アドビは4月12日、サブスクリプション型クラウドサービス「Adobe Creative Cloud」を構成するアプリのうち、Adobe Premiere Proなどビデオ関連製品の最新アップデートをリリースした。
対象のメンバーシッププランを契約している会員は、追加料金なしで順次最新版にバージョンアップして利用できる。ここでは、おもな新機能を中心にアップデート内容を紹介していこう。
3年ぶりにリアル開催される「NAB 2022」に合わせてアップデート
4月24日~27日の間、米ラスベガスにおいて世界最大規模の放送・映像業界の展示会「NAB 2022」が3年ぶりにリアル開催される。アドビも同イベントへの出展を予定しており、今回のアップデートはそのタイミングに合わせたものとなる。
新機能が追加されるのは、映像制作コラボレーションサービス「Frame.io For Adobe Creative Cloud」、動画編集ソフト「Adobe Premiere Pro」および「Adobe After Effects」などのビデオ関連製品。ここでは、それぞれ注目したい機能や改善点などを順に説明していく。
Frame.ioがAdobe製品と融合
「Frame.io」は、ビデオ編集者やプロデューサー、クライアント企業など、映像制作に携わる関係者が効率的にコラボするためのファイル共有サービス。手間のかかる動画のクライアントチェックや承認などのプロセスを、クラウドベースで迅速かつ安全に行うことができるのが特徴だ。
主要ビデオ編集ソフトとの連携のしやすさやアップロードの速さが人気で、ユーザー数は100万人以上にのぼる。開発元は2021年10月にアドビに買収されてグループ会社入り。今回の「Frame.io for Adobe Creative Cloud」はその成果が反映されたものになる。
もともと、Frame.ioの機能はプラグインという形でPremiere ProやAfter Effectsなどにインストールして利用できたが、今回のアップデートでそれぞれパネルとして組み込まれ、よりAdobe製品との融和性が高くなった。
また、「Adobe Creative Cloudコンプリートプラン」と「Adobe Premiere Pro単体プラン」、「Adobe After Effects単体プラン」を契約しているユーザーは、追加料金なしでFrame.ioを使える。
従来のFrame.ioにも無料プランは用意されていたが、同時に編集可能なプロジェクトは2つまでという制限があった。Frame.io for Adobe Creative Cloudでは、そのプロジェクト数が5つに増えただけでなく、Creative Cloudのストレージとは別にFrame.io専用のクラウドストレージが100GB使用可能になるなど、かなりお得感の高いアップデート内容になっている。
遠隔地とのコラボを加速する「Camera to Cloud」
Frame.ioの特徴のひとつに、「Camera to Cloud」という機能がある。これは対応カメラで撮影した映像をそのままクラウドにアップロードして共有できるというもの。昨今の社会情勢もあって映像業界でもリモートでのコラボが増えてきているが、Camera to Cloudはそうした共同作業をよりスムーズに行うのに有効な機能だ。
たとえば、撮影者がカメラで撮影すると、その映像が直ちにクラウドにアップロードされ編集者のPremiere ProのFrame.ioパネル上に表示されるようになる。編集者はそれをローカルに取り込んですぐ編集作業に取り掛かることが可能。さらに、編集した映像を撮影者に送ってレビューを依頼し、そこでもらったコメントを確認しながら編集し直すことも簡単に行える。
アップロード、ダウンロードともに非常に高速なため、ほとんどリアルタイムでやりとりを行うことが可能。これにより、撮影者が海外に、編集者が日本にいるようなケースでも、距離に関係なく迅速な共同作業ができるようになる。
Camera to Cloudではカメラの録画データと同期したプロキシファイルを生成して使うため、ハードウェアとしてFrame.ioのAPIに対応したビデオエンコーダーと、そのエンコーダーに対応したカメラなどが必要になる。現在対応しているエンコーダーはTeradek社の一部製品に限られ互換性のあるカメラも多くないが、アドビでは今後カメラメーカーなどと協力体制をとってサポートを広げていきたいとのことだ。
より使いやすくなったAdobe Premiere Pro
Premiere Proは、ワークフローの効率化に関する機能改善や、AIと機械学習を利用した新機能の追加などが行われた。
従来のPremiere Proは、最初にフォーマットやフレームレートなどを選んでから素材を読み込むという手順を踏んでいたが、新しいバージョンでは「新規プロジェクト」ボタンをクリックすると同時に素材を選択する画面が表示されるようになった。その画面で必要な素材を選んで「作成」をクリックするだけで、シーケンスのタイムラインに素材を並べることが可能。これまでに比べて編集に取りかかるまでのプロセスが簡略化され、シンプルで分かりやすくなっている。
ヘッダーバーも刷新され、以前からあるホームボタンのほか、「読み込み」、「編集」、「書き出し」が新たに用意された。一方で、既存のワークスペースはヘッダーバー右端のメニューからアクセスするように変更されている。
書き出し画面も大きく変わり、メディアファイルやYouTube、Facebook、Twitterなどの目的別に書き出しを設定できるようになった。以前のように自分でフォーマットを細かく設定しなくても目的に合ったプリセットが選択されるため、より素早く最適化されたファイルを書き出すことが可能だ。
このほか、今回のアップデートではこれまでベータ版として搭載されていたオートカラー機能が正式版として実装された。これはAIと機械学習を組み合わせた技術「Adobe Sensei」を利用し、映像を解析して適正な色合いに自動調整してくれるという機能。スライダーで調整の強度を手軽に変更することもできる。
Apple Siliconネイティブ対応で高速化したAdobe After Effects
After Effectsは、Apple Siliconに正式対応して処理速度が大幅にアップ。レンダリングコンポジションはこれまでの2倍、M1 Macでの起動時間は最大3倍高速化している。
また、Premiere Proで好評だった、Adobe Senseiを利用したシーン編集の検出機能がAfter Effectsにも搭載された。タイムラインで素材を右クリックし、サブメニューから「シーン編集の検出」を選ぶだけで、Adobe Senseiがクリップを自動分析してシーンごとに分割することができる。
このほか、新しい拡張ビューアーも装備。フレームの外側にある2Dおよび3Dレイヤーを閲覧できるようになった。
なお、今回のアップデートは4月12日より全世界のユーザーに順次展開され、近日中にすべてのユーザーが利用できるようになる見込み。アドビではそれぞれの新機能を紹介するブログも同時に公開しているので、気になる人はぜひチェックしてみてほしい。