ドコモのらくらくスマートフォン、auのBASIOなど、各社から発売されているシニア向けスマートフォン。高齢の家族に持たせようかと検討する方も多いと思いますが、普通のスマートフォンと何が違うのか、しっかり下調べをして買うケースは少ないのではないでしょうか。ソフトバンクの最新機種「シンプルスマホ6」(シャープ製)をお借りして、普通のスマートフォンとの違いを試してみました。
見た目は意外と普通?
操作の分かりやすさや画面の見やすさを重視したシニア向け端末は、フィーチャーフォン(ガラケー)時代からラインアップされています。ソフトバンクでいえば「かんたん携帯」というシリーズです。
フィーチャーフォン時代のシニア向け端末のイメージといえば、「すべてのボタンに日本語の説明が大きく書かれている」「重要なボタンは目立つ色」など、良くも悪くも一目でわかる特徴がありました。
シンプルスマホ6を見てみると、今のシニア向け端末はそうではなく、本体の見た目はほとんど普通のスマートフォンと変わらないことに気付きます。
よく見れば画面の下に電話やメール専用のボタンが付いていたり、電源ボタンなどにイラストが入っていたりと簡単操作をアピールする要素はあるのですが、詳しい人以外は画面を見なければ「シニア向けだ」とはあまり思わないでしょう。カッコ良くスマートフォンを使いこなしているんだぞと自慢できるような端末に仕上げ、こういった端末を選ぶ抵抗感をうまく軽減できています。
中身はすみずみまで親切設計
ハードウェアの見た目は普通のスマホに近付いても、中身はもちろんしっかりと作り込まれています。今回は比較対象として、同じシャープ製のスマートフォン「AQUOS zero6」を用意しました。シニア向けと普通のスマートフォンの画面をじっくり見比べてみましょう。
まずはホーム画面。ここは普通のスマートフォンと大きく異なる部分です。アイコンや文字が大きいというだけではなく、スワイプ(指を滑らせる)操作を使わせず、基本機能を1画面にまとめてあります。
スワイプで次の画面に移動するという操作はスマートフォンに慣れた人にとっては当たり前ですが、はじめて触るシニアにとっては、画面に映っている範囲の外に仮想的なページが続いているという概念は理解しにくいです。
当然のように考えがちな前提知識を求めず、誰でも迷わないように作られていることがホーム画面ひとつ取っても伝わってきました。この「暗黙の了解の排除」にはかなり気を使われているように感じます。
たとえば、以下のスクリーンショットは、Wi-Fiやマナーモード、画面回転などの設定をすぐに変えられる「クイック設定パネル」と呼ばれる部分です。普通のスマートフォンと比べると少し「続きがありますよ」と伝わりやすい見せ方にアレンジされています。
ここまでのスクリーンショットでもお気付きかと思いますが、表示サイズやフォントサイズはやはり見やすく大きめに設定されています。同じ記事を表示して見比べてみると、違いは一目瞭然です。
細かい部分ながら感心したのが、アプリ一覧の一番上に「自分の番号」という独自の機能が用意されていること。普通のスマートフォンでももちろん自分の電話番号を確認することはできますが、日常生活で必要とされる場面も少なくない割に、不慣れな人がとっさに探すのは難しい場所にある項目です。ホーム画面から2タップで開ける場所に移されているのは配慮が行き届いていますね。
また、画面外の物理キーを押すと起動できるメールアプリは、メールといっても実はSMSとS!メールを統合した仕様となっています。SMSとメールの違いを理解するのは難しいですし、説明する側も「電話番号で送るメールだよ」というぐらいが関の山。送信方法の違いを意識させず、「文章を送るときはここから」で済む仕様になっているのはスマートだと思います。
家族にシニア向け端末を持たせた人からたまに聞く話で、「普通のスマホと操作が違いすぎて何か聞かれても教えられない」という悩みがあります。たしかに、シンプルスマホ6でも設定画面などの構成は普通のスマートフォンと大きく異なるようです。
ここは考え方を変えて、そもそも手取り足取り教えなくても済むのがシニア向け端末のメリットだと思っておいた方が気楽かもしれません。頑張って自分で教えようとすると、だいたいお互いイライラし始めてギクシャクするのが定番のオチですから……プロに頼ってしまいましょう。
