これらの予想外な気温変化の原因は今のところ不明だという。海王星が発見されたのは1846年で、2022年(発見から176年目)でも太陽の周りを1週した程度であり、かつ1989年のボイジャー2号のフライバイ観測や、1990年のハッブル宇宙望遠鏡の打ち上げなどによる、近代的な観測ができるようになってからはまだ30年ほどの時間であり、40年以上かけて変わっていくとされる海王星の1つの季節の始まりから終わりまでも満たない。実際には、海王星に関する詳細なデータは合計で20年程度(海王星の1年の約1/8)しかカバーできておらず、研究者ですら今回のような大規模な変化は予期していなかったという。
また、海王星の気温変化は、大気の化学的性質の季節による変化と関係している可能性があると研究チームでは見解を示しているが、気象パターンのランダムな変動や、11年の太陽活動周期も影響している可能性もあるともしている。太陽の活動が海王星の可視光域での明るさに影響を与えることは以前から指摘されていたが、今回、成層圏の温度や雲の分布にも相関のある可能性が示唆されたとする。
なお、今回の研究の一翼を担ったすばる望遠鏡のデータは2011年、2012年、そして2020年に、すでに共同利用運用を終了した冷却中間赤外線撮像分光装置「COMICS」によって取得されたものだという。特に、急激な温度上昇の発見につながった、2020年7月のデータは、まさに同装置の「ファイナルライト」で得られたものであったという。日本の望遠鏡による中間赤外線域の観測は、現在チリで建設中の東京大学が運用するアタカマ6.5メートル望遠鏡「TAO」に引き継がれる予定である。
また研究チームでは、今回の研究で、暫定的ながら新たに見つかった、太陽活動と海王星成層圏の状態の相関の検証には、長期的な追観測が必要だとする。
ちなみに海王星は広義では、木星を筆頭とし、土星、天王星を加えた巨大ガス惑星(木星型惑星)に分類される。より詳細な分類では、天王星と共に、彗星のような氷天体が集積してできた、ガス成分が比較的少ない「巨大氷惑星」とされる。この太陽系外縁の2つの惑星は、現在までのところボイジャー2号によるフライバイ観測が行われたのみで、木星や土星のように周回探査機による調査が実現していない。そのため、次世代の惑星探査の目標として、国際的な注目を集めている。
その点からも海王星の追観測は重要となるが、その一番手となるのが、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡に搭載されている中間赤外線観測装置「MIRI」による観測であり、天王星とともに、2022年末の観測が予定されており、研究チームでも、海王星大気の化学的性質と温度について、前例のない新しい事実が観測されることが期待されるとしている。