角交換の前の歩突きでリードを奪う
渡辺明名人へ斎藤慎太郎八段が挑戦する第80期名人戦七番勝負(主催、朝日新聞社・毎日新聞社)の第2局が、4月19・20日に石川県金沢市の「金沢犀川温泉 川端の湯宿 滝亭」で行われました。結果は132手で渡辺名人が勝利し、七番勝負の成績を2勝0敗としました。
■渡辺名人が新手を放つ
本局は斎藤八段の先手番で、角換わりとなりました。しばらくは前例もある局面で、指し手も早かったのですが、38手目の△6五歩が新手。ここで斎藤八段が大長考に沈みます。2時間近い考慮の末に▲3五銀と後手の3四銀にぶつけますが、渡辺名人は銀交換に応じず△6四角と飛車取りに打ちます。新手の△6五歩はこの角打ちを作った意味でした。対して▲5五角の合わせなら大決戦になる可能性もありましたが、斎藤八段は▲4六銀と上がったばかりの銀を引いて受けます。シャクな気もしますが局面を収めることで自分だけ角を手持ちにしていることを主張にできます。渡辺名人もそれは百も承知で「出足を止めて持久戦にするつもりだった」と振り返っています。以下はその言葉通りになり、しばらく膠着状態が続きますが、渡辺名人の△7五歩という仕掛けに対して、斎藤八段が▲5七角の攻防手で応じた局面で封じ手となりました。
■名人のひと工夫
1日明けて、開封された封じ手は△9五歩。攻めの継続を意図する突き捨てです。こうなればもう収まりません。後手が攻めきるか、先手が受けの末に反撃を決められるかということになります。実際、しばらく後手の攻める順が続きました。それが一段落した局面で斎藤八段は▲4六角と角交換を挑みます。ここでは▲7四歩と桂取りに突き出す手もあったのですが、歩が動いた瞬間に△8六角と王手されるのは気になります。後手の角を動かすことで、▲7四歩をより効果的にできるとみたものでしょう。
ですが角交換にすぐ応じない△5五歩が好手でした。▲同角△同角▲同歩で結局交換となりますが、ここで△6四角と打った手が厳しいのです。対して▲7四歩は△8六角▲7八玉△6八角成▲同玉△8八飛成で後手必勝。先手の角が盤上からいなくなったので△6八角成が生じました。しかし先手は放置すると△5五角の王手があります。この手が生じるのも△5五歩の効果です。
斎藤八段は▲5九飛と飛車を回って△5五角を防ぎましたが、渡辺名人は△7四歩と無理矢理7筋をこじ開けに行きます。▲同歩なら△8六角から前述の順が生じて後手勝勢。実戦は▲5四歩ですが、△7五歩▲8七銀△8五歩▲同歩△同桂と進み、後手は取られそうだった桂をさばくことに成功しました。渡辺名人は自玉が鉄壁なのも大きいです。
以下は着実にリードを重ねた渡辺名人が勝利し、3連覇へ向けて大きく前進しました。対する斎藤八段は苦しい星取りになりましたが、次局の後手番をブレークすれば、流れを引き戻すことが出来るかもしれません。5月7、8日に行われる第3局にも注目です。
相崎修司(将棋情報局)