立体音響やワイヤレスなど、オーディオの最先端技術が培われてきたゲーミングエンターテインメント分野。デンマークのEPOS(イーポス)は、ユーザーに上質な体験を提供するゲーミングオーディオのブランドとして2020年の設立以来、急速に成長を続けています。

  • EPOSのゲーミング部門グローバルマーケティング責任者、メイヤ・サングリムニッツ(Maja Sand-Grimnitz)氏に、同ブランドの展望を聞いた

今回、EPOSのグローバルマーケティング責任者であるメイヤ・サングリムニッツ(Maja Sand-Grimnitz)氏へのオンラインインタビューを実施。プレミアムブランドの戦略と、2022年以降に発売を予定する新しいゲーミングオーディオ分野の製品について展望を聞きました。

ゼンハイザーのゲーミング製品を引き継いだ「EPOS」

EPOSの母体は2003年にドイツのゼンハイザーとデンマークのDemant(ディマント)による合弁会社として立ち上がりました。Demantは医療・聴覚テクノロジーのエキスパートとして広く知られるグローバルカンパニーで、2019年に同社が合弁会社の株式を100%保有後、2020年にEPOSを正式にローンチ。現在、EPOSの製品は世界60以上の地域と国で展開されています。

EPOSの事業にはふたつの柱があります。ひとつがゲーミング、もうひとつがヘッドセットなどエンタープライズ向けのコミュニケーションデバイスです。同社製品の強みは、長年にわたり聴覚医療機器を取り扱ってきたノウハウを下地として、良質なオーディオ製品を開発できるところにある、とサングリムニッツ氏が述べています。

  • デンマークのコペンハーゲンに拠点を構えるEPOSの社屋

脳の知見生かした新製品、2022年5月以降に投入へ

EPOSは2020年にオーディオブランドとして本格始動した後から、すぐに同社製品のラインナップを充実させてきました。2022年5月以降には、独自の脳科学の知見をベースに開発した「BrainAdapt」というテクノロジーを搭載する新製品の発売を予定しています。

BrainAdaptテクノロジーは、オーディオ機器を装着して長時間音を聴くときに、脳や聴覚に掛かる負担を適切に軽減することを目的とした技術です。BrainAdaptの詳細については本記事でのちほど、サングリムニッツ氏に解説してもらいます。

EPOSでは2023年までに、ゲーミング分野の製品ラインナップをさらに厚くしていきます。サングリムニッツ氏によると、オーディオコントロールミキサーの新製品「GSX1000 2nd Edition」が発売を予定しているそうです。

また、密閉型ヘッドセット「H3PRO Hybrid」、左右独立型ワイヤレスイヤホン「GTW 270 Hybrid」のアップデートについても言及がありました。詳細は5月以降順次、公式発表を通じて明らかになる予定です。

  • ゼンハイザーとEPOSのブランドで展開していたオーディオコントロールミキサー「GSX1000」も、まもなく第2世代モデルへの刷新を計画しているようだ

日本のゲーマーとEPOSが共有する「高音質へのこだわり」

数あるゲーミングオーディオブランドの中で、EPOSが目指すところは「ゲーミング体験を高めるハイエンドブランドとしての地位を確立すること」であるとサングリムニッツ氏は述べています。

「EPOSでゲーミングプロダクト開発に関わるチームは、メンバー全員が情熱的なオーディオエキスパートであると自負しています。高音質であることの価値をリスペクトしつつ、快適なゲーミングを実現するためにいつも新しことに挑んでいます」

さらに、EPOSがターゲットとして描くユーザー層についても聞きました。

「多くの方々にとってゲーミングは大人になっても楽しめる一生ものの趣味です。大人になると、さらに良い環境でゲームを楽しめるように、アクセサリー機器にも投資をしてみたくなるものです。上質なゲーミングアクセサリーに期待するユーザーに独自性の豊かな製品を届けたいとEPOSは考えます。当社にとって大事なターゲットユーザーは、良質なものの価値を知り、好奇心も旺盛な成熟したゲーマーの方々と言えるかもしれません」

