マツダは「ラージ商品群」と呼ぶ新たなクルマを市場に投入する。「CX-60」を皮切りに計4種類の新型SUVを発売する方針で、地域に応じてさまざまなパワートレインの組み合わせを用意する。これまでのマツダ車に比べると高額な新商品となりそうだが、マツダは今後、どんなブランドを目指すのか。3人の役員に話を聞いた。

  • マツダ「CX-60」

    ラージ商品群投入でマツダはどんなブランドを目指すのか

ラージ商品群とは

ラージ商品群としてマツダは、「CX-60」「CX-70」「CX-80」「CX-90」の4車種を新たにラインアップする。ボディサイズは2タイプで、日本や欧州には2列シートの「CX-60」と3列シートの「CX-80」、北米などにはワイドボディ2列シートの「CX-70」と同3列シートの「CX-90」を投入。パワートレインは地域に合わせて最適な組み合わせを提案する方針だ。

用意するパワートレイン
欧州 電動化が進んでいる市場。直列4気筒ガソリンエンジンとモーター駆動を組み合わせたプラグインハイブリッド車(PHEV)が中心、新世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-X」やクリーンディーゼルエンジン「SKYACTIV-D」を直列6気筒化し、48Vのマイルドハイブリッドシステムを組み合わせたモデルも投入
日本 クリーンディーゼルエンジンの人気が根強い市場。直列6気筒のディーゼルエンジン(マイルドハイブリッド)やPHEVなどを導入
北米 ハイパワーが求められる市場。ターボチャージャー搭載の直列6気筒ガソリンエンジンに加えてPHEVを展開

ラージ商品群投入の狙いについてマツダ常務執行役員(R&D管理・商品戦略・技術研究所・カーボンニュートラル担当)の小島岳二さんは、「成長を続けるセグメントでビジネス、ブランドをもう一段、ステップアップさせるための戦略的な商品群。既存のお客様に加え、より上級志向の新しいお客様との絆も深めたい」とする。

  • マツダ「CX-60」

    ラージ商品群の第1弾となる「CX-60」(欧州仕様のプロトタイプ)

クルマで人生に輝きを提供する?

――マツダは2012年の「CX-5」発売を機に、イメージを刷新されたように思います。それは販売店やテレビコマーシャルのテイストからも伝わってきていて、目指すところはなんとなくわかるのですが、ラージ商品群投入ということで、改めてブランドとしてのありたい姿を教えていただけますか?

小島さん:マツダは規模を増やしていってビジネスをするメーカーではありません。200万台なら200万台を上限にしながら、ビジネスをしていきます。これまでより徐々に価格帯を上げさせていただき、収益を上げるのがひとつ。それと、人間中心や人馬一体、運転すること・移動することで人生を豊かにするという独自の価値を持つ商品を提供し、喜んでいただくことも大事です。

松本浩幸さん(執行役員 車両開発・商品企画担当、商品本部長):自動車のブランドはたくさんありますし、お客様の印象もそれぞれだとは思いますが、マツダは一言でいえば「お客様の人生に輝きを届ける自動車会社ナンバーワン」を目指します。そうした印象を持っていただけるよう、特に2012年からはやってきました。道半ばですが、ポジションを確立したいと思います。

心と体を活性化し、人生の輝きを提供するクルマ。デザインも含めてなのですが、そんなブランドとして認知してもらいたいですね。何年かかるかわかりませんが(笑)、ラージ商品群は大きな武器になると思って開発しました。

小島さん:今回は、理想像へのステップアップです。

  • マツダ「CX-60」
  • マツダ「CX-60」
  • マツダ「CX-60」
  • デザインも含め上級志向な顧客にも訴求したいという「CX-60」(PHEV、欧州仕様のプロトタイプ)

中井英二さん(執行役員 パワートレイン開発・統合制御システム開発担当):コーポレートビジョンにもあるんですが、具体的にいえばクルマを運転して、元気になっていただいて、明日への活力を得ていただきたい。そして、また乗りたいと思ってもらいたい。そんな、お客様との特別な関係を作っていきたいです。

松本さん:「走る歓び」を訴求すればするほど「運転が好きな人に向けて作っているクルマ」という印象に偏ってしまいがちなのですが、マツダは偏ったブランドを目指していません。運転好きはもちろん、運転に不慣れな人、自信のない人、免許を取得したての人、運転が不安な人、衰えを感じて心配な人など、いろんな人の心と体を活性化するクルマづくりを目指しています。

小島さん:今いらっしゃるお客様との絆を深くして、一生涯、マツダ車に乗り続けていただきたいという気持ちもあります。新世代商品群の第1世代(2012年のCX-5発売から続く一連の商品群)から乗り継いでいただいているお客様の中には、より上級志向の方もいらっしゃるのですが、その方たちが「次もマツダに乗ろう」と思ったとき、提供できるクルマの選択肢が少なかった。ラージ商品群を投入する狙いのひとつです。

――「CX-3」や「MAZDA2」などでマツダ車にデビューした人が、人生を過ごしていくうちに上級なクルマ、もっと大きくて立派なクルマに乗りたいと思ったときに、ラージ商品群が新たな選択肢になるということですね。

