横浜市西区はYouTubeライブ配信を用いた「西区読書活動推進講演会」を2月22日に開催、主要地区センターでの視聴を実施した。実現の背景には、新型コロナウイルス感染防止対策として構築した、NTT東日本のフリーWi-Fi環境があったという。
元ラグビー日本代表 廣瀬俊朗さんを迎えた「西区読書活動推進講演会」
横浜市西区は、普段読書をしない人が読書をするきっかけ作りとして、数年前から著名人が読書について語る「西区読書活動推進講演会」を開催している。
2021年4月に神奈川大学みなとみらいキャンパスが開校したことを受け、2021年度は若者に焦点を当てており、元ラグビー日本代表のキャプテンを努めた廣瀬俊朗さんが登壇。横浜市西区長、神奈川大学学長、そして神奈川大学の学生2名とともに、ラグビーと読書を掛け合わせた幅広いテーマが語られた。
だが、昨今は新型コロナウイルス感染症の流行を受け、講演会に大勢の人を集めるのは難しい状況にある。そこで横浜市西区役所は、講演会の模様をYouTubeでライブ配信し、同区内にある「藤棚地区センター」をサテライト会場として放映。地域交流の活性化を実現した。
現在、講演会の動画は横浜市のYouTubeチャンネル「CityOfYokohama」で公開されており、どなたでも視聴可能だ。
このYouTubeライブ配信を実現にこぎ着けたのが、横浜市西区役所 総務部地域振興課だ。同課 担当係長の岡田大典氏、発案者である小高航生氏、社会教育指導員の小山咲子氏に話を伺ってみたい。
好評を得た講演会のYouTubeライブ配信
「新型コロナウイルスの影響を受け、現在、講演会を実施しても人を集められるのかどうか不透明な状況が続いています。しかし、人を集めておいて中止ということは絶対にしたくなかったのです。コロナ禍であっても読書は楽しめます。こんなときだからこそ、読書の魅力を伝えたい。オンラインでならそれが可能ではないかと考えました」(小高氏)
YouTubeライブ配信というアイデアを出した小高氏はこう話す。もともと横浜市西区にはYouTubeチャンネルがなかったが、今回の講演会に合わせ、広報担当課が新たに開設。専門業者に依頼し、4つのカメラを使って動きのある動画撮影を行ったそうだ。
3月末の段階で、動画は約500回程度再生されている。単純比較はできないものの、これまでの講演会では会場のキャパシティもあり150名程度が限界だったため、より多くの人の目に触れているといって良いだろう。
「今回は神奈川大学さんとコラボレーションしましたので、大学生の視聴は多いと思います。また、Twitterなどでラグビーファンにも情報が伝わったようです。より若い方に講演を聴いて欲しいという目的も達成できているのではないかと思います」(岡田氏)
講演を聴いた方からは「いままでの講演会は、基本的に講師一人が語るという形でしたが、今回は廣瀬俊朗さんだけでなく、若い学生の声や、横浜市西区長、神奈川大学学長という普段はなかなか意見を聞けない方の声も聞けて、新しい視点を得られた」という声もあったそうだ。
区民利用施設に導入されたフリーWi-Fiサービス「ギガらくWi-Fi」
こうして2021年度の「西区読書活動推進講演会」は、YouTubeライブ配信という新たな講演会の形を切り開いた。今回の取り組みが実現した背景には、コロナ禍を受けて整備したフリーWi-Fi環境が欠かせなかったという。
「地区センターなどの区民利用施設は地域コミュニティ活性化の要です。しかしコロナ禍によって講師のみなさんも感染を懸念するようになり、予定されていた講演や講座の休止・中止が相次ぎました。そういった場を失わないためには、遠隔参加を交えた会議室利用、講師が自宅から遠隔で講演するスポーツ講座など、ポストコロナ時代に合わせた環境を作らなければなりません。この実現のためにフリーWi-Fiを導入しようという話になったのです」(小高氏)
