大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)の第14回「都の義仲」(脚本:三谷幸喜 演出:安藤大佑)は、禍々しい謀略の渦中、瑞々しい若者たちの触れ合いが印象に残った。義時(小栗旬)と八重(新垣結衣)、大姫(落井実結子)と義高(市川染五郎)の関係を微笑ましく見た。さらに義高と義経(菅田将暉)の関わりにも余韻を感じた。
義時と八重がついに結ばれ、八重は身ごもる。長年思い続けた八重をついに振り向かせた義時の辛抱強さには感心するばかり。だが2人の様子はいまのところ、どこかぎくしゃくとして夫婦芝居を演じているように見える。
頼朝は鎌倉で勢力を拡大しているが、まだまだ全然安泰ではない。後白河法皇(西田敏行)の覚えをよくするためには木曽義仲(青木崇高)が目の上のたんこぶ。そこで息子の義高を人質に迎える。表向きは頼朝と政子(小池栄子)の愛娘・大姫の婚約者としてである。
政子は最初、婚約者なんてまだ早過ぎると心配したが、義高の見目麗しさにすっかりごきげん。政子も道(堀内敬子)も「良いお顔立ち」とうっとり。そのたびに「ありがとうございます」と微笑む義高の余裕に育ちの良さも感じる。いくら昔の価値観の話だからとはいえ、あからさまなルッキズムを描くのもなかなかすごい。自害は美談にしないがルッキズムは喜劇として描く、この差はいったい……という筆者の疑念は、美しいものは美しいのだという事実にすぐ引っ込んだ。
義高の美しさは精神の気高さでもあって、「この戦に義はございますか」と“義”を大事にする発言をするときの凛々しさにも惚れ惚れした。優しくて、大姫もすっかり彼になつく。2人で遊んでいる姿はほっこりする。義仲の息子だから剣の腕も立つだろうし、申し分ない好人物である義高だが、ひとつだけ謎の趣味があった。蝉の抜け殻を集めることである。集めた抜け殻の数512個。それを聞いた義経は「人に言わないほうがいいぞ」と助言する。義経は時折、やや癇癪持ちな面を見せ、精神的に不安定なところがあるように感じるし、義高がすごく穏やかに見えて蝉の抜け殻をたくさん集めることに駆り立てられる心理にも、どこか底知れないものを感じる。
そうこうしているうちに頼朝と義仲が戦うことになる。戦って義仲が討たれたら義高の命もない。政子も実衣も女性たちは頼朝の考えに憤慨する。
その頃、坂東武者たちが頼朝に反旗を翻そうと動き出していた。このままでは鎌倉がバラバラになってしまうと頭を抱える義時は、上総広常(佐藤浩市)に御家人たちの味方になってほしいと頼む。史実を知っていると、義時、そんなことしちゃうの? とハラハラする。でも、彼には八重がいるから、子供ができたから、彼なりに頑張ろうと思っているようだ。
「この子が大人になる頃にはなにかが変わっているだろうか」と大きなお腹に義時が触れると大儀そうに横になる八重。戦は未来ある子供にも影響を及ぼす。義時と八重、大姫と義高が描くことは“子供”の未来を憂うことであり、同時に未来が明るいことを願うことでもあるだろう。
義仲に追われ京を出た平氏は幼い安徳天皇を三種の神器と共に連れているため、後白河は代わりにわずか4歳の幼帝・後鳥羽天皇を誕生させる。大人の都合に振り回される子供たちがただただお気の毒に見える。
頼朝と義経も、少年時代に離れ離れになってそれぞれ苦労してきた。何十年も会わずにいた2人は、この戦が終わったら存分に語り合おうと約束する。結局信じることができるのは血縁だと信じている頼朝。血縁を大事にするからこそ血縁の脅威もわかっている。だから非情になる。
義仲はホームタウン・木曽では頼もしいが、慣れない京ではうまく振る舞えず「山猿」扱いされたうえ追い詰められていく。義仲に対抗して出陣を決意した頼朝だが坂東武者が動かないため義経を派遣することにする。
いよいよ念願の出陣。張り切って出立する義経は、義高に蝉の抜け殻を渡す。いつも粗野な振る舞いをする義経が不思議と義高の趣味には無礼な口を利かず、控えめな発言だったことからも、2人はどこか共鳴していたのではないだろうか。
義高は父・義仲には義経は勝てないと信じていて「不憫でなりません」と見送りながら、もらった蝉の抜け殻をそっと握る。脆いそれはいとも簡単に崩れる。一瞬繋がったように思えた心がすぐに壊れてしまう哀しみ。また、成体になってからの寿命が短い蝉がまるで戦で早逝していく若者たちを暗示するようにも見えて胸がちくりとなった。
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