木曽義仲(青木崇高)、義高(市川染五郎)、巴御前(秋元才加)、里(『ドライブ・マイ・カー』が話題の三浦透子)など新キャラが登場し、義時(小栗旬)と八重(新垣結衣)の関係にも変化が起こる。大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)は第13回「幼馴染の絆」(脚本:三谷幸喜 演出:吉田照幸)に来て新たなターンに入った感があった。

  • 『鎌倉殿の13人』木曽義仲役の青木崇高(左)と義高役の市川染五郎

変化はカメラワークにも感じられた。例えば、冒頭の北条家のやりとり。父・時政(坂東彌十郎)が頼朝(大泉洋)にブチ切れ伊豆に帰ると言い出したところを家族が収めようとするが結果、家族のいさかいが起こるところは、時政からカメラが引いて家族を見せていくことでわちゃわちゃ感が増した。また、頼朝と話し合う義時、大江広元(栗原英雄)、比企能員(佐藤二朗)ら幹部たちや三浦家に押しかけ抗議する坂東武者たちもわちゃわちゃ感アップ。カメラを動かして大人数の連携を追いかけ有機的に見せることで演劇的な楽しみができるようになってきた。比企と妻・道(堀内敬子)の寝転がりながらの悪だくみシーンもキャラが立っている。

これは今後、徐々に“鎌倉殿の13人”という群像劇にシフトしていく準備であろうか。サッカーの試合じゃないがプレイヤーの動きが見えない糸で繋がっているのを俯瞰で観る楽しみと同じことが元来三谷作品の俳優たちの演技にはあるからそれを存分に見せてほしい。

わちゃわちゃで軽快に見せながら、第13回ではサブタイトルの「幼馴染」のエモーショナルなつながりを2組描く。頼朝の機嫌を損ね追放された源行家(杉本哲太)が頼ったのは義仲で、サブタイトルの「幼馴染」は義時と八重かと思ったら、もう1組、義仲と巴御前がいる。

巴御前は眉毛が繋がっていても気にしないたくましさだが、義仲への想いは一途。義仲はワイルドに見えてなかなかしっかり者で、飄々としている頼朝よりも頼りがいありそうだ。義仲の息子・義高も凛々しい。

義高役の染五郎は松本白鸚の孫、松本幸四郎の息子で歌舞伎界の期待の若手である。どちらかといえば彼のほうがこれまでの一般的な義経のイメージである。菅田将暉演じる義経はかなりこれまでのイメージからかけ離れている。第12回の亀(江口のりこ)の館を焼いてしまったこともかなり大胆な創作で驚いた。第13回では「戦をしないと耐えられないんだ」と地団駄踏んでぐずった末、比企夫婦の企みで現れた女性・里に目がくらみ、大事な出立に間に合わない。ひたすら残念なキャラになっている。

いったいなぜここまで義経の印象を悪く描くのだろうか。前々作の大河ドラマ『麒麟がくる』でも織田信長(染谷将太)をエキセントリックに描いていた。そこから推測するに、これまでヒーローとされていた戦で大活躍した人たちをかっこよく描くことを控えているのかもしれない。

もうひとつ言えば、『鎌倉殿』では自害する人物も描いていない。宗時(片岡愛之助)も義円(成河)も戦で活躍して死ぬのではなく無残な死に方をし、伊東祐親(浅野和之)は自害に見せて善児(梶原善)に殺された。以前の大河ドラマでは、カリスマ武将が戦で活躍したり、負けた者が自害したりするところを華々しい見せ場のように描いてきた。それが今回、戦も死も決して見せ場にしていない。それが今の時代ならでの描き方のように感じる。とりわけ、ウクライナ戦争がはじまった今、戦争や死というものをどう考えるかは大事なことだろう。

身内がすべて亡くなって孤独になった八重は、義時の土地となった江間で暮らしている。元々は前夫の江間次郎(芹澤興人)の土地だったのではないかと思うのでなんとも皮肉な感じがするが。それはさておき。史実では八重は頼朝と分かれることになると身を投げてしまった伝承が残っている。その一方で、義時と結婚した説もあり、『鎌倉殿』では八重は生き続けた説がとられている。八重が死なないのは、自害を美しく描かないようにしているのではないかという気配が濃厚になってくる。

義時が一生懸命つくし続けた結果、八重は彼の想いについに心動かす。「おかえりなさいと笑顔で言ってほしい」と言われて、笑いながらおかえりなさいとは言えないと屁理屈を言っていた八重がついに極上の笑顔で「おかえりなさい」と言うのだ。その前に頼朝がついに八重の前に「来ちゃった」と現れて、2人の仲が復活するかと思わせるが……。

あれほど頼朝に執着していたにもかかわらず八重が頼朝になびかなかったのは、義時の純粋さが彼女の心の濁りを消し去ったからかもしれない。

義時が童話『ごんぎつね』のように大量な魚や山菜やきのこをせっせと持ってくるのは若さゆえなのだろうか。小栗旬が演じているから大人に見えるがまだこのとき、義時はまだに十代になるかならないかのはず。

幼馴染に対して巴も一途で義時も一途。義時の好意を「こわい」とつぶやいていた八重が最終的にほだされてしまうからびっくり。だめとわかっていても不幸の道に流されがちな人はいるもので、八重はそういうところが少しあった。でも義時の実直な人柄に触れて不幸癖が治ったのかもしれない。

メインキャラにはネガティブな方向に向かう人物がいない。あんなにいやな感じだった亀まで政子(小池栄子)を諭すようなかっこいい女になっていたし、政子も亀の言うことを素直に聞いていて驚いた。

(C)NHK