AMDは米国時間の4月19日、Ryzen Pro 6000 Series Mobile 8製品などを発表したので、これをご紹介したい。
元々同社は今年1月のCESでRyzen 6000 Series Mobileを10製品と、Ryzen 5000 Series Mobile 3製品を発表しており、当然これのBusiness向け製品が投入されるのは予定通りの話であった。競合のIntelもCESのタイミングでAlder LakeベースのMobile製品を発表、3月にはAlder LakeベースのvPro対応製品の詳細を公開しているから、当然これの対抗製品が必要となる。
まずはラインナップであるがZen 3+、つまりTSMC N6で製造したRyzen Pro 6000 H-Seriesが6製品とU-Seriesが2製品、それに引き続きZen 3、つまりTSMC N7で製造したRyzen Pro 5000 U-Seriesが3製品の合計11製品が今回追加されたものとなる(Photo01)。
Pro無し版との違いであるが、Ryzen 6000 Series Mobileの場合にはトップエンドとしてRyzen 9 6980HXとRyzen 9 6980HSがラインナップされているが、Ryzen Pro 6000 Series Mobileにはこのトップエンド2製品に相当する製品がなく、Ryzen 9 6900HX/6900HSにPro対応を施したRyzen 9 Pro 6950H/HSがトップエンドになっている事だろうか。またそのトップエンドであるRyzen 9 6900HXの場合、TDPは45W+となっているのに対し、Ryzen 9 Pro 6900Hは45Wに留められているのも相違点となる。当然ながらOC未対応なのでXが外れているのも差と言えるだろう。あとはModel Numberが+50されている以外は特に差は無い形になっている。
Ryzen Pro 6000 Series Mobileそのものについては、基本的にはRyzen 6000 Series Mobileに搭載されているAMD Proの機能を有効にし、その代わりOCを無効にした(もともとMobile向けでOCが有効なのはごく一部のSKUだが)のが唯一の違いで、搭載されるZen 3+コアであるとかRDNA2に関しては以前こちらで紹介したそのままなので今回は割愛させていただく。ということで以下AMDが示した性能評価をご紹介したい。
まず既存のRyzen 7 Pro 5850UとRyzen 7 Pro 6860Uを比較したのがこちら(Photo02)。ついでAlder Lakeとの基本的な比較がこちら(Photo03)。Office Applicationでの比較がこちら(Photo04)である。Procyonだと殆ど差が無い(というか、微妙にCore i7-1260Pの方が上)なのに、PCMark 10のStandard/Extended/Productivityで大差がつくのは、恐らく内部でOpenCLを呼んでいるテストが多数あり(Productivityでも、Spreadsheetのテストの中でOpenCLを利用している)、ここでRDNA2のOpenCL性能がIris Xeのそれを大幅に凌駕しているため、と想像される。まぁありそうな話ではあるのだが、単純にCPU性能だけではなくトータル性能で比較と言い張られれば、まぁこれもアリと言えばアリである。
その辺の事情を踏まえたスライドがこちら(Photo05)。ProcyonのOffice Productivityをしながら、Microsoft Teamsを実施した時の処理性能がAlder Lake比で17%向上しているというのは、単にCPUだけではなくVideoのEncode/Decode性能の高さも貢献している部分があるのだろう。ちなみにこういう数字(Photo06)も出てくるが、UL ProcyonのOffice ProductivityとPCMark 10 ApplicationsだけにせずにPCMark 10を混ぜてくるあたりでお察しというべきか。数字が上がる理由は上と一緒で、CPU性能の差ではない。逆に言えばCPU性能だけで決まるProcyonやPCMark 10 Applicationでほぼ同等、というだけで十分優秀なのだから、すなおにそう書けば突っ込まれることもなかったろうに、とちょっと残念である。
その一方で省電力性については、なにしろそれが売りなだけに随分と良い数字が出ている(Photo07)。Pro向けでも省電力性は重要(オフィス勤務の方にとっては、会議室にACアダプタを持参する必要の有無がこれで決まる事になる)であり、大きなアピールポイントと言える。実際、Core i7-1260PベースのLenovo X1 CarbonとRyzen 7 Pro 6860ZベースのLenovo ThinkPad Z13での比較で、Lenovo X1 Carbonがバッテリ容量57WHour、ThinkPad Z13が50WHourという条件でTeamsを実施した結果だそうだ。単にビデオ再生だけなら29時間が可能(Photo09)とするが、これは2Kビデオの再生を76WHourバッテリー搭載マシン(多分次に出てくるHP EliteBook 865 G9ではないかと思う)で実施した結果との事。MobileMark 2018の実施結果で言えば、Ryzen Pro 6850U搭載のHP EliteBook 865 G9が4月19日付のランキングでトップに立っている、としている(Photo10)。
さて搭載製品としては、これまでのスライドにもちょくちょく出て来た、謎のRyzen 7 Pro 6860Zを搭載するThinkPad Z(Photo11)のほか、これも直前のスライドに出て来たHP EliteBook G9(Photo12)などが既にラインナップされているとする。
ところで先ほどは説明を省いたRyzen Pro 5000 Series Mobileであるが、こちらは当然ながら低価格向け製品である。こちらのスライド(Photo13)にはBarceloと説明されているが、これは中身で言えばCezanneと同じで、位置づけ的にはLucienneの後継ということになる。つまり1世代前の製品を安価に提供という格好だ。コア数はTiger Lakeと比べれば当然多いわけで、それもあってCineBenchのMulti-Threadでは95%高速とかされているが、このクラスの製品でCineBenchの性能を競っても仕方ないところ。それよりもZen 3+に比べると省電力性ではやや劣る訳だが、それでも最大20.5時間のバッテリー寿命が確保できるとしている(Photo14)。面白いのが左下のグラフで、HP ProBook 445Gの世代毎のバッテリー寿命の比較をしていることで、Zen 3であっても低価格向けにはまだ十分競争力がある、という訳だ。
ということで駆け足になったが、Ryzen Pro 6000 Series Mobileの紹介をお届けした。気になるのはDellのラインナップが特に説明されていない事だ。HPとLenovoはそれなりにラインナップを充実させている(Photo15)だけに、ちょっと不思議である。単に準備が間に合わなかっただけなのかもしれないが。