巨大磁気抵抗効果では、磁化が平行配置か反平行配置かで試料の電気抵抗が変化する。先行研究で示唆されているように、キラル分子が磁石のように働くのであれば、強磁性体の代わりに、キラル分子を用いた多層膜(キラル分子/強磁性金属二層膜)においても、磁気抵抗効果の発現が期待されるとする。
また、このデバイスの電気抵抗測定に用いられた電流は電気抵抗の低い強磁性金属層だけに流れるため、キラル分子には電流が流れていない状態での磁気抵抗効果を評価できるという。
実験では、強磁性金属(ニッケル(Ni))/(P,M)-キラル分子の二層膜構造が作製され、室温で電気抵抗の磁場強度依存性が詳細に調査された(PとMは分子キラリティを表している)。(P)-キラル分子をNi上に成膜した試料では、磁場が正の場合に電気抵抗が減少し、負の場合に電気抵抗が増大することが確認された。一方、(M)-キラル分子をNi上に成膜した試料では、逆の傾向を示すことが判明。このような分子キラリティに依存した磁気抵抗効果は、キラル分子が磁石として働いていることを意味していると研究チームでは説明している。
また、このキラル分子による磁気抵抗効果の起源を調べることを目的にデバイス温度依存性が調査されたところ、磁気抵抗効果は50K(約-223℃)からデバイスを温めるほど大きくなることが判明。一般的な鉄などの磁石とは異なり、キラル分子が熱によって磁化が大きくなる磁石であることが示されたという。
今回のキラル分子におけるスピン機能の発現に関する新たな知見について研究チームでは、キラル分子科学およびスピントロニクスにおける基礎的な知見として重要であるだけでなく、今後、幅広い研究分野において、この新機能を用いた新たな分子スピンデバイスが設計されることが期待できるとしている。