ヤマハは、クルマの全シートで立体音響コンテンツを楽しむ技術を開発し、「Dolby Atmos for cars」を用いたデモを自動車メーカー向けに開始した。車載オーディオ商品の新たなソリューションとして、2022年の量産化を目指す。
Dolby Atmosなどに対応した立体音響を体験できる映像・楽曲コンテンツは、従来のステレオ2チャンネルのコンテンツとは異なり、空間を積極的に活用した立体表現が盛り込まれている。しかし、音の反射や共鳴が顕著で複雑な形状をした車室内では、制作者の狙いを精度高く再現することは難しい。
ヤマハは今回、ドルビーが提供する「Dolby Atmos for cars」を用いたデモを構築し、新技術を適用した車両において、Dolby Atmosでミックスされた楽曲とヤマハ制作のウェルカム音を試聴できるようにした。開発にあたっては、ドルビージャパンと協力し、今後に向けた議論を深めているという。
計30スピーカーを配置、独自の信号処理で“音の広がり”を演出
新技術は「車室内すべてのシートで、立体音響の圧倒的な没入感を体感できるオーディオシステム」をコンセプトとしており、「立体音響を正確に再現する高音質スピーカーの最適配置」、「独自の信号処理による空間的拡がりの演出」などの技術的な特徴をもつ。
立体音響では、前後方向と上下方向から聞こえる音の表現が求められる。これをすべてのシートで実現するため、計30個のスピーカーをヘッドレストや天井部など、車室内に配置。各スピーカーには、ヤマハオリジナル振動板をはじめとするHi-Fiオーディオのノウハウを適用した。
具体的なスピーカー構成は、フロント3ウェイ×2セット、リア3ウェイ×2セット、センター×1、サブウーファー×1、Dピラースピーカー×2、天井スピーカー×6、、ヘッドレストスピーカー×8(各席2)の計30個。
立体音響のコンテンツは、各スピーカーが理想的な配置にあることを想定して制作される。しかし、車室内は足元のドアウーファーや耳元のヘッドレストスピーカーなど、リスナーと各スピーカーとの距離がさまざまであることや、スピーカーがリスナーに近いほど、聞こえてくる音に「狭さ」を感じやすいといった課題がある。
そこでヤマハは、空間的拡がりを演出する独自の信号処理技術を導入。近距離にあるスピーカーから出る音に信号処理を適用することで、距離感の歪みを解消したという。これには自社製の信号処理LSIの開発で蓄積してきた多様な技術を応用したとのこと。
他にも、車の形状や内装材などの影響により、車種ごとに異なる車室内の音響特性に対して最適なパラメータを自動算出する「パラメータ探索エンジン」を新たに開発。
同エンジンは従来の周波数特性分析に加え、人の聴こえ方に着目した分析を行うことで、適切なパラメータの組み合わせを提示する。それを基に、熟練のスキルを持つサウンドエンジニアがパラメータを最終調整することで、車種ごとに特別に仕立てた音響空間を提供することが可能になるという。
ヤマハでは立体音響のコンテンツ開発も進めている。今回のデモでは「人と車のコミュニケーションの始まりとなる乗車時のウェルカムサウンド」を制作し、車種ごとのコンセプトにふさわしい立体音響を体験できるようにした。
同社は安心・安全機能の一環として、アクセル操作や速度に連動する加速音、さまざまなセンサーが発する情報提示音を、立体的な表現で再生するHMI(Human Machine Interface)を提案している。これにより、音に方位情報を付加することで、速度や注意喚起に対するドライバーの認知が向上し、運転支援につながることが期待されているとのこと。