米Appleは4月19日(現地時間)、「2022年環境進捗報告書」を公開した。
同社は、再生可能な資源またはリサイクルされた素材の使用比率を高めながら、材料回収を強化し、クローズドループのサプライチェーンを目指している。モバイル機器とパソコン、オンラインサービスを含むプラットフォーム提供し社会的な責任を持つ企業として、地球環境問題、特に気候変動に対して未来を見据えた取り組みを積極的に進めており、一昨年夏に「2030年までにカーボンニュートラル(炭素中立)を実現する」という目標を掲げた。製品製造におけるカーボンインパクトをネットゼロにし、サプライチェーン全体の使用電力を100パーセント再生可能エネルギーにする。
最新の環境報告書によると、2021年度のカーボンフットプリントは2,320万トン。2020年度の2,260万トンから約3%増。2016年度から前年度比で減少を続けてきたが、売上高33%増の成長だった2021年度はわずかに増加した。しかし、カーボンオフセットの強化によって、温室効果ガスの純排出量(net emission)は前年から横ばいの2,250万トンだった。
純排出量のうち、自社オペレーションにおける直接排出(Scope 1:燃料の燃焼、工業プロセスなど)は0.02%、使用電力(Scope 2)は0%と、Appleのカーボンフットプリントはほぼネットゼロを維持。原材料調達・製造・物流・販売・廃棄など事業活動に関連する他社からの間接排出、製品使用を含む(Scope 3)は、製品製造が70%、顧客による製品使用が22%、物流が8%、廃棄処理0.3%だった。
2030年のカーボンニュートラルを実現するために、2015年度の総排出量から75%削減する計画で、すでに40%減を実現できている。残る35%の削減を達成するためには製品製造における削減が課題になる。
次に大きい製品使用(総量の22%)は、ユーザーのエネルギー使用にも関わる項目だ。2021年度はApple Silicon(M1シリーズ)への移行によってMacのエネルギー効率が改善した。例えば、M1搭載Mac miniのアクティブ時のエネルギー消費はIntel Core i3搭載モデルより最大60%少ない。iPhoneのエネルギー効率も向上しており、iPhone 13のエネルギー消費は米エネルギー省によるバッテリー充電システムへの要求を54%下回っている。2021年度には、評価対象になるApple製品の99パーセント以上(売上高ベース)がENERGY STARの評価を受け、EPEAT登録の要件を満たした。
新リサイクル装置「Taz」でレアアース磁石を回収
Apple製品には多くのアルミニウムが用いられており、2015年時点で同社の製品製造フットプリントの27%をアルミニウムが占めていた。100%再生アルミニウムや低炭素アルミニウムの採用によって、2021年度のアルミニウムに関連するカーボン排出は2015年度から68%減で、製品製造フットプリント全体の9%未満になった。iPadの全てのモデル、Apple Watch Series 7、Apple Watch SE、MacBook Air、Mac mini、14インチと16インチのMacBook Proなど、100%再生アルミニウムを使用している製品は増え続けている。
2021年度には素材に関する様々な進展があった。
- 認定取得済みの再生レアアース元素を45%使用。
- 認定取得済みの再生スズを30%使用:新しいiPhone、iPad、AirPods、Macのメインロジックボードのはんだ付けに使用。
- 認定取得済みの再生コバルトを13%使用:iPhoneのバッテリー
- 認定取得済みの再生ゴールドを使用:iPhone 13とiPhone 13 Proのメインロジックボードのメッキ、前面カメラと背面カメラのワイヤにApple製品で初めて導入。
現在、再生材料の使用率が最も高いのはM1搭載MacBook Airだ。デバイス全体で44%の再生材料を使用している。そうした様々な取り組みの積み重ねによって、2021年度はリサイクルされた素材または再生可能な資源の使用が出荷した製品の全素材の18%に増え、使用量がこれまでで最も多くなった。
ただし、製品に含まれるリサイクル素材の量は環境目標を達成するための指標の1つに過ぎないとAppleは指摘している。同社は14の原材料の環境、社会、供給、生物多様性への影響をマテリアルインパクトプロファイルで評価して優先順位を付けており、そのプロセスで優先されている材料の中には量的に小さくとも影響が大きい材料があるとのこと。地球環境にとって最大の利益になるように、広範な影響を考慮した取り組みを進めている。
その1つとして、レアアース磁石を含むモジュールを回収する新しいリサイクル装置「Taz」の導入を発表した。多くのリサイクル業者が使用している従来の粉砕機では失われてしまいやすいレアアース磁石をより多く回収できるように設計されており、全体の材料回収率の向上に貢献する。
AppleはこれまでiPhoneを分解するロボット「Liam」(2016年発表)と「Daisy」(2018年発表)、Taptic Engineを分解してレアアース磁石、タングステン、鋼鉄を取り出す「Dave」(2020年発表)を導入してきた。Appleのリサイクルロボットが分解したiPhoneの部品1トンから、リサイクル業者は通常2,000トンの鉱石から採れる量に相当する金と銅を回収できる。「Daisy」はiPhone 5からiPhone 12まで23機種のiPhoneの分解に対応する。昨年同社は米国特許商標庁から「Daisy」に関する5つの特許を取得しており、その技術を研究機関や他の電気機器メーカーも利用できるように無料でライセンス供与する。