一強、一択のファルコン9

一方ワンウェブ側としては、スペースXのファルコン9しか選択肢がなかったものとみられる。

ワンウェブの衛星は、1回あたり36機前後をまとめてロケットに載せて打ち上げることを前提にしている。衛星1機あたりは小型だが、だからといって1機ごと打ち上げていたのでは、600機以上打ち上げるのにコストが高くなりすぎ、また時間もかかるためである。

現時点で、ソユーズと同等かそれ以上の打ち上げ能力をもった中型・大型ロケットはいくつかあるが、さまざまな理由で選択肢が少ない状況にある。

たとえば米国や欧州、日本では、従来機から新型機へのロケットの置き換えが進んでいる最中にあり、従来機はすでに最終号機まで打ち上げが決まっていたり、新型機はまだ打ち上げられていなかったり、そもそも運用段階になかったりなど、タイミングが悪い。

事実、ワンウェブは欧州アリアンスペースの次世代ロケット「アリアン6」や、米国ブルー・オリジンの新型ロケット「ニュー・グレン」とも打ち上げ契約を交わしているが、アリアン6もニュー・グレンもまだ開発中で飛行しておらず、代替にはならない。

ワンウェブはまた、米国ヴァージン・オービットの小型ロケット「ローンチャーワン」とも契約しているが、同機はコンステレーション完成後に、予備機や故障時の代替機を1機単位で打ち上げることを想定しているため、やはりソユーズの代わりにはならない。

また、中国は輸出規制などの関係でロシアと同じくらい打ち上げは難しく、インドの大型ロケットはまだ信頼性が低く、商業販売もされていない。

つまり、ワンウェブ衛星を打ち上げられる性能をもち、打ち上げ成功率が高く信頼性があり、そして発注してすぐに打ち上げが可能なロケットとなると、現時点ではファルコン9一択となってしまっているのである。

またスペースX側にとっては、たしかにワンウェブは競合相手ではあるものの、純粋に打ち上げによる利益が得られるばかりか、競合他社の衛星を打ち上げたということは、対応の柔軟さ、迅速さ、そして度量の大きさなどのアピールにもなり、打ち上げを引き受けることによるデメリットは少ない。

さらに、現在スペースXの打ち上げの多くは、自社のスターリンク衛星が占めており、新たにワンウェブの衛星打ち上げを割り込ませても、他社の衛星打ち上げスケジュールへの影響は小さい。

くわえて、ファルコン9は第1段機体やフェアリングを再使用することで打ち上げ価格の低減を実現しているが、再使用にはもうひとつ、打ち上げ頻度を高められるという利点もある。さらに発射場も複数運用しているため、急な打ち上げ依頼にも対応しやすいという事情もある。

スペースXはまた、すでに2000機を超えるスターリンク衛星を打ち上げており、世界各地でサービスも始まっている。とくに最近では、ロシアによってインフラが破壊されつつあるウクライナへスターリンクの通信端末が送られ、活用されていることでも話題となった。

一方、ワンウェブはまだ衛星数も少なく、サービスの提供も北緯・南緯50度の間の地域に限られている。そのため、スペースXにとっては現時点では実質的な競合相手ではなく、助け舟も出しやすかったのかもしれない。

  • ワンウェブ衛星の想像図

    ワンウェブ衛星の想像図 (C) OneWeb

スペースX一強への懸念

スペースXが新たな打ち上げについて、迅速に契約締結し、そして打ち上げ時期も早期に設定したことは、ワンウェブと同じように、ソユーズによる打ち上げができなくなった衛星事業者にとっても福音となり、今後新たな打ち上げ契約が雪崩を打って決まるかもしれない。

しかし、ほかに対応できるロケットがほぼないために、ファルコン9“一強、一択”になることは、宇宙業界全体にとってリスクでもある。

ひとつは、市場競争が起こりづらくなり、また“戦時対応”として値上げされることも予想される点がある。スペースXにとっては、営利目的の民間企業であることを考えれば価格の上乗せ、値上げは当然ではあるが、衛星事業者にとって余計なコストが増えることは、短期的にも中・長期的にも頭の痛い問題になるかもしれない。

また、仮にファルコン9が打ち上げに失敗するなどし、飛行が中断することになれば、その影響は計り知れない。さらに発射台が破壊されるような失敗となれば、その影響は1年以上にも及ぶことになる。ファルコン9は現在、フロリダ州に2か所、カリフォルニア州に1か所の発射場があり、冗長性の確保が図られてはいるが、打ち上げ頻度の低下は免れないだろう。

こうした「ファルコン9一強」の状況から脱却するためには、新型ロケットを開発中の各社は、予定どおりに完成させなければならない。それはまた、業界の「ファルコン9依存」からの脱却にもつながる。

現在、米国のユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)は「ヴァルカン」ロケットを、欧州のアリアングループ・アリアンスペースはアリアン6ロケットを、それぞれ今年中の初打ち上げを予定している。三菱重工業の「H3」や、米国ブルー・オリジンのニュー・グレンも、今年以降早期の打ち上げを予定する。

ただ、これらのロケットが試験飛行の段階から運用段階に移り、商業販売されるまでには、さらに数年かかる。また、初期の商業打ち上げはすでに契約済みの場合も多く、したがって世界がファルコン9に依存する状況は、少なくとも2022年いっぱいは続き、2023年にも解消するかどうか不透明な見通しだ。

さらに、たとえファルコン9依存の時代が終わっても、スペースX依存の時代は続く可能性がある。スペースX自身が、次世代ロケットとなる「スターシップ/スーパー・ヘヴィ」を開発しているためだ。

同機は1回あたり約100tの打ち上げが可能で、さらにコストは100万~1000万ドルと、現行の主力ロケットの約100分の1になるとされる。実現すれば他の現行ロケットはおろか、次世代ロケットもすべて時代遅れとなり、太刀打ちできない。

スターシップは今年中にも無人での試験飛行を行うことを予定している。なにより、ファルコン9とスターシップはしばらく並行運用され、そしてまったく異なるシステムであるため、どちらかが打ち上げ失敗などで飛行が止まっても、もう片方の運用は続けることができる。

ロシアのウクライナ侵略による世界のロケット不足という事態に、スペースXが実績も評価も上げ、そしてスターシップが予定どおりに運用開始すれば、これから何年もの間、スペースXの一強、一択という時代が続くことになるかもしれない。

はたして今後、状況がどのように変化するのか、それがロケット業界、衛星業界にどのような影響を与えるのか、注意する必要がある。

  • スペースXが開発中のスターシップの想像図

    スペースXが開発中のスターシップの想像図 (C) SpaceX

参考文献

OneWeb agrees satellite programme with SpaceX
Glavkosmos - State Commission cancelled OneWeb satellites launch from Baikonur Cosmodrome
The launch of 36 OneWeb satellites from the Baikonur Cosmodrome is a success - Glavkosmos
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