台風16号が2021年10月1日前後にもっとも関東に接近した際には、それに伴う気圧の低下が南西から北東に向けて移動していることが確認されたほか、その平均速度は、伊豆半島南端の石廊崎から横浜までが時速約40km、横浜から水戸までは時速約60kmとされている。
一方、東京湾の深さが15~20mであることを考慮すると、津波の伝搬速度を理論的に計算することが可能であり、その速度は時速44~50kmとなるという。つまり、台風16号の通過に伴う気圧パルスの移動速度と津波の伝搬速度はほぼ等しかったことになる。このことから、台風16号の通過の際に、従来研究による示唆から東京湾で気象津波が励起された可能性が高いと考えられたとする。
そしてこのときは、周期約3時間の減衰振動であることが測定された。東京湾は浅く、深度がより大きな湖沼、たとえばスイスとフランスの国境にあるレマン湖などと比べて早く振動が減衰することが先行研究で報告されている。今回の研究で得られた振動の時系列変化を比較すると、レマン湖と比べて東京湾の振動の方が早く減衰することが確認されたという。
気象津波は、世界中どこでも起こりうる現象であり、これまでは地震や火山による津波のリスクが検討されてこなかった地域においてもリスクを増加させる要因となるとされる。さらに、地震火山活動が活発な地域においては、気象津波は地震や火山による津波に新たなリスクを追加するものとなる。これまでに、英国海峡やフィンランド湾でも気象津波は報告されており、今後、英仏海峡トンネルやフィンランド湾トンネルにおけるUK-HKMSDDやFI-HKMSDDの配備は、よりグローバルな気象津波の理解が進むことが期待されると研究チームでは説明している。