戸建て住宅向けの宅配ボックス事業を展開するパナソニック ハウジングソリューションズ(以下、パナソニック)は、2021年末に国土交通省主催の「非接触・非対面型輸配送モデル創出実証事業」に参画。今回、その結果をもとに開発した新製品を発表しました。
通販やフリマ(フリーマーケット)サービスの普及によって、宅配物の配送量は増加の一途をたどり、1992年度は年間約12億個だったのが2020年度には約48億個とほぼ4倍になっています。そこで大きな問題となっているのが再配達の増加です。国交省の調査によると、宅配便の再配達率は11.9%と1割を超え、それに伴う配送車両からのCO2排出量が年間約26.2万トンと環境に悪影響をもたらしています。
もっとも大きな問題は年間約5万人分にも相当する労働力を損失させ、ドライバー不足の要因にもなっていることです。物流業界は深刻化する人手不足の解消に向けてトラックドライバーの時間外労働規制を2024年に適応しますが、配送量はさらに増えると予想されており、数年後にはモノが届かなくなる時代がやってくるとの指摘があります。
こうした再配達問題を解決する方法の一つは、宅配ボックスの設置です。パナソニックは1992年から住設機器として宅配ボックスの開発を続けており、さまざまな製品を開発してきました。宅配ボックスを社会課題解決手段の一つと位置付け、有効性を検証する独自の実証実験を2016年度から3年間行っています。
実証実験には、2007年から開発しているサイズバリエーションと設置方法を選べる住宅用宅配ボックス「COMBO(コンボ)」を使用。戸建て住宅においては、設置によって再配達率が49%から8%と大幅に減らせることがわかりました。
ちなみに、再配達を回避する手段として「置き配」を宅配事業各社が提供しており、宅配ボックスも置き配の一種です。置き配は対面で荷物を渡すのではなく、受け取り側が指定した場所(玄関前、宅配ボックス、車庫など)へ荷物を置いておく配達方法。指定できる荷物の置き場所は、通販事業者や宅配事業者によって異なります。
ほかにも実証実験では、配達に気づかない、手が離せないといった荷物受け取りのストレスも明確になりました。パナソニックは、宅配ボックスの市場を拡大することは顧客満足を高め、インフラ化することで物流・環境・労働といった社会課題の解決に貢献するとし、2030年までに新築設置率を100%、既築設置率50%を目指しています。
押印不要の大型郵便物が新たな課題を生み出す
宅配便の再配達率はコロナ禍によるステイホームでいったん減少しましたが、配送量が増加したことでいまだに10%を切らない状態が続いています。パナソニックが宅配ボックスユーザーにアンケートを実施したところ、複数の荷物を受け取りたいという要望が87%もあることがわかりました。
大きな理由は、1世帯で1日に2個以上の配達があること。さらに、フリマサービスなどでよく使われる、ゆうパケットプラスなどの大型郵便物がポスト口に入らず、宅配ボックスに投函されてしまう「隠れ再配達」という新たな課題が生じていることが考えられます。隠れ再配達は、現時点では再配達率の原因としてカウントされておらず、今後はクローズアップされてくる可能性があります。
いずれにしても、今後は非対面で受け取り可能なサービスは増える傾向にあることから、パナソニックでは厚み7cm以上の大型郵便物を3個まで投函できる小包ポスト「Pakemo(パケモ)」を2021年に発売。2021年12月から2022年1月にかけて参画した国交省の実証実験では、この小包ポストに宅配ボックスを同時に設置することで、どれだけ再配達率を下げられるかを検証しました。
都心部の戸建て住宅に家族で複数人同居する10世帯のモニターに、設置前と後で7日間ずつ受け取り状況を比較してもらい、終了後にオンラインで聞き取り調査を実施。
結果は、コロナ禍によって設置前でも在宅率が高く再配達が想定より少なかったものの、食品以外はほぼ0%にすることができました。対面受け取りのストレスは68.4%から17.9%に減少、さらに18時以降の配達指定が大幅に減り、配達の偏りを解消できることが確認されました。
この実証実験の結果からパナソニックは、宅配ボックスと小包ポストのコンボが再配達率の減少に有効だとし、それらを一体化した新製品「Tecera Frame(テセラフレーム)」を新たに開発しました。
宅配ボックスの「コンボフラット」と小包ポストの「パケモ」が縦に並ぶ機能門柱は、上部にアクリル版の表札とインターフォンが取り付けられ、スリムで設置しやすくデザイン性も高められているのがポイントです。
今回、実際に投函や取り出しを試してみましたが、ポストは雑誌などもすっぽり入るほど口が広くても、投函側の上から手を入れられないように高さもあります。背面の取り出しドアは大きめで開けやすく、荷物が転げ落ちないよう斜めで取り出しやすくなっています。
宅配ボックスは化粧扉と二重になっていて、内側の扉のボタンを押して荷物を入れられます。そこそこ大型のパッケージも入るサイズで、扉を閉じると表示が変わって通知が届くので、取り忘れも防げるでしょう。複数の荷物が届く場合は午前と午後遅くというように配達時間を指定することで、ボックスが使えないという問題は避けられそうです。
テセラフレームに取り付ける宅配ボックスのコンボフラットには、ハーフタイプとミドルタイプがあります。収納可能な荷物のサイズと重さは、ハーフタイプが340×500×150mm・10kgまで、ミドルタイプが340×500×350・20kgまで。
宅配ボックスでの受け取りについては、ドアホンを鳴らすと自動でメッセージを送信する連携機能や、荷物が入っていることを通知する開閉センサーも開発されています。ほかにもパナソニックは、IoT宅配ボックスのサブスクリプションサービスの実証実験も別途行っており、宅配の荷物IDをデジタルキーにするといったアイデアも検討中としています。
宅配ボックス事業を担当するパナソニック ハウジングソリューションズ 外廻りシステム事業部 外廻り設備商品推進部の林伸昭氏は、「非接触・非対面での宅配を可能にする置き配はこれからますます増えると考えられ、今後は集合住宅や法人オフィスも含め、安全で確実に荷物を届けられるソリューションを開発していきたい」と話します。ソフト面と併せた製品開発に力を入れていくとのことでした。