“小中学校に1人1台の学習用情報端末を配備する”として、2019年より文部科学省が進めていた「GIGAスクール構想」。iPadの導入を推進しているアップルは、iPadを用いた授業の参考となる豊富な資料や、全国の学校での優れた実践事例をWebサイトで公開。ICT教育に詳しくない先生でも、iPadを宝の持ち腐れにすることなく、それらを参考に効率的な授業ができるようにしています。この努力もあり、iPadはすでに275万台以上が全国の小中学校に導入されたといいます。今回、GIGAスクール構想でiPadを導入して手応えを感じている自治体の担当者に、iPadの導入を決めた理由や、iPadを授業で効果的に活用するためにどのような取り組みを行ってきたのかを取材しました。
「iPadは耐久性に優れる」点も選定理由の1つになった
まずは、ブランド牛「松阪牛」で全国的に知名度の高い三重県松阪市です。人口は約16万人で、小学校は36校、中学校は11校を抱えます。
松阪市、実は10年以上前の2011年にiPadをいち早く学校に導入した先駆者的な存在です。当時、総務省が3カ年で実施した「フューチャースクール推進事業」に参画し、モデル校として設定した市内の中学校1校に1人1台のiPad(iPad 2)を配備。その後は、市の事業として小中学校への配備を徐々に進めていき、GIGAスクール構想を受けて2020年に全小中学校へ一気に配備しました。
松阪市教育委員会の脇清人指導主事によると、松阪市がiPadを全面的に導入した最大の理由は「耐久性に優れる」(ハードウエア面)、「AirDropなど基本的な機能が使いやすく、すでに授業でも欠かせない存在になっていた。純正アプリ、サードパーティ製アプリとも、学習支援に使える優れた無料アプリが充実している」(ソフトウエア面)、「教員の研究支援を無料で提供するApple Teacher制度がある」(サポート面)の3つの要素が備わっているからだとしました。
耐久性については「過去に導入した学校で、iPadは耐久性に優れていてトラブルなく使えることが経験的に分かっていました。それまで、各校のパソコン室にはデスクトップパソコンを設置していたのですが、リース切れのタイミングで順次iPadにリプレイスしました」と解説します。
松阪市では、早期にiPadを導入したモデル校に勤務していた先生が他校に異動することで、iPad活用のノウハウが早期に広がっていった、という好循環もあったといいます。
対面での説明を実施し、保護者や地域の理解や関心も高まる
松阪市の取り組みで興味深いのが、家庭や地域の人を巻き込んでGIGAスクールへの理解や関心、期待を獲得している点です。
「ICT機器を学校や家庭で使うことに不安を感じる保護者もいましたので、まずは松阪市のICT活用の方針を周知することに努めました。保護者を対象にした説明会を実施し、iPadの活用ルールを配布したうえで、保護者向けの授業体験会も開催しました。周知の甲斐あって、『タブレットを使えばこんなこともできるんだ』と理解が得られ、保護者だけでなく地域の住民や企業も教育への注目が高まったのを感じました。これほど教育に関心を持ってもらえることはこれまでになかったので、手応えを感じています」と脇さんは語ります。
数学の授業で大活躍しているClips
「iPadは、教育現場で活用できるアプリがたくさん揃っているので、授業ではiPadを文房具の1つのように当たり前に活用しています」と語る松阪市立久保中学校の湊川祐也先生に、実際の数学の授業でのiPad活用例を解説してもらいました。
数学の授業でよく使っているのが、意外にもClipsなんだそう。「さまざまな問題の解法を先生になりきって解説するために、それまではKeynoteを使っていました。しかし、生徒たちはTikTokなどで動画作成に親しんでいることを知り、それならばClipsを使ってみようとなりました」といいます。
「Clipsは、写真やスクリーンショット、画面収録の動画を簡単に取り込んで、自由自在にオリジナルムービーが作れるのがよいと感じています。動画の長さを2分以内に制限したことで、構成を厳選して考えるようになりました。学びが生徒主体になることで気づきが得られ、より理解が深まると感じています。生徒へのアンケートでも、理解が深まったという声が多かったですね」と評価します。
早い段階からiPadの可能性に着目し、家庭や地域を巻き込んで効果的に学力や発信力、ITスキルの向上につなげることに成功した松阪市。社会に出ても対応できる力を若いうちから身につけさせたいという学校の方針も、文句なしに達成できそうです。