今回、5年以上にわたって継続的な観測で得られたデータを用いて、鉄とニッケルのエネルギースペクトルが作製された。CALETの鉄のスペクトルの絶対値は、NASA主導で16か国56機関が共同運用する磁気スペクトロメータ「AMS-02」に比べて有意に低い観測結果だったが、スペクトルの形状はAMS-02ともよく合致した結果となったという。一方、CALETのニッケルの結果は、まだエネルギー領域が200GeV/nに限られるものの、鉄とのスペクトルの比はエネルギーによらず一定の値を示しており、両者がほぼ同じ加速・伝播機構で説明できることが示されたとしている。

  • CALETの電荷測定装置で測定された宇宙線中の原子核の存在量の分布を、陽子からニッケルの領域において示されたグラフ

    CALETの電荷測定装置で測定された宇宙線中の原子核の存在量の分布を、陽子からニッケルの領域において示されたグラフ。縦軸は各原子核の観測量(の割合)で、各原子核の電荷量を2層の電荷測定器で測定。図が示すように、各原子核の電荷量が十分な精度で測定されている (c) CALETチーム(出所:早大プレスリリースPDF)

また、鉄とニッケルのエネルギースペクトルは誤差の範囲内で単一の冪型をしていたことから、軽い原子核で観測されていたスペクトルの硬化については否定的な結果となったという。

最終的な結論は、今後のさらに高統計かつ高エネルギー領域での観測の結果で確認する必要があるが、今回のCALETの測定結果は、宇宙線の加速・伝播機構モデルにおける積年の懸案事項を解決し、首尾一貫した実験的描像を描くために重要な示唆を与えることが期待されると研究チームでは説明している。

なお、スペクトル硬化の原因として提案されている理論モデルの正否の判定には、鉄やニッケルのようなさらに重い原子核におけるスペクトルにおいて、より精密な測定が重要になるとするほか、ホウ素/炭素比のエネルギー依存性の観測も重要だという。鉄やニッケルは恒星内の核融合により元素合成過程の最終段階で生成され、超新星爆発に伴う衝撃波で加速され星間空間に放出される一次成分のみで構成されている。それに対してホウ素は、一次成分の宇宙線が銀河内を伝播中に星間物質と相互作用してできる二次的な成分であるため、両者の測定が加速機構に加え、銀河内伝播の拡散過程を定量的に理解する上で重要になるという。

  • TeV領域の鉄の原子核の観測例

    TeV領域の鉄の原子核の観測例。装置上方から入射した鉄原子核が、電荷測定器を通過して解像型カロリメータ内で相互作用してシャワー粒子を発生、全吸収型カロリメータ内でエネルギーを損失する様子。左はX-Z軸、右はY-Z軸の観測結果。マゼンタの実線は粒子の到来方向をデータ解析により求められた結果で、各検出器につけられた色はシャワー粒子(MIP)の数が、右のスケールで表されている。縦軸と横軸は装置のサイズが表されており、cm単位 (c) CALETチーム (出所:早大プレスリリースPDF)

CALETはホウ素/炭素比TeV領域までの観測も実施しており、これまでの観測結果を総合することにより、スペクトル硬化の解明への貢献が可能になると考えられると研究チームではみている。また、CALETは今後の観測データの蓄積により、原子核あたり100TeV領域に至る陽子・原子核スペクトルを決定することで、電荷に比例する加速限界の発見を目指すとしており、これは超新星残骸における衝撃波加速のエネルギー上限に対する直接検証となるとしている。

  • CALETとほかの装置による鉄とニッケルの観測結果の比較

    CALETとほかの装置による鉄とニッケルの観測結果の比較(エネルギーの増大につれて急激に減少するスペクトル構造の詳細分析のため、縦軸にはエネルギーの2.6乗が積算)。鉄ではAMS-02より高いエネルギー領域まで、これまで観測量の少ないニッケル(AMS-02では未発表)は誤差が少ない形で最高エネルギー領域まで観測されている。なおNi/Fe比は、10GeV/n以上の領域でエネルギーにほとんど依存せず一定で、0.061で与えられるという (c) CALETチーム(出所:早大プレスリリースPDF)