訓練施設
格納庫の西側には主として訓練施設が配されている。神戸事業所ができたときからトレーニングセンターが稼働しており、こちらも開設10周年となった。2022年4月現在、操縦教官は7名(うち6名が自衛隊OB)、整備教官は5名を擁する。
ヘリコプターだけでなく固定翼機も同様だが、最初は座学から始まり、さまざまな実技訓練を経て、パイロットであればシミュレータ訓練から、最後は実機による訓練となる。整備士は当然ながら、ヘリコプターを構成する各種コンポーネントの現物を相手にして訓練を積むが、試運転などでエンジンを動かす機会もあるので、整備士の訓練でもシミュレータが必要になる場面がある。
エアバス・ヘリコプターズ・ジャパンの神戸事業所は、日本で初めて、ヘリコプター用のFFS(Full Flight Simulator)を導入した施設だという。機材を据え付けて稼働を開始したのは2014年7月のこと。
日本ではH135以外にもさまざまな機体が使われているが、そのすべてについて、神戸事業所にシミュレータがそろっているわけではない。数が少ない(つまり訓練の需要も少ない)機体のために、高価なシミュレータをいちいち設置していたら、割に合わない。だから、世界各地にあるエアバス・ヘリコプターズの訓練拠点全体で所要を満たせるようにしており、使用する機種に対応する訓練施設がある場所に出かけて行って訓練を受ける。そのため、海外から日本に訓練を受けに来ることもある。
エアバス・ヘリコプターズ・ジャパンでは、2021年6月にH160の訓練体制も確立した。すでにH160は初号機がオールニッポンヘリコプターに納入されているが、さらなる需要も見込んでいる。すると訓練のニーズも出てくるから、先手を打ったということだろう。
面白いのは、機体を飛ばすパイロットでも、オートパイロット訓練やTEM(Threat and Air Management。脅威となる事態への対処)訓練などを実施していること。特定の機種に依存しない、一般的な訓練であれば実施可能というわけだ。
海上自衛隊の訓練ヘリ整備とPBL
エアバス・ヘリコプターズ・ジャパンは、海上自衛隊の訓練用ヘリコプターも納入した。それがTH135で、名前の通りにH135を海自の要求仕様に合わせたものだ。操縦訓練用で戦闘任務に使用するわけではないから、もちろん武装はしていない。
そのTH135は、日常的な点検整備は海上自衛隊で実施しているものの、大がかりな整備はエアバス・ヘリコプターズ・ジャパンが受託している。これに限らず、軍用機でも機体の整備・補修・オーバーホール(MRO : Maintenance, Repair and Overhaul)をメーカーや専門の企業に外注する事例は多い。
そこで問題になるのが契約の形態だ。単純に作業量に応じて支払を実施する形では、受託する側は業務改善のインセンティブが機能しにくいし、過大請求等の問題を引き起こすこともある(実際、海外ではそういう事例があった)。
そこで一般化したのが、PBL(Performance-Based Logistics)。MRO業務であれば、整備した機体の可動率みたいなパフォーマンス指標を定めて、それが当初に設定した目標を上回れば報償を出す仕組み。受託する側からすれば、結果を出さなければ利益にならない上に、業務効率の改善も利益につながるから、改善のための動機付けになる。口の悪い言い方をすれば、目の前にニンジンをぶら下げて馬を走らせるわけだが、予算の有効活用に適していると認識されて、防衛装備品の分野で広く用いられている手法だ。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。