具体的には、NA-ADNIの軽度認知障害患者の脳のMRI検査の三次元画像から、アルツハイマー病の進行と関連性が高いと考えられている、海馬と前側頭葉を中心とした2つの区域をそれぞれ特定し、深層学習を用いて、両区域からアルツハイマー病進行に関わる微細な萎縮パターンの抽出が行われ、画像特徴量として算出された。
その結果、両区域で確認され読影診断で重要となる、海馬領域と扁桃体領域の萎縮パターンに注目し、認知能力テストスコアなどのデータも加味することで、アルツハイマー病への進行を高確率で予測することが可能なAI技術を確立したという。
実際に、このアルツハイマー病進行予測AI技術を用いて、2年以内に軽度認知障害がアルツハイマー病へ進行するか、NA-ADNIに加え、AIにとって完全に未知の日本人のデータで構成されるJ-ADNIも用いて、予測精度の客観的評価が実施された。
その結果、軽度認知障害患者群からアルツハイマー病に進行する/しない患者の予測における正解率は、NA-ADNIで88%、J-ADNIで84%であったほか、AI判別精度の真陽性率と偽陽性率を表す重要な指標であるAUCArea Under the Curve)は、NA-ADNIでは0.95、J-ADNIでは0.91となったという(1であれば真陽性率100%かつ偽陽性率0%)。これらの結果から、アルツハイマー病進行予測AI技術は、異なる人種でもMCIからADに進行する患者を高精度に予測することが可能であり、汎用性の高い技術として実証されたとした。
研究チームは今後、臨床試験データにてアルツハイマー病進行予測AI技術の予測結果をもとに層別した患者の解析を行い、技術の有用性をさらに検証していく予定だとしている。具体的には、AD進行予測AI技術により患者の認知症進行の速さを予測し、(1)進行しない患者を臨床試験の対象外とする、(2)対照群と治療群での進行速度分布のばらつきを低減する、の2点により、治験成功率の向上可能性を検討していくとするほか、アルツハイマー病治療薬の新たな臨床試験の患者選定にアルツハイマー病進行予測AI技術を適用することを目指すとしている。また、アルツハイマー病進行予測AI技術のアルゴリズムを、さまざまな精神・神経疾患の脳画像や臨床データに応用することも検討していくともしており、これにより予後や治療反応性の予測にもつながり、個別化医療の推進の一翼を担えると期待しているとしている。