  • マツダ「CX-60」

    マツダのエントリーモデル「MAZDA2」

――世の中にはクルマを単なる移動手段と捉えている人と、クルマにはそれだけじゃなくていろんな価値があると思っている人がいるように思いますが、どちらがメインのお客さんになるのでしょうか。

松本さん:クルマの本質をわかっていただける方にもユーザーになっていただきたいんですが、移動手段と考えている人も実は、運転に苦手意識があって、そう思い込んでいるだけかもしれません。そうではなく、クルマって実はもっと楽しいもので、楽に運転できで、長距離を乗っても疲れず、クルマ酔いもしないと体感していただければ、クルマ観は少し変わるはずです。クルマが自分の行動範囲を広げてくれることであったり、週末のドライブで気分転換すれば翌週への意欲がわくことであったり、そういうことが結果的に、お客様の人生に輝きをもたらすご支援になるのではないかと考えています。お客様は特定せず、クルマの価値、面白さを伝えていきたいと思います。

小島さん:そういった方々にクルマに対する興味を持ってもらうことは課題でもあります。

――ラージ商品群を見て憧れを抱いても、若い人や運転初心者がすぐに買える値段ではないはずです。そうなると、入門編のクルマも両輪で大事ですね。

小島さん:おっしゃる通りです。「ライフコース」と呼んでいるんですが、シングルでマツダ車に乗り始めて、結婚してファミリーになり、やがて年を取るというそれぞれのライフステージで提供できるクルマづくりを進めています。

松本さん:マツダの強みは、全てのクルマを同じ思想で作っていることです。例えばドライビングポジションやクルマの動き、酔いにくさなどは、エントリーモデルから同じ価値を追求しています。「CX-60」で興味を持ったけどまだ手が出ないという人には「MAZDA2」や「CX-3」を選んでいただけますし、一度マツダ車を体感した方には、ステップアップする際には「CX-5」や「CX-60」を選んでいただくなど、ずっと乗り続けていただけるのではないかと期待しています。

ラージ商品のEV投入計画は?

――最近の自動車ブランドが打ち出すメッセージといえばクルマの電動化、もっといえば電気自動車(EV)の戦略がメインになっています。ラージ商品群でのEV投入は視野に入っているのでしょうか?

小島さん:マツダは2025年にEV専用プラットフォームを導入し、小型車から大型車までを一括企画します。ラージ商品群については、お客様の使い勝手を考えてパワートレインを選択しました。社会要請、規制、税性、政策などはクルマの電動化に対する要求を強めてくると思いますが、一方で、環境負荷の低減は現実的に進めていかなければなりません。その現実解として、PHEV、ディーゼル、ガソリン、MHEVというラインアップを決めました。仕向け地によって組み合わせを変えて、幅広い顧客層に対応していきたいと思っています。

  • マツダ「CX-60」

    ラージ商品群では直列6気筒エンジンやPHEVなどのパワートレインを投入していく

――PHEVは各社から出ていますが、話題になるのはEV走行の距離であったり、エンジンとモーターの切り替わりのスムーズであったりします。マツダ初のPHEVには、他社と比べてどんな特徴や強みがありますか?

松本さん:日常的な使い方であればほぼEVで走行できます(PHEV欧州仕様プロトタイプのEV走行距離は61~63kmと記載されていた)。そうしたPHEVで備えなければならない条件は全て備えたうえで、マツダの狙っている人馬一体、走る歓びをPHEVでも追求しています。

――けっこう、エンジンの存在感があるように感じましたが。

松本さん:ドライバーがしっかりと感じられるように、耳の構造から研究して、エンジンサウンドを特徴的な音で聞かせるようにしています。説明が難しいのですが、簡単にいうとピアノの和音を3つくらい重ねたような、重層的な音に仕上げました。音を大きくするのではなく、耳に感じやすい音にしてあります。エンジンの素の音と吸気の音と、それらにプラスしてスピーカーから音を足しているんです。アクセルの踏み具合に音の出方が連動しているので、エンジンとモーターがどのくらい力を出そうとしているのかが脳でわかります。無音だと、モーターがどのくらい力を発揮しているのかが脳で理解できず、扱いづらいんです。

中井さん:エンジン、モーター、トランスミッションが直列でつながっているので、(パワートレインが)頑張った分だけ4輪に伝わるようになっています。駆動力をコントロールできるレンジが広いので、ドライバーが欲しい駆動力をリニアに出せるところも特徴です。

松本さん:ウィークデーの通勤や買い物はEVのように走って、週末に遠出したり、ワインディングで走ったりするときにはエンジンがアシストする。そういうライフスタイルを志向される方にはPHEVが最適な組み合わせなのではないでしょうか。

――PHEVは家で充電できないと十分な恩恵が得られないでしょうね。

松本さん:そういう方も結構いらっしゃると思いますが、今回は新開発のディーゼル6気筒も用意しています。効率的なエンジンにマイルドハイブリッドシステムを組み合わせた力強くてトルクフルな走りと、環境にも配慮できる燃費性能を備えていますので、日常から週末まで、幅広くお使いいただけるはずです。