東北大学と科学技術振興機構は4月11日、これまで電場や磁場で構成されていた、電子顕微鏡の電子ビーム集束用レンズを、レーザーなどの強力な光ビームによる「光場」で実現する、新しい手法を発案したと発表した。

同成果は、東北大 多元物質科学研究所の上杉祐貴助教らの研究チームによるもの。詳細は、光学全般を扱う学術誌「Journal of Optics」に掲載された。

電子ビームを探針として利用する電子顕微鏡は、可視光より遥かに細く絞り込むことが可能で、現在の技術で0.1nmまで可能とされている。ここまで絞り込めれば、原子一つ一つの形状を画像化することも可能となるが、容易ではなく、電子レンズ装置で生じる「正」の球面収差を、収差補正器を使って適切に補正する必要がある。

これまでの電子顕微鏡では、電極板で発生する電場または磁石の磁場を利用することで、電子レンズ装置および収差補正器が構成されてきたが、こうした収差補正器は非常に複雑で精密な構造をしているため、最高性能の電子顕微鏡になると1台あたり数~十億円と非常に高価であり、ごく一部の研究者や企業などでしか利用できない状況となっていた。

そこで上杉助教らは今回、レーザーなどの強力な光ビームによる「光場」を利用した、新しい原理に基づく電子レンズ装置を考案することにしたという。これは、光軸上で強度がゼロであるような、ドーナツ状の強度分布を持つ光ビームを集光させ、電子ビームと同軸に配置する構成だという。

光場中を進む電子は、光強度の高い領域から弾かれる向きに「ポンデロモーティブ力」を受ける。この力は、光ビームが対向して定在波を成す場合や、強く集光される場合に、特に大きくなるという。今回考案された装置構成では、ドーナツ形状の中央付近を通過する電子ビームは、ビーム軸の進行方向に対して集束する向きに、光場から力を受けるようになる。これは、光場が電子ビームに対する凸レンズ的な集光機能を果たすのだという。

  • 光場電子レンズの概要

    z軸方向(左図では手前側から奥側)に進む電子ビームと同軸上に、ドーナツ状の強度分布を持つ光ビームを集光すると、ビーム軸方向に集束する向き(右図において赤い矢印で示す向き)に、電子は光場からポンデロモーティブ力を受ける。この結果、電子ビームに対して光場がレンズとして機能する (出所:東北大プレスリリースPDF)