デジタル作画や関連技術をテーマとして、3月12日に開催されたアニメ業界フォーラム「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2022 in TAAF」。その中で、グラフィニカが「ゲームエンジンでアニメの作り方を考える」と題したセッションを公開。「Unreal Engine 4」(以下、UE4)とそのプラグイン「EPOS」を使った、新たなアニメ制作ワークフローへの挑戦を披露しました。
2021年に続き、ACTFは「東京アニメアワードフェスティバル(TAAF)」の一環として開催。2022年のセッションは全編オンライン配信となり、としま区民センターでは制作ソフトの展示などが行われました。
現行ワークフローの改善に挑戦!
グラフィニカは、新宿、阿佐ヶ谷、札幌、京都、福岡にスタジオ拠点を持つ総合制作スタジオ。代表作としては『楽園追放 -Expelled from Paradise-』、『HELLO WORLD』など。昨今はアニメでつちかった技術により、ゲームの受注も増えているとか。作画、CG、美術、デザイン、撮影、編集といった、アニメーション制作のほぼすべてのプロセスを社内で行っています。
EPOSとは、UE4で直接コンテを描くことができるPraxinos社のプラグインのこと。グラフィニカのクリエイターたちが、EPOSのβテスト参加を通じ、現在のアニメ制作のメジャーなワークフローとは異なる方法を試していくことに。それはどのような結果を生んだのでしょうか。
冒頭では、従来型のアニメ制作の現場でよく聞かれる「スタッフからの不平不満」を紹介。「絵コンテを1人で描かなくてはいけないのは孤独」「早く作業したいのに絵コンテに時間がかかり過ぎる」「コンセプトアートもない。どんなモデルにするんだ」「アニメーションをチェックしていたら絵コンテを直したくなっちゃった、出来ないけど」「必死でコンテを描いたのに、何でみんなちゃんと読み取ってくれないんだ」といった声が挙げられました。
現行のワークフローは、一方通行のウォーターフォール方式。監督・演出が絵コンテで現場スタッフに指示を出し、モデラー、アニメーター、編集などがその意図をくみとって反映し、作品が完成していきます。合理的なように見えて、実際は先に挙げた不安や不満が各部署でたまっていると明かします。
指示を出す監督・演出は孤独感、プレッシャーを感じ、1人で考えているとアイデアも枯渇していきます。その指示を受ける現場は、「時間がない、指示が分からない」と追い詰められ、クオリティの責任を放棄してしまうことも。その結果、同じ作品を作るために集まったスタッフ同士が敵対してしまう……なんてこともあるそうです。
EPOSを使った新しいワークフローは、ウォーターフォール式とは真逆のアジャイル式。新ワークフローのテストでは、既存の現場の不満を改善できたとのこと。なぜでしょうか。
テストチームでは、まずシナリオ、イメージボードを作成。次に、監督・演出もひとつのパートに組み込み、モデラー、アニメーター、編集などと一緒にプリビズを作成していきました。
今回テストに参加したチームでは、あくまでディスカッションの材料としてプリビズ制作に取り掛かりました。
プリビズディスカッションには、原則として全スタッフが出席。各パートから上がってきた制作物に対して、ポジションの垣根を超えて意見することを目指しました。もちろん監督・演出家に対してもフィードバックし、「このカット割はおかしい」「不要ではないか」といった意見も出た様子。スタッフは「有意義な情報交換ができた」と振り返ります。
合意、共有のもとでプリビズはどんどん変化していきます。今回の取り組みではこのイテレーション(周期)を3度、繰り返してプリビズを完成。試行錯誤を繰り返したことで、1人の演出家では思いつかなかったアイデアを取り込めたほか、その過程をチーム全体が共有したことでプロダクション工程でスムーズに同じ目標に向かって進んでいけたため、「メリットは大きかった」そうです。
EPOSの導入に関しては、「全員が同じタイムライン上で、スピーディに共有と議論を繰り返すため、これらすべての要素がひとつのツールにまとまっているのは都合が良かった。EPOSを用いたから、最初の絵コンテからUE4上に描け、絵コンテ、モデル、アニメーション、編集情報などすべての情報をUE4上のシーケンサーにまとめられました」と評価しました。
なお、プリビズ作成については「詰め込みすぎないほうが良い」といいます。「アジャイル方式のプリビズ作成は、あくまでディスカッションの材料。改善、作り直しを前提したものなので、実現可能なレベルの内容で良いんです。作業途中でも、絶対にディスカッションを行う。大事なことはプリビズそのもののクオリティではなく、スピード感。一定の完成度に到達していなくても、早い段階で全体像を共有して改善していくことに目的がありました」。
一方、演出を担当したスタッフは「従来のウォーターフォール方式のように、上で何が行われているのか分からないまま指示が下りてくる流れをやめて、初期からメインスタッフの間で意見交換しながら映像の方向性を決めていきました。大まかな世界観が決まり、主人公が旅立つところまで約1分間で収めること、キャラクターの魅力をどう見せていくかなどをスタッフ間で協議。シナリオ自体も、イテレーションのたびにブラッシュアップしたので変更点が多数ありました。こうした柔軟な修正は、UE4とEPOSを活用したからこそできたと感じています」と振り返りました。
EPOSはワークフロー改善に「メリット大」
EPOSに関して、今回のテストにおいて「活用のメリットは大きかった」といいます。「既存の絵コンテソフトでは、あくまで絵コンテなどの作業しかできません。EPOSではUE4上に絵コンテを描けるうえ、編集、音入れもできる。これまでフル3D作品を作るとき、かなりの数のソフトを経由していましたが、UE4ではほぼそれだけで完結できる強みがありました」と語りました。
セッションの終盤には、完成したムービーを上映。絵コンテからどのように映像が生まれて進化していったのか、変化の過程まで披露。なるほど、絵コンテの世界観がそのまま表現された場面もあれば、大胆に修正が加えられた場面もあったようです。
今後の可能性について「これまでのウォーターフォール方式ではない、この新しいワークフローの精度を上げていくとともに、EPOSやUE4を活用して、スタッフと最初から最後まで映像作品を作り上げるという、今まで実現できなかった制作体制を構築できるよう、次のステージを目指して検証していこうと思います」と総括。今回の取り組みに、大きな可能性を見出した様子でした。
今回のβテストの報告は、2022年2月開催のオンライン勉強会「UE4 Manga Anime Illustration Dive Online」でも披露されていましたが、本セッションのラストでは「おまけ」として、UE4で行うネットワークレンダリングの方法を解説。作業用PCをレンダリングで長時間占有しないための試行錯誤を明かしました。
複数台のレンダーサーバーがあれば、複数のカットも一度にレンダリング可能。ただし、レンダリング用マシンの構成を一致させないと出力結果がばらつくおそれがあるそうです。