ホーム画面のど真ん中に置かれた「押すだけサポート」を開けば、誤って変えてしまった設定などを自動で直してくれる「おまかせ(自動)で解決する」というボタンと、困っている症状を一覧から選ぶだけで自動的に直してくれる「困った症状を選んで解決する」というボタンがあります。それでも直らなければ最終手段として、画面下の「お問い合わせ」ボタンから有人対応に移れます。
実際に「何かの拍子に背面のライトが消えなくなってしまった(おそらくクイック設定パネルのライトボタンを押してしまった)」「画面が横向きになってしまった(自動回転をONにしてしまった)」などのありがちなトラブルを想定して、わざと設定を変えた状態で「おまかせで解決する」ボタンを押してみたら、一発で直してくれました。
解決した後のポップアップの内容がまた良くて、ただ一言「まとめて解決しました」とだけ力強く答えてくれます。「〇〇の設定が××になっていたので△△で……」などとは言わず、余計な情報を与えて混乱させない、不安にさせない仕様です。
また、設定画面を眺めてみると「元気だよメール」という機能が目に留まりました。指定した時刻、あるいはその日はじめてスマートフォンを操作した時に、指定の相手に歩数などの情報をメールで自動送信できます。メール経由なので送信先の家族は他の携帯キャリアでもOK。簡易的な安否確認ツールとして取り入れやすいでしょう。
あらためてホーム画面に並ぶ厳選された9マスの機能を見てみると、がんばってスマートフォンに挑戦してみたいシニアの理由としてよく挙げられる「カメラ」「LINE」などのほか、少しハードルが高そうな「PayPay」まで並んでいます。
少し意外に思われるかもしれませんが、ソフトバンクのスマホ教室では開催回によってはスマホ決済やフリマアプリのような一歩進んだ使い方も教えています。ただ電話やメールができるようになればそれで終わりではなく、スマートフォンらしい使いこなしができるような充実したサポート体制が整っていることも魅力です。
スマホライフを不自由なく楽しめる性能
ここまで見てきたとおり、シンプルスマホ6は「見やすい」「わかりやすい」「充実したサポート」が特徴です。それは多くの人が想像するシニア向け端末のイメージ通りかと思いますが、一方で「こういう機種は性能・機能も最小限で、慣れてきたら不自由なのではないか」というイメージもあるかもしれません。
結論から言えば、使い慣れてからもスマートフォンライフを十分に楽しめるだけの性能は備えています。CPUはSnapdragon 695を搭載しており、売れ筋のミドルレンジ機「AQUOS sense6」(Snapdragon 690搭載)より少し速いぐらいです。
執筆にあたって色々と試してみましたが、普通のスマートフォンを使い慣れた人の目線でも動作速度に不満はありません。お孫さんが遊んでいるような本格3Dゲームが動くかといえばそれはまた別の話ですが、健康的な趣味として楽しむシニアも多い「ポケモンGO」程度であれば十分遊べます。
OSは発売時点の最新バージョンであるAndroid 12。AQUOSブランドの一般向けスマートフォンのようなアップデート保証はないものの、歴代のシンプルスマホのサポート情報を見てもセキュリティ更新は十分に行われており、長く使う上でのソフトウェアサポートの心配は少ないと思われます。
OSのメジャーアップデートは基本的に行われていませんが、シニア向け端末の性質上、ある日突然操作が変わってしまうことは望ましくないため、大きな変更は行わず細かな修正のみ継続的に行うという対応は安心できる要素です。
このほか、シンプルスマホ6の主な仕様は下記のとおりです。
- OS:Android 12
- CPU:Snapdragon 695 5G(2.2GHz+1.8GHz オクタコア)
- メモリ(RAM):4GB
- 内部ストレージ:64GB
- 外部ストレージ:microSDXC(最大1TB)
- ディスプレイ:約5.7インチ TFT液晶 HD+(1,520×720ドット)
- バッテリー容量:4,000mAh
- アウトカメラ:約1,200万画素+約190万画素
- インカメラ:約800万画素
- 通信方式:5G/4G
- 通信速度(5G):下り最大1.7Gbps/上り最大159Mbps
- 通信速度(4G):下り最大367Mbps/上り最大46Mbps
- Wi-Fi:IEEE 802.11a/b/g/n/ac
- Bluetooth:バージョン5.1
- SIM:nano SIM/eSIM
- 外部端子:USB Type-C
- 防水/防塵:IPX5、IPX8/IP6X
- 生体認証:指紋認証/顔認証
- サイズ:約158×71×9.4mm
- 重量:約174g
- ボディカラー:シャンパンゴールド/インディゴブルー/ルビーレッド
シリーズ初の5G対応、ワンセグや赤外線通信はついに非対応に
シンプルスマホ6はシリーズ初の5G通信に対応し、通信性能が底上げされたことも重要な改良点です。4G時代の各社のシニア向け端末の仕様を見るとCPU/GPUの性能以上に通信速度のほうが一般のスマートフォンとの差が開いており、ストレスなく使うにはボトルネックとなり得る部分でした。
4G時代の大手3社のシニア向け端末の通信速度を見ると、下り最大112.5~150MbpsとLTEカテゴリー4程度に留まっていました。シンプルスマホ6は5Gエリアで下り最大1.7Gbps、4Gエリアでも下り最大367Mbpsと高速化されています。
5Gのトップスピードを必要とするようなリッチなサービスを使いこなすユーザーは少ないかもしれませんが、シニアのみの世帯であれば固定のインターネット回線(Wi-Fi)がないと可能性も高く、十分な通信性能があるに越したことはありません。
eSIMや指紋認証にも対応し、最近のスマートフォンの基本機能はほぼ揃っている印象。一方で前モデルと照らし合わせてみると、長年搭載されてきたワンセグや赤外線通信が今回のモデルチェンジで省略されました。
「非常時でも通信環境に依存せず使える情報収集手段」というワンセグの役割は、プリインストールされる「radiko+FM」で補われています。普段はインターネットラジオで全国の番組を聴けて、非常時などにはFM放送を直接聴けるハイブリッドラジオアプリです。ワンセグ対応機種の減少と入れ替わるようにじわじわと普及が進み、対応機種は「ラジスマ」と呼ばれています。
赤外線通信に関しては、単純に利用機会の減少が理由でしょう。一般的なスマートフォンにはもう搭載されていないことはもちろん、他社のシニア向け端末でも非対応の機種が増えてきたこと(らくらくスマートフォン F-42A/F-52B)、3G停波に向けて赤外線通信対応機種の多くを占めるフィーチャーフォンがますます減っていくことを考慮すると、いよいよ対応する必要が薄れてきたといえます。
「ミドルレンジスマホ+サポート料」と考えれば妥当な価格
シンプルスマホ6の価格は54,720円。ソフトバンクの機種ラインアップを見ると「Redmi Note 10T」「OPPO A55s 5G」「arrows We」(各27,360円)などシンプルスマホ6よりも安いスマートフォンは存在します。しかし、シンプルスマホ6には専用の電話窓口など充実したサポート体制があり、実質的にサービス料込みの機種と考えれば妥当な価格ではないでしょうか。
通信料金については、ソフトバンクのフィーチャーフォンからの機種変更、あるいは他社フィーチャーフォンからの乗り換えであれば、「スマホデビュープラン」を選択できます。5分以内の国内通話が無料、データ容量は5GB(14カ月目以降は3GB)という内容で、13カ月目までは990円/月、14カ月目以降は2,178円/月です。
48回の分割払いで購入した場合を想定すると、13カ月目までは2,130円/月、14カ月目~49カ月目は3,318円/月。フィーチャーフォンと比べても基本料金が大きく値上がりするわけではなく、さらに3Gからの移行であれば端末代金が割り引かれるケースもあります。
ソフトバンクは2024年1月に3Gサービスを終了する予定で、残り2年を切りました。まだ3Gケータイを使っているご家族がいれば、割引などを含めてまずは一度お近くの店舗で相談してみても良いでしょう。