番組と鼎談トーク番組に同時出演させ、フワちゃんの浅草街ブラロケを監視カメラや野次馬の動画など映り込み映像で取り繕った『ここにタイトルを入力』。第3週の今回も、もはや恒例となったスタッフからMCへの釈明で幕を開けた。
小峠にはダブルブッキング、フワちゃんには全撮影データを消去してしまったスタッフが今回やらかしたのは、「やる予定だったマジックが、ほぼ全部コンプラに引っかかってしまいまして、ちょっとできなくなっちゃったんですよ」という残念な確認ミスだった。ただ、「水中脱出」「人体切断」までもが“絶対NG”という考査の世界線なので、今回はスタッフも被害者なのかもしれない。
ここで問題になるのは、放送尺をどう埋めるかだ。スタッフはHARAの「何とかする」という言葉を信じ、バカリズムにそのフォローを依頼した。疑問や不安を抱えた小峠やフワちゃんとは違い、バカリズムは即座に自らの役割を察したようで、実に落ち着いている。
■止まることのない「混ぜ」
こうして本編がスタート。神業のイリュージョンが間近で見れるとあって、シソンヌ・長谷川忍は「ありがとうございます」、鈴木福は「すごく楽しみです」、朝日奈央は「今の時代に見れるマジックショーというのがどういうものなのか、気になりますね」と興奮を隠せない。どうやら、尺を埋めることを最優先に考えられている番組であることに気づいていない様子だ。
そして、ど派手な演出で登場した、世界を股にかけるイリュージョニスト・HARA。まずはトランプを使ったマジックを披露するといい、自ら抜いたカードの中身が分からないように鈴木に差し出し、後ろを向いた。鈴木は「ハートの9」と確認し、それが右下にテロップで「選んだカード」と表示される。
全員がカードの中身を共有したところで、HARAはカードを裏面にしたままトランプの束に入れ、「混ぜていきます」と宣言。プロらしく鮮やかな手さばきで混ぜていき、その混ぜ方のバリエーションの豊富さにゲスト陣も感心していたが、徐々に雲行きが怪しくなる……混ぜが止まらないのだ。
裏にして混ぜたり、表にして混ぜたり、シンプル混ぜを挟み込んだり、時にはただカードを飛ばして実は混ぜていなかったり、ゲストにストップをかけさせてみたり、長谷川とHARAが見つめ合って一緒に混ぜてみたりと、混ぜに混ぜ続けるうちにCMに突入してしまった。
CMが明けても混ぜ続ける2人。その後は、いよいよ選んだカードを当てるのでは…と見せかけて何も起きないという焦らしタイムへ。ゲストに「(新たに選んだトランプに出た)2と言えば、何が頭に浮かびますか?」と聞いておいて回答をスルーし、全く関係ないレモンを取り出し、それを真っ二つに切って中から「ハートの9」のカードが出てくる……と思いきや、バカリズムの「見事な断面が!」というフォローで終わる鮮やかな無意味行動の流れに対し、逆に驚きのあまり長谷川がよだれを垂らしてしまうハプニングも。
それでも、スタッフにHARAをフォローすることを約束したバカリズムは、めげずに役割を全う。随所随所で聞こえてくる「これも何かの伏線なのか?」「えっ、ちょっと待って!?」「運命が最初から決まってるかのように」「一瞬ヒヤッとしましたね」といった盛り上げフレーズが、だんだんツボに入ってくる。
■もはやシュールな「選んだカード:ハートの9」
終盤は、イリュージョンで使うはずだった装置の“消化作業”の時間。仕込まれたダンサーがただ踊り、水中脱出用の水槽にHARAが潜ってトランプをぶちまけ、鈴木や朝日が箱に閉じ込められるが、当然どの演目も成立するとコンプラ違反なので、それ以上何も起きない。こうなってくると、右下に表示され続ける「選んだカード:ハートの9」のテロップがシュールに見え、もはやスタジオの全員が選んだカードの中身を忘れているのでは?と心配にもなってくる。
結局、中盤で長谷川がズボンのポケットに入れた想像上のカード「イメージのカード」をHARAが受け取るしぐさをし、「ハートの9ですね」と正解。鈴木は箱に閉じ込められたままセットの外に移動されたのでここにおらず、朝日は箱の中で何も見えず、長谷川ですら実物の「ハートの9」は確認できず、全員がモヤモヤの結末を迎えたが、遠回りしたイリュージョンは見事成功ということで押し切られた。トランプのテーブルマジック1つで30分番組をまるまる使ったのは、おそらく“前代未聞”のことだろう。
こんな空気にもかかわらず、HARAは、スーパーイリュージョンを成功した段取りの流れで、自伝的小説『マジックに出会って ぼくは生まれた』を堂々告知。この日本一説得力のない告知に、長谷川が「ウソでしょ!?」と混乱する一方、バカリズムは「これはぜひ読みたいですね」と最後まで役割を守って絶賛し、番組は終了した。
■全く吹き出さずに無意味な行動を演じきったHARA
名誉のために書くと、HARAは、ラスベガスで開催されたマジックの世界大会「World Magic Seminar Teens contest」で日本人初のグランプリ受賞し、マジック界のアカデミー賞「マーリン・アワード」で最も独創性あるパフォーマンスを行うイリュージョニストに与えられる“Most creative illusionist”を日本人初受賞した、正真正銘の世界的イリュージョニスト。このカオス番組で、全く吹き出すことなく無意味な行動を演じきる姿も、ある意味イリュージョンなのかもしれない。
ニセモノのマジシャンと勘違いする視聴者を生んでしまう恐れもあるのに、番組趣旨に賛同して出演してくれたHARAに、心から拍手を送りたい。ただ、所属事務所ホームページのメディア出演情報に、「YBS山梨放送」の番組が告知されているのに、フジテレビの『ここにタイトルを入力』の記載が見当たらないことだけが気がかりだ……。