社会人になると、「とりあえず保険に入っておかないと……」と思って、保険会社の人に勧められるまま保険契約をしてしまう人がいます。「周りが皆入っているから自分も」という意識で加入する人もいるでしょう。しかし、ここは一旦立ち止まって、「その保険は本当に必要か」という問いから始めましょう。

FPから新社会人に向けて、「入ったほうがいい保険、入らなくていい保険」について解説します。

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■サラリーマン「社会保険」の保障はこんなに多彩

新入社員として入社すると、自動的に社会保険に加入します。健康保険と厚生年金保険、そして労災保険です。つまり、保険会社の勧誘を受けると、すでに加入している保険の上に保険をかけることになります。まずは、社会保険という今入っている保険の保障内容を理解しましょう。

1.健康保険

*高額療養費

ひと月の医療費が高額になった場合に、所得に応じて決められた自己負担額を超えた分が高額療養費として払い戻される制度です。つまり、どんなに医療費がかかっても自己負担限度額以上支払うことはありません。ただし、差額ベッド代や食事代、先進医療の技術代などは健康保険の適用とはならないため、全額自己負担となります。

年収約370万円までの人であれば、5万7,600円が自己負担限度額となります。

<ひとことアドバイス>
若いうちは、病気やケガで入院する確率は低く、高額療養費制度もあることから、医療保険の必要性は低いといえます。ただし、まったく貯蓄のない人は掛け捨ての保険料が安い医療保険に入っておくと万が一に備えられます。

*傷病手当金

病気やケガで仕事を3日以上休み、給料が支給されない場合に、4日目から給料の3分の2が健康保険から支給されます。最長で1年6カ月(同じ疾病での休業の場合)支給されます。

たとえば、病気で20日間会社を休んだ場合、月給が27万円(直前12カ月間の標準報酬月額が27万円)であれば、日額9000円の3分の2である6000円×17日分=10万2000円が支給されます。

<ここがポイント>
傷病手当金は民間の保険でいうと、就業不能保険や所得保障保険にあたるものです。医療保険は入院や通院、手術などの支払事由がないと給付金は受け取れませんが、傷病手当金は自宅療養でも給料の支払いがなければ給付金を受け取ることができます。

2.厚生年金保険

*老齢年金

老後に年金をもらうための保険です。将来もらえる年金額に不安を抱いて、個人年金保険の加入を考えている人もいるでしょう。厚生労働省の「令和2年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金受給者の平均年金月額は14万6145円となっています。

<ひとことアドバイス>
老後の備えは若いうちから考えておく必要がありますが、個人年金保険の前に企業年金や税制優遇があるiDeCo(個人型確定拠出年金)、つみたてNISAなどを検討してみるといいでしょう。個人年金保険も保険料控除がありますが、iDeCoは掛金が全額控除となるので、より税金を軽減できます。

*遺族年金

遺族年金は被保険者が死亡したときに、残された遺族が生活できるように、遺族に支給される年金です。民間の保険の死亡保障にあたるものです。

<ひとことアドバイス>
新社会人の場合、家族を扶養している場合以外は死亡保障はいらないでしょう。死亡保障は家族を持って、子どもができたときに考えましょう。

*障害年金

一定の障害状態になったときに支給される年金です。障害等級1級または2級の場合、障害基礎年金が支給され、厚生年金加入者は1級または2級の場合は、障害基礎年金と障害厚生年金の両方、3級の場合は障害厚生年金のみ支給されます。

障害基礎年金の障害等級2級の額は老齢基礎年金の満額(77万7800円/令和4年度)と同額です。障害等級1級は2級の額の1.25倍です。子がいる場合は子の加算があります。

<ここがポイント>
生命保険では、高度障害状態になったときに、高度障害保険金を受け取ることができます。障害年金はこれに代わることができますが、障害年金を受け取るための障害等級の認定要件と保険約款に定める高度障害状態は異なります。高度障害状態の方が条件は厳しい傾向です。また、障害年金は就業不能保険の役割も果たすことができます。

3.労災保険

業務上または通勤途中に、負傷、疾病、障害、死亡した場合に保険給付が行われます。労災の補償の対象となると、療養の費用の自己負担はありません。また、休業時の手当は、健康保険の傷病手当金よりも手厚い補償となっています。

<ひとことアドバイス>
自営業やフリーランスは、原則として労災の対象ではありません。そのため、万が一の保障は自ら加入する保険でカバーしなければなりません。会社員などの雇用者はこの点でも恵まれており、さらに保険をかける意義は薄いといえます。

  • 社会保険で備えられる保障

■入ったほうがいい保険

ここまで社会保険について見てきましたが、それぞれの保障がどんなものか理解できたでしょうか。それを踏まえて、入ったほうがいい保険は、社会保険ではカバーできない保険です。つまり、損害保険会社が取り扱う保険(人ではなく、ものにかける保険)です。

火災保険、地震保険、自動車保険、個人賠償責任保険などがそれにあたります。これらの保険は家を借りたり、車を購入したりすると強制的に加入となるケースがあるので、意識せずに入っている場合もあるでしょう。また、オプションで付けられる補償もあります。 特に自転車に乗る人は自転車保険が有用です。自転車で他人にケガをさせて、数千万円以上の賠償金を請求される例があるからです。保険金額1億円の補償が月額数百円で得られるなど、手軽に入ることができます。自動車保険や火災保険のオプションで加入できる場合があるので、確認してみましょう。

■入らなくていい保険

社会保険でカバーできる保険は無理に入る必要はありません。医療保険、生命保険、個人年金保険などが該当します。貯蓄性のある生命保険や養老保険なども必要性は高くありません。貯蓄と保険は切り分けて考えましょう。貯蓄性の高い商品がたまたま保険だったということなら加入してもよいでしょう。

入らなくてもいい保険としてあげたものでも、条件が変われば必要となってきます。家族を持ったときや会社を辞めたとき、健康に自信がなくなったときなどです。保険に加入することで安心感を得られる場合もあります。その際も、公的な保障の不足分を補うために民間の保険に加入すると考えましょう。そうすることで保険料の負担が減り、その分を貯蓄に回すことができます。