手頃で便利な機材が増えているためか、宅録派の人が増えているようだが、ギターの主旋律(メロディ)やアクセントになるオブリガードに厚みを付けたくて、ハモリの旋律を乗せることがあると思う。そして、重ね録りで音を厚くした曲を聴いている分には良いが、いざスタジオやライブで再現となった時に、ギタリストが1人しかいないと、音がペラペラでさみしく感じることもあるだろう。そんなシーンにピッタリのエフェクターがBOSSの「Harmonist PS-6」だ。早速入手したので、どのような効果が得られるのか、興味津々でお届けしよう。
1人ツインリード、いやトリプルリードまでできる!
例えば「イーグルスのホテル・カリフォルニアをやろうぜ!」と、ツインリードの名曲を演奏しようとなっても、「あ、うち、ギター1人じゃん」とカンタンにお蔵入りになってしまう。そうしたド定番のツインリードの曲はもちろん、かっこいいキメの部分で旋律に合わせて3度、5度のハーモニーを加えた曲は数多いので、あらゆる名曲のコピーがなかなかできないというバンドは多いはず。
手っ取り早くもう1人ギタリストを追加するという方法もあるが、もっと手軽にツインリードが楽しめるアイテムがある。それが今回紹介するBOSSの「Harmonist PS-6(以降、PS-6)」だ。
このエフェクターは、原音から任意の音程分ズラした音を鳴らせる、いわゆるピッチ・シフターではあるものの、コンパクトなペダルでありながら、原音に2声を加えた3声ハーモニーが楽しめるナイスな「HARMONY」モードなどを提供してくれるのがウリ。
もちろんそれだけでなく、微妙に原音から音の高さがずれたピッチ・シフト音を加える「DETUNE」、ワーミーペダルのようなダイナミックなピッチアップ、ダウンができる「S-BEND」といった、見逃せないモードもついてくる優れものなのだ。
慣れは必要だがセッティングは簡単、まずはHARMONYモードを試してみる
PS-6のイン・アウトプットは4系統あり、本体右サイドにギターインの「INPUT」とエクスプレッションペダルを接続する「EXP」 がある。エクスプレッションペダルはピッチ・シフト量をコントロールできるため、必要に応じて用意するとよい。本体左には出力の「OUTPUT A/B」の2系統あり、それぞれにアンプを繋げばステレオ出力も可能。ただし、モノラルで試用する際には「A」の出力が指定されているので間違えないようにして欲しい。
さて、準備が整ったら早速セットしていこう。筆者のレビュー環境では、PS-6をアンプのセンド・リターンにエフェクターの「INPUT」、「OUTPUT(A)」をそれぞれループして使用している。この辺は好みや自分の環境にもよるので各自最適なセッティングをしてほしい。
コントロールは右から「MODE」、「KEY」、「SHIFT」、「BALANCE」となっている。MODEにある「Major」、「minor」をセレクトすると、ダイレクト音にハーモニーを追加する「HARMONY」の機能がONになる。曲調に応じて「Major」、「minor」のどちらかにセットし、「KEY」つまみで使用するスケールのキーを指定すれば準備は完了。あとは「SHIFT」のつまみで、原音に追加するハーモニーの音程を指定すればオーケーだ。このとき「SHIFT」つまみにはそれぞれ下図の音程が割り振られているぞ。
「SHIFT」つまみを見れば分かる通り、3声になるのは「-4th & -6th」「+1oct & -1oct」「3rd & 5th」「3rd & -4th」となる。どのような響きになるかは、文字にするよりも動画を見てもらえれば一発で理解できると思うのでそちらを参照していただきたい。
筆者がいろいろと試したところ、「HARMONY」モードを使うにはいくつか注意するポイントがある。最初に伝えておきたいのはしっかりチューニングをすること。A4=440Hzでチューニングされていないと、ハーモニー音がズレたり、不安定になって耳がとても気持ち悪くなる。まぁ、チューニングは楽器を弾く上での基本でもあるのだが、このエフェクターの魅力を最大限に引き出そうと思えばしっかりやっておきたい準備のひとつだ。 もう一つは、旋律を弾くときに粒立ちのよいピッキングとフィンガリングをすることだ。もともと単音のダイレクト音を対象としているので、同時に二つの音が鳴ってしまうとハーモニーが不安定になる原因となるので注意だ。「なんか思ったようなハモリができてない」という時にはぜひ、この2点を見直してみるとよいだろう
あとは楽曲に合わせて最適なハーモニーの音程を設定するだけ。曲調やメロディーラインによって、それぞれ選びたいセッティングも変わってくるのでいろいろと試行錯誤してもらいたい。うまくはまると気分が爆上がりするぞ!
HARMONYモード以外の機能も充実
それでは、そのほかのモードを見ていこう。「MODE」のつまみを「PITCH SHIFTER」にすると最大で±2オクターブのピッチ・シフト音が出力できる。シフト量は先ほどと同じく「SHIFT」つまみで設定することになるので、下図を参照して好みのポジションを見つけよう。
お次はMODEを「DETUNE」に合わせてみよう。このモード、実は個人的にとても気に入っていて、本当に微妙に音がズレたピッチ・シフト音を追加してくれるもので、コーラスとはまたすこし違った揺れ感のあるサウンドが楽しめる。これは単音、和音どちらでも効果が掛かるので、アルペジオやストロークなどにも効果的。独特の効果はけっこうクセになるぞ。ちなみにシフト量(揺らし幅)はいままでと同じく「SHIFT」つまみでコントロールできるのでいろいろ試して好みの位置を見つけていただきたい。
最後の機能はMODEつまみの「S-BEND」だ。これはエフェクターのペダルを踏んでいるときだけ任意のシフト量でピッチアップ、ダウンするというもので、分かりやすく言えばアーム奏法やワーミーペダルのような効果を得ることができる機能となる。
アップ側は4オクターブ、ダウン側は3オクターブまで設定でき、それに加えて音が揺れながらベンドしたり、ピッチ量が可変するモードがあったりと飛び道具としてはかなり面白い効果が得られる。この機能を使っているときは「KEY」「BALANCE」が効果時間の調整に使えるので、曲調や欲しい効果に合わせてセッティングしよう。
高性能ハーモナイザープラスアルファが欲しい人向け
これらの各種モードの設定値を保存することはできないので、複数の音色を切り替えることはできず、音色変更のたびに都度つまみをいじる必要はあるが、そもそもワンポイント的に使うエフェクターであることを考えれば、これで十分だと感じる。慣れてしまえば、ポチポチと手軽にセットできるようになるので、まずはPS-6で遊び倒してみて欲しい。
コンパクトで性能のよいハーモナイザーが欲しい人はもちろんだが、ちょっと変わった効果が欲しい、あるいは飛び道具系のアイテムを使ってみたいという人にもオススメのエフェクターに仕上がっていると思う。BOSS「Harmonist PS-6」の市場価格は1万8,000円弱というのが今のところの相場となっている。手が届きやすい価格帯に収まっているのもこの製品の魅力だと思う。みなさんもぜひPS-6を入手して、さまざまな効果を楽しんでいただきたい。