上司に判断を仰ぐときなどに、「ご英断をお願いいたします」と言ったり、「彼の英断によってわが社は損失をまぬがれた」と表現したりするなど、英断を使ったフレーズはビジネスシーンでもよく使われます。
しかし、言葉として耳にしたことがあっても、いざ「英断の意味は?」と聞かれると考え込んでしまう人も多いのではないでしょうか。
この記事では、英断について意味と使い方だけでなく、類義語と対義語、英語表現についても解説します。 英断について正しい使い方を知り、ビジネスシーンでの表現力を高めましょう。
英断の意味
英断には「きっぱりと思い切りよく物事を決める様子」と「優れた決断」という2つの意味があります。優れているという意味の「英」と「意思をきっぱりと決める」「思い切る」という意味の「断」が組み合わさった熟語です。
「前例のないプロジェクトを始めることにした」「難しい状況だったが正しい決断をした」など、人生や社運に関わるような大きな決断を意味し、かつ「優れた決断」ということで、その決断の結果が望ましいものになったというニュアンスを持ちます。
英断の言い換え、類義語
「決める」ことについてはさまざまな表現があります。それぞれニュアンスや意味が微妙に違うため、英断と比較し使い分けられるようにしておきましょう。
決断
決断とは「自分の考えをきっぱりと決めること」です。「決」も「断」もどちらもきっぱりと決めるという意味がありますので、より「はっきりと決める」ことにニュアンスがおかれた言葉になります。
また、単純に何かを決めるだけでなく、物事が善か悪か、あるいはどちらが正しいかを判断する際にも用いられる表現です。
勇断・果断
「思い切って物事を決める」ニュアンスが強いのは「勇断」あるいは「果断」です。「勇」も「果」も「思い切りが良い」という意味があり、勇断は「勇気を持って決断すること」、果断は「思い切って決断することや、決断力がある様子」を指します。「勇気の『勇』」「果敢の『果』」ととらえると覚えやすくなるでしょう。
なお勇断や果断には英断と違って「優れた判断である」というニュアンスはなく、「勇気を持って行われた決断」という意味だけを持ちます。
即断
即断は「その場でただちに判断をすること」です。座右の銘としても使われがちな四字熟語の「即断即決」は「間髪をおかずに、その場で判断をして決める」という意味になります。
ビジネスシーンにおいては「即断ができませんので、一度持ち帰らせていただければと存じます」など、「今ここで自分の一存において決められる内容ではないから、少し待ってほしい」という意味で、「即断しない」という文脈において使用されるケースが多いでしょう。
また同じ読み方の「そくだん」には「速断」もあります。 速断は「速やかに判断すること」なので、似てはいますが若干ニュアンスが異なります。その場で決めてほしい場合は「即断」を、早いタイミングで決めてほしい場合は「速断」を使うようにしましょう。
また、速断には「よく考えずに行った、早まった判断」という意味もありますので、文脈からどちらの意味なのかを推察しなくてはなりません。
英断の反対語・対義語
英断の反対の意味を表現しようと思った際、「英断ではなかった」と否定形で表現してしまうと、子どもっぽさや回りくどい印象を与えてしまうこともあります。 英断の対義語を覚えて使いこなせるようになりましょう。
不断(ふだん)
不断とは「決断力がなくグズグズしている様子」を指します。英断の「きっぱり決めること」と逆のニュアンスを持ち、物事を決めきれないことを表す表現です。 「優柔不断」の四字熟語もありますが、こちらも「態度が煮えきらず決断力に乏しいこと」という意味です。
なお不断には「物事が絶えず続いている様子」や、「いつもと同じ状態であること」という意味もあります。後者については、本来の漢字が「不断」で、私たちが現在よく使っている「普段」は、元々は当て字だったものが広く浸透したものです。
「決断力がない」「絶えず続いている」というときは「ふ『だん』」、「いつもと同じ」というときは「『ふ』だん」とアクセントが付く場所が異なるため、発音の違いに注意しましょう。
英断の使い方
シーンによって英断の使い方には主に2つあり、1つ目は誰かの判断に対して「思い切った判断だった」「いい判断だった」と褒めたいとき、2つ目は上司などに決断を迫るときになります。
誰かの判断を「優れた判断だった」「思い切った判断だった」と表現したい場合は、当然ながら判断はされた後なので「英断だった」「英断を下した」と過去形になるケースが多いでしょう。
上司に「思い切って大きな決断を下してほしい」「いい判断をしてほしい」と頼む場合には「ご英断をお願いいたします」など、現在形で使われることが多くなります。「上司に決断を頼む」という意味で、「英断を仰ぐ」という表現もあります。
英断は上から目線?
「『英断』という語句は『優れた判断』という評価をしているため、上から目線では?」と心配する人もいるかもしれません。「英断」を目上の人に使う場合は「ご」をつけて「ご英断」としましょう。
例えば「ご英断でした」など、立場が下の人から上の人に対して感謝やお礼をしたいときにも使える表現です。
英断の例文
「英断」を使用するイメージがわきやすいよう、例文をご紹介します。
- コロナ禍でありながら新事業を発足させるという社長の英断により、会社は倒産をまぬがれた
- あのときの母の英断が、僕の人生を一変させた
- 社長、ご英断をお願いいたします
- 私一人では決めかねており、部長のご英断を仰ぎたいのですがいかがでしょうか
英断の英語表現
英語には直接「英断」に対応する名詞や動詞はありません。そのため、「賢い決断」あるいは「思い切った決断」などに当たる言葉を使用することになります。
具体的には「decisive judgment(きっぱりとした判断)」「drastic decision(思い切った決断)」「wise decision(賢い決断)」などに相当します。
文脈や状況に合わせて「思い切りの良さ」と「優れている様子」のどちらを強調するかを使い分けましょう。
英断の英語表現の例
英文:Reforming the company was a drastic decision.
訳:会社を改革したことは、思い切った決断だった。
英文:A wise decision was made that would affect the direction of the company.
訳:会社の方向性を左右する英断が下された。
英断のできるビジネスパーソンになろう
取引先に持ち掛けられた前例のない業務を引き受けるかどうか、クレームに対してどう対応するかなど、ビジネスシーンではいろいろと決断を迫られます。決断にもさまざまなものがありますが、中でも「きっぱりとした素晴らしい判断」のことを「英断」と呼びます。
ただ、そのときは最善と思って下した判断であっても、本当にいいものだったのかどうかは後になってからしかわかりません。少しでも「英断」に近い判断ができるよう、思い切った決断をする際は情報を集め、吟味して考えるようにしましょう。