同社の製品は高品位であることを徹底追求しながら、一方で多くのユーザーが手に入れて楽しめるよう、価格も値ごろ感が得られる範囲に収めることを意識しているそうです。

  • オンラインインタビューに答えるサングリムニッツ氏

サングリムニッツ氏は、特に日本のゲーマーは良い環境でゲームを楽しむことの大切さを深く理解している、EPOSにとって「理想のユーザー像」なのだと語っています。

「日本のゲーマーの中にはさまざまな製品や技術を体験し、物事に精通している方が大勢いることを知っています。皆様は製品の細部にまで及ぶ知識を得ることにも貪欲です。良質なゲームの周辺機器に対するニーズはとても高く、プレミアムな製品を届けたいEPOSの情熱と、日本のユーザーのこだわりの間には強い結びつきがあります。日本はEPOSにとって非常に大事なコミュニティです」

同社製品の高い品質を伝えるときに、EPOSではふたつの魅力を強くアピールしています。

ひとつは、EPOSのゲーミング製品がすべてデンマーク本社で技術の開発と設計を行っていること。サングリムニッツ氏は、デンマークで育ってきた良質なオーディオを求める文化が、EPOS製品にも反映されていると強調します。

「デンマークは趣味として楽しむハイエンドオーディオがさかんな国です。また、医療用補聴器も世界的に有名なブランドが数多くあります。オーディオ文化の長い歴史とともに、人々の間には“良い音”を求める文化が根付いています」

もうひとつは、すべての製品にエレガンスと高い機能性を同時に追求した北欧スカンジナビアデザインのエッセンスを注入していることです。筆者はふだん、ゲームを楽しむ時やオンライン通話のときにEPOSのワイヤレスヘッドセット「H3PRO Hybrid」を使っていますが、長時間心地よく身に着けられるソフトな装着感も、同社製品ならではの魅力だと捉えています。

  • 装着感も快適なワイヤレスヘッドセット「H3PRO Hybrid」

サウンドリスニングの負担を軽減するBrainAdaptテクノロジー

2022年、EPOSはゲーミングとビジネス用途のオーディオプロダクトの両方に、独自のBrainAdapt技術を本格投入します。最先端技術の特徴についてサングリムニッツ氏は次のように話しています。

「ユーザーの耳が長時間にわたってサウンドにさらされるときの疲労を軽減し、コンテンツをディティールまで心地よく体験できるようにする、Demantの研究成果を下地としたEPOS独自の音響技術です」

  • EPOSには、Demantが培ってきたBrainAdaptの原型となる技術の蓄積がある。2021年にEPOSが開催したオンラインイベント「The Power of Audio in Gaming」でも、R&D部門の副社長であるJesper Kock氏が、脳とリスニングの科学についてスピーチしている

音を聴くとき、脳にかかる負荷が分散・軽減されることで、たとえば長く集中力が続いたりストレスを軽減する効果が得られるといいます。リスニング時の負担が減ると音響空間の認識力も高まり、コンテンツに含まれる音のディティールや定位などの情報が正確につかめるようになるとのこと。

ゲーミングの場合は、BrainAdaptの有無がプレイの勝敗を分けることにも結びつくかもしれません。ビジネス用ヘッドセットの場合は、通話音声がよりクリアに聞こえるようになることから、リモート会議の負担が減らせる効果が期待できます。

サングリムニッツ氏はBrainAdaptがEPOSのヘッドセットからイヤホン、オーディオコントロールミキサーにまで幅広く適用できる技術であると話しています。今後EPOSが発売されるどの製品から本格的に投入されるのか、答えが明らかになる5月が楽しみです。

日本市場ではこれからEPOSのブランドをもっと広く、多くのゲーマーに知ってもらえるように、「ゲームトーナメントを支援したり、eスポーツのチーム育成にも積極的に参画しながら、コミュニティとのつながりを深めたい」とサングリムニッツ氏は展望を語っています。

既に多くの人気ブランドが群雄割拠する中で、EPOSが独自に培ってきた技術とプレミアム戦略によって輝きを放つことができるのか、今後も目が離せません。