ホンダ「シビック」に追加となる「e:HEV」は、クルマ本来の質の高さに高性能なパワートレインが組み合わさった楽しいハイブリッドモデルに仕上がっていた。電動車でありながら高いポテンシャルを支えているのが新型エンジンであるところも、いかにもホンダらしくて面白いところだ。
新開発の2.0Lエンジンを搭載
新型シビックは2021年9月にデビュー。当初はガソリンエンジン(1.5リッターターボ)のみだったが、2022年中に高性能な「タイプR」とハイブリッドの「e:HEV」が登場するとアナウンスされていた。今回は発売前のe:HEVモデルに伊豆山中で試乗した。
試乗車は「ソニックグレーパール」と「クリスタルブルーメタリック」の2台。まずはガソリンモデルとの見た目の違いを確認しよう。
エクステリアでは前後の「H」エンブレムの周囲がハイブリッドモデルらしいブルーで縁取りされていて、リアハッチ右下には小さな「e:HEV」のエンブレムを装着している。ガソリンモデルはリアマフラーの周囲にシルバーの縁取りがあったが、e:HEVにはそれがなく、デフューザーと一体化した(エンジンの存在を目立たなくするため?)。ホイール形状に変更はないものの、タイヤの銘柄はグッドイヤー「イーグル」からミシュラン「パイロットスポーツ4」に変わっている。
外観の変更はその程度。ハイブリッドモデルであることを殊更強調することもなく、アンダーステートメント性が高いのは、欧州での販売を意識しているのかもしれない。
インテリアの違いもごくわずか。ガソリンモデルではCVTもMTもシフトがレバー式だったのに対し、e:HEVは「P」「R」「N」「D」のスイッチ式を採用している。コックピットのメーターはハイブリッド専用のグラフィックを採用。この2つで電動車らしさを強調している。ステアリングやシート、ダッシュボードの左右一杯まで広がるメッシュのエアコンルーバーなど、基本のデザインは変わっていない。
パワートレインは新開発の2.0リッターDOHC4気筒DI(直噴)アトキンソンサイクルエンジン(最高出力104kw/6,000rpm、最大トルク182Nm/4,500rpn)に、発電用と走行用(135kW/5,000~6,000rpm、315Nm/0~2,000rpm)のモーターを組み合わせたホンダ独自の中型車用2モーターハイブリッドシステム「e:HEV」(イーエイチイーブイ)だ。
構成ユニットであるモーターの低振動・低騒音化と出力アップ、PCU(パワーコントロールユニット)の高出力化と軽量化、IPU(インテリジェントパワーユニット)のエネルギー密度アップなど、ハイブリッドシステムの進化が著しいのは当然として、ホンダが特に強調したのが新開発の2.0リッターエンジンの出来栄えだ。
従来のポートインジェクション(PI)式に比べて、高圧化と多段噴射による直噴化(ダイレクトインジェクション=DI)を可能にした今回のエンジンは、ハイブリッド用として最も大事な熱効率が世界トップレベルの41%まで高められている。特に高回転、高出力領域において燃焼効率が向上しており、走りのポテンシャルを最大限に引き出すことが可能になっているという。これによりハイパワー・ハイスピード領域でも燃料消費を抑制できるので、グローバルでさらに厳しくなっている排ガス規制も十分クリア可能な性能を実現できているとの説明だ。
さらにインシュレーターを取り付けたインテークマニホールド、パッケージングしたエアクリーナー部、ウレタン一体のエンジンヘッドカバーなどにより静粛性を高めつつ、クランクシャフトの高剛性化と2次バランサーの採用によって爽快なサウンドを生み出すことに成功している。ヘッドカバーにはしっかりと「HONDA」ロゴが刻まれていた。
同クラスのドイツ車にも匹敵?
e:HEVの特徴としては、発進時や街中走行ではエンジンを止めたまま電気自動車(EV)のように走る「EV走行」が可能で、力強い加速時には常に最高効率点で燃焼するエンジンで発電して走る「HYBRIDドライブ」に、そして高速クルーズ時にはエンジンとタイヤをクラッチで直結する「ENGINEドライブ」に切り替わるという点だ。今回は伊豆サイクルスポーツセンター内の全長5kmに及ぶワインディングコース(普段とは逆の右回り)でシビック e:HEVを走らせてみた。
デフォルトのままスタートするとシステムは自動的にEVドライブを選択するので、静かでグッと加速するモーター特有の感覚が味わえる。市街地など低中速域のスピードがそのまま続くのであれば、従来型よりバッテリー走行が可能な距離が20%増えているので、上質な走りが長い時間楽しめそうだ。
コース中間にあるアップダウンの激しいワインディング部分でアクセルを踏み込むと、2.0リッター4気筒エンジンが始動してHYBRIDドライブで走り始める。もとから遮音性の高いボディなので、車内に聞こえるのはエンジン音だけという感じ。加速に合わせて段付きで回転数が変わっている様子がよくわかる。パワーメーターの針(%表示)が加減速にシンクロして上下する様が、タコメーターの動きに似ていて楽しい。減速時にパドルシフトを使用すると、回生の度合いがシフトダウンのような形でメーターに表示(5段階)されるのも、マニュアル車っぽくていいアイデアだと思った。
エンジンモデルに試乗したときに感じたシビックの足回りのよさは、e:HEVモデルでも健在だった。「ちょっとオーバースピードかな」と思いつつ飛び込んだようなコーナーでも、鼻先はステアリングの動きに連動してググッと出口に向き、さらに安定したリアがジワリと追従してくれる。この完成度であれば、高いスピード領域での運動性能を求める欧州のドライバーからも不満は出ないはずだ。
ワインディングの途中で走行モードをNORMALからSPORTに変えてみる。するとメーターの周囲の色が赤に変わると共に、室内騒音を打ち消す「ANC」(アクティブノイズコントロール)とスピーカーでエンジンサウンドを増幅する「ASC」(アクティブサウンドコントロール)により、「クォーン、クォーン、クォーン」というF1マシンが奏でているような“ホンダミュージック”がクリアに聞こえてきて誠に気持ちいい。直線部分での車速のノリも良好。新東名の最高速度である120km/hまでの加速力は申し分ないし、まだまだ先まで伸びていきそうな勢いだ。
ゆるい下り坂の最終左コーナーを抜けた後、上り坂を伴った700mほどの直線部分に入るサイクルスポーツセンターのコースレイアウトは、鈴鹿サーキットのレーシングコースを想起させる。スプーンカーブを抜けて上り坂の裏のストレートに向かう、あのパターンだ。「H」のロゴが入ったステアリングを握り、ホンダのサウンドを聴きながらスロットルを踏み込むと、鈴鹿を走った時の記憶や、セナのマクラーレンホンダがその先の130Rまで全開で加速していくTVのシーンが脳内にフラッシュバックしてきて、なかなか楽しい作業になった。
今回のコース内では十分に試せなかったけれども、中高速域でクルージングを始めたときにはエンジンとタイヤがクラッチで直結するENGINEドライブモードに入るはず。モーター走行の最も不得意な部分を補ってくれるのはe:HEVの売りのひとつだ。
新型シビック e:HEVは、同クラスのドイツ御三家たちもうかうかできないほどのポテンシャルを備えたクルマだと思う。ハイブリッドモデルであるとはいえ、その高性能ぶりを支えているのが新型エンジンだというのは、ホンダらしくて痛快ではないか。