トヨタ自動車は初の本格電気自動車(バッテリーEV=BEV)となる「bZ4X」を5月12日に日本国内で発売する。初年度分の5,000台は全て「KINTO」を通じたサブスクリプションで販売する方針だ。両社はbZ4X発売にあたりオンライン発表会を開催。BEVに関するさまざまな質問に答えた。興味深い話も多かったので、主なやり取りをお伝えしたい。

  • トヨタの新型BEV「bZ4X」

    トヨタが5月12日に発売する新型BEV「bZ4X」

日本で初年度5,000台、少なくない?

日本ではサブスクのみで、初年度は5,000台を生産・販売するとのこと。普通の新車のように売り切りで、どんどん受注を受けて販売していくのとは姿勢が違うが、なぜなのか。BEV普及に消極的なのでは? 日本での普及シナリオは? 最初はこんな質問だ。トヨタ 国内販売事業本部 本部長の佐藤康彦さんの回答は「日本では台数を追い求めるのではなく、今までの売り方を変えることにチャレンジしたい」というもの。

日本はまだ発電量に占める再生エネルギーの比率が低く、急速充電インフラのネットワークも未成熟なので、顧客の利便性も環境への効果の面でも、BEVを大量に販売するのは時期尚早。なのでサブスクで販売し、顧客の声も聞きながら改善すべきは改善しながら、バッテリーの「3R」(リビルト・リユース・リサイクル)まで視野に入れつつ、下取りやバッテリー劣化の心配なく、顧客にbZ4Xを長く使ってもらおうというのがトヨタの考えだ。

トヨタ 執行役員 副社長 前田昌彦さんは普及シナリオについて、「最終的には、お客様に選んでもらえるかどうか」が重要とする。

「BEVであったとしても不安なく使ってもらえるのなら、選んでもらいやすいのでは。今のところ街中はBEV、長距離はファーストカー(あるいはセカンドカー、航続距離に不安のないクルマ)でという傾向があると聞いている。これは充電インフラともセットの話だが、ファーストカーでBEVを買って、遠出しても大丈夫と思ってもらえるような、実際の利用シーンで選んでもらえるクルマを追求していくことが普及のキーになる」

普及に向けては価格も大事だと前田さん。「価格面もハードルだと思う。バッテリーコストがどこまで下げられるかが大きなポイント。結局は地道な積み上げだが、原価低減を継続していくことが大事」とのことだ。

なぜサブスク?

KINTO 代表取締役社長 小寺信也さんによれば、狙いはBEVの新車販売を大きく増やすことではなく、保有台数を増やすこと。5,000台を新車で売り切ったとしても、購入者が数年後にガソリン車に戻ってしまえばbZ4Xは中古車となり、長期在庫になってしまう心配もある。BEVに乗ったら、次に買うクルマもBEVにしたいと思ってもらわなければBEVの普及は進まないので、下取り価格への心配やバッテリーの劣化・故障といったリスクをユーザーに取ってもらうのではなく売り手側で取り、顧客に長く保有して使ってもらう。これが最長10年という長期プランでbZ4Xを販売する理由だ。

  • トヨタの新型BEV「bZ4X」

    左からKINTOの小寺さん、トヨタの佐藤さん、前田さん、トヨタ ZEVファクトリー 副本部長の石島崇弘さん

サブスクの場合、販売店の役割・収益は?

これまではクルマの開発・生産をトヨタ、販売と整備を販売店が担うという役割分担が普通だったが、サブスクがメインになるとトヨタ販売店の役割はどうなるのか。新車販売で稼げなくなると、収益が厳しいのでは? 佐藤さんの回答は以下の通り。

「これからも新車販売の利益は大事だが、整備、中古車販売、楽しいカーライフの提供、充電インフラの設置などにより、たくさんの人が集まってくる街一番の店舗(販売店)を作っていきたい。KINTOでbZ4Xを展開することで、これまで接点を持てなかった顧客とのつながり作りにも期待できる」

KINTOの小寺さんによると、bZ4Xをサブスクで売っても、必ずしも販売店の収益減にはつながらないという。

「KINTOではbZ4Xをトヨタから直接購入するのではなく、販売店から購入する。メンテも販売店にお願いする。メンテの掌握率は普通、時間とともに落ちていって、そのクルマが中古車になってしまうと販売店へのサービス入庫はほぼなくなるもの。KINTOの10年プランでは10年の間、100%に近い掌握率を目指す」

初代「プリウス」の多くはモンゴルに?

バッテリーの3Rに向けた具体的な取り組みを問われた前田さんは、バッテリー回収スキームの必要性を指摘。「皆さんもご存じだと思うが、初代プリウスが今、最も多く走っているのはモンゴル」だと意外な事実を明かしつつ、バッテリーの効率的な回収も踏まえたリース販売の重要性を強調した。クルマの売り切りを前提にすると、バッテリーは回収しにくいものらしい。売り切ったbZ4Xが中古車になり、海外にどんどん流出してしまうような状況になると、中古バッテリーの回収・活用も難しくなってしまうわけだ。

サブスク中にクルマをアップデート、追加費用は?

トヨタとKINTOは、bZ4Xをサブスクで販売した後も、OTA(オーバー・ジ・エアー)などの手法でクルマのアップデートを続ける方針。気になるのは追加料金の有無だが、小寺さんは「月額利用料の中で提供したい。技術開発がこの先どうなるかは分からないので、ものすごく画期的な技術が出れば追加料金が必要になるかもしれないが、今のところは月額の範囲内でやりたいと考えている」とする。

  • トヨタの新型BEV「bZ4X」

    「bZ4X」は売った後もアップデートやKINTOからの各種サービスで情報・価値を提供していきたいとする

トヨタが整備する急速充電インフラ、性能は?

BEVの利便性向上に向け、トヨタは2025年をめどに販売店での急速充電インフラ整備を進める。急速といっても既存の充電器は出力がまちまちだが、トヨタはどうするのか。前田さんの見立てはこうだ。

「短期的には既存の充電器を使うので、出力は店舗での利便性やコストを踏まえて判断するが、50kWや90kWが基本となる。中長期的には急速充電器の開発も手掛けていく必要があり、出力は90kW以上も検討する。地域やユーザーの使用実態に合わせた出力が求められるので、BEVの本格販売が始まり普及していく中で、顧客の動きを見ながら判断したい」

急速充電を繰り返すとバッテリーの劣化が進む、というのはよく聞く話だが、bZ4Xはそのあたりも織り込んで開発し、世界トップレベルの電池容量維持率(10年後90%)を目指したそうだ。前田さんによれば急速充電もバッテリーの劣化を早める要因のひとつだが、使っていない時の温度や低温下での使い方などによっても劣化の進み具合は変わってくるそう。特に温度の影響が大きいそうだ。

ところで、中古のBEVってどのくらいあるの?

bZ4Xが中古車になって市場に出回るのはだいぶ先になりそうだが、そもそもBEVの中古車市場は今、どのような状況なのだろうか。KINTOの小寺さんによると、中古のBEVは「ほとんどないと思っていい」とのこと。中古車市場では新しい技術というよりも「お買い得、安心、丈夫なクルマが好まれる」うえ、「バッテリーの劣化を含め、中古でEVを買う不安が現段階では大きい」ことから、結果的に結構な数の中古BEVが海外に、安く輸出されているのが実情とのことだった。