だが地域振興課には、Wi-Fi設備の設置に関する専門的な知識がない。そこで依頼したのが、日頃から付き合いのあったNTT東日本だった。同課は、NTT東日本の法人向けWi-Fiサービス『ギガらくWi-Fi』を利用してフリーWi-Fiを導入する方針を固める。こうして横浜市西区の7施設にフリーWi-Fi環境が構築された(一部小規模は地域振興課で対応)。
「導入に当たり、NTT東日本さんには基本的なところからアドバイスをしていただきました。印象に残っているのは配線です。地区センターなどの施設は古い建物も多く、配線工事が大変だったのですが、他の導入事例も参考にして最適な配線を提案してもらえました。コロナ禍で期日も決まっており、スケジュールがタイトな中、各施設の現地調査のタイミングなどで融通を利かせてもらい、非常に感謝しております」(小高氏)
「最初はギガらくWi-Fi ハイエンドプランを検討していたのですが、NTT東日本さんから、『この施設規模であればギガらくWi-Fi ライトプランで大丈夫』というアドバイスをいただき、結果的にコストを抑えつつ導入できました」(岡田氏)
2022年度は藤棚地区センターでのみ動画配信が行われたが、今後は区内の他施設もサテライト会場とすべく取り組みを続けているという。また、今回は西区が発信側となったが、将棋の中継動画を区民利用施設で流し、みんなで視聴するといったような、もっと緩やかな使い方も提案されているそうだ。
また講演会以外にも積極的に利用しており、例えば最近はフリーWi-Fiを導入した4施設と連携し、生活習慣病や認知症予防などを予防する西区のご当地体操『ころばんよ体操』で身体を動かすという試みを行っている。参加者からは、「コロナ禍で運動系の講座が減り、外出する機会も減っていたが、工夫して開催してくれたおかげで参加できた」「遠くの大きな施設まで行かずとも、家の近くの施設から参加できた」と好意的な意見が届いているという。
「デジタル区役所モデル区」の役割
横浜市の中でも比較的ICT化が進んでいる西区役所。そして今回、区内の施設にフリーWi-Fi環境を導入した。こういった状況から、2022年2月に横浜市から「デジタル区役所モデル区」に指定された。今後は相談窓口のオンライン化、広報のデジタル化などの実証実験を行い、全体に横展開していく予定だ。横浜市のDXにおける、先駆的な役割をになう。
「今後は行政手続きのオンライン化まで繋げていきたいと思っています。最終的なゴールは自宅ですが、そこまでいかずとも区民利用施設に来れば行政手続きや相談ができる、必要な書類を印刷できるという状況にまで進めて行きたいですね。地域拠点と区役所を繋ぐことが、デジタル区役所モデル区としての西区に与えられている命題です」(岡田氏)
現在、西区では3か年計画としてICTサポーター養成講座を実施予定だという。ICTに詳しくない高齢者の方が取り残されないよう、地域の方々に密着したボランティアを増やしていく取り組みだ。区民利用施設をその起点とし、デジタルに関する知識の輪を広げていくことを狙う。
「現在はスマホサポーター講座を行っていますが、来年度以降にはWi-FiやPCなどにも拡大したいと考えています。一般区民の中から手を上げてくれた方を対象としておりまして、定員15名のところ、18人の方が『やります』と手を上げてくれました。現在は詳しい民間の方が講師になっていただいていますが、ゆくゆくはここで学んだサポーターの方が講師になり、ICTの使い方を広めていくという形になればと思います」(小山氏)
最後に小高氏は、YouTube動画配信に関する今後の展望を述べた。
「新型コロナウイルスの影響はまだまだ続くでしょう。YouTubeライブ配信は今後もさらに活用していきたいと思っております。西区のYouTubeチャンネルはライブ配信に特化しており、録画した動画は横浜市のYouTubeチャンネルで公開するという二段構えです。みなさまにはぜひ一度ご覧になっていただき、日々の生活に活かしてもらえればと思います」(小高氏)
※岡田大典氏および小高航生氏の所属部署、役職等については、取材当時